年末年始から都会ではさらに感染者急増、長らく感染者0が続いていたわが県でも年始から帰省土産コロナにはじまって随分感染者が増えに増えて「同僚の家族が濃厚接触者」ぐらいの身近さになりました。エヴァも公開延期になったし落ち着くまで引きこもって本を読んで配信ライブを見ようかという今日この頃です。田舎なので入院170人で病床使用率50%超えてしまう。
今年のやりたいこととしてグラフィックレコーディングとカリグラフィがあってここでやることにしました。
まあでかいポップですね!
それでもあなたは回すのか 紙木織々
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お仕事小説のいいところは「こういう感じなのかなー」って職業疑似体験できるところだ。本作はソシャゲをたしなんでいる人が読むと、いつもやってるソシャゲの運営会社の苦労が垣間見れる。
文学部卒の友利晴朝(「はるとも」なのであだ名はハト)は株式会社アローンズゲームスの内定をゲットした。ハトの所属は業界では花形だと呼ばれる「自社運営のソシャゲチーム」第1事業部の2チームの片割れ、「アローンズゲームスで最初に売れたソシャゲ、8年経った今は赤字を垂れ流すサービス終了待ったなし」の「タクティクスソウル」チーム。プロジェクト名から「タクト」と呼ばれる方だ。
ソシャゲをやっていると深夜帯から緊急メンテナンスがはじまることもあり、中の人の心配をしてしまうが、ハトの会社はかなりホワイト企業だ。ハトはプランナーとして入社して教育係の安村さんから、不安点を聴取したうえで「いずれはユーザーサポートもやってほしい。そのためにはまずユーザーと同じ目線に立つ必要があります。あなたの仕事はまずタクティクスソウルをプレイすることです。具体的にはこれを達成してください」とリストが渡される。残業しようとするそぶりを見せようものなら「今はそんな急ぎの仕事を任せていません。残業は翌日の仕事に支障を与えます。何か理由があるなら傾聴しますが?」と定時退社を求める。トラブル対応時など、何事も例外があるのだが。
私のソシャゲ経験は片手で足りる程度の経験値だけど、それでもサ終(サービス終了)はいくつか経験している。サ終前の運営はこんな感じなんかなーと思って読んでいたら作者の方もハトと同じ「ソシャゲ開発会社のプランナー」であることを知った。となると作中のあのインシデントのあれは実体験もしくは本当にあった怖い話の可能性が? と思うと頭が下がる。雑談って重要だなと思う一作。
電子書籍:○
忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む 辻村七子
[amazon asin=”4086803542″ kw=”忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む (集英社オレンジ文庫)”]
ガブリエーレは20年ぶりにイタリア・フィレンツェに降り立った。ガブリエーレは幼いころから「黒いもや」が見えていた。他の人間には見えないと言われていたが唯一パオロだけは自分にも同じものが見えていると、お前は1人ではないと肯定してくれた。そんなパオロが病院の裏手で倒れており今も意識不明の状態だ。ガブリエーレはパオロが話してくれた「これは秘密だけど自分は神様の手助けをしているんだよ」と言っていたことからパオロの裏稼業に辿り着き、自らを「かっぱ」と名乗る半吸血鬼とともに事態の解決に乗り出す。
宝石商リチャードが好きな人にはちょっと読みづらいかもしれず、デビュー作螺旋時空のラビリンスが好きな人は好きかもしれない。
電子書籍:○
ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。haru
[amazon asin=”4309249639″ kw=”ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。: 解離性同一性障害の非日常な日常”]
これは「解離性同一障害」いわゆる多重人格について扱った本だけど、医学書ではない。創作でもない。これは現実に存在した、その疾患を抱えた当事者による本だ。
「疾患の治療法」「付き合い方」などは書かれてない代わりに大変読みやすく気軽に読める。
haruさんには12人の別人格があった。この本は別人格のすべてについて紹介されているが、本文中で語り部として登場するのは主に3人の人格だ。主人格のharuさんはあとがきに登場する。どういう風にして人格が生まれ、1日の動きがどうなっていて、診断名がつけられるまでにはどんな道のりがあったのか。そういうことが語られている。
あくまでもこれは症例のうちのひとつである。解説の精神科医岡野医師も書かれているが、発症の原因として語られがちな虐待の話は登場しない。破壊的で黒幕的な人格も存在しない。幸福な事例だったのだろうと思う。
haruさんは「直接会える解離性同一性障害の人」として活動されていたが、去年この世を去った。技術を悪用されtwitterアカウントは凍結されごく一部の文章がnoteなどに残されているのみだ。
この本を紹介したのはこういう人と交代人格たちが存在したこと、「人間には等しく24時間が与えられている」が当てはまらない人たちが存在することを誰かに伝えたいためだ。
20210315追記:haruさんは生きていた。なりすましではなく本人である。つい先日オンラインでの活動を再開された。当時「haruくんは遠い所へ行きました。ありがとうございました」とお友達からのツイート及び画像、予約投稿されていたと思われる遺書めいたエントリが上がっていた。しかし「遠いところ」には行っていたのは事実のようで、前と同じではない様子。
電子書籍:○
ダンシングプリズナー 遊木ユウ
[amazon asin=”4086803585″ kw=”ダンシング・プリズナー (集英社オレンジ文庫)”]
2020年度ノベル大賞準大賞受賞作品。ざっくりいうと「特殊設定の全寮制男子校ジュブナイル」。
どんな風に特殊設定かというと舞台は少年院で、でも普通の少年院と違って「演劇を通じて自律と協同を促す」月1ペースで舞台をやっている少年院だ。
舞台に向けての準備は毎日あり、直前になるとそれにかかりっきりになり公演に関することであれば院生はある程度自由に動くことが許され会話もOK、なんならトンカチのような武器になりそうなものの使用許可もある。すべては公演のため。本格的な舞台の上演は目標とせずあくまで過程が大事だとされ、「普通の演劇より感動できる」と一般人のリピーターもいる。
この少年院に入所してくるものは無作為に選ばれるため、年齢も犯罪歴もばらばらだ。
主人公は神連唯(かみつれ ゆい)14歳。3度の脱走を図り失敗して反省文を書かされているところから物語始まる。彼の罪名は殺人。ただし彼は無罪の罪でこの少年院へ送られてきた。
曼珠沙華煌(まんじゅしゃげ きらめき)という周囲の人間を惹きつけてやまない少年が入所してきたころから神連は徐々に変化していく。
神連が殺した相手とされている父親を殺した真犯人は、という話に流れていくけどその辺はハウダニット(どうやって殺したのか)に割かれていてこっちも「結果より過程が重要」って感じ。
オルタネート 加藤シゲアキ
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2021年直木賞・本屋大賞ノミネート作。
オルタネートという「高校生限定個人認証済実名マッチングアプリ」が一般的な現代日本の、円明学園高校での群像劇。青春は大体キラキラしている。
私が高校生だった時というのはアプリどころかガラケーすら一般的な存在ではなく、ごく限られた人間だけがポケベルを持ち歩いているような時代だったけど、手段が違うだけで変わらないものもある。例えば文化祭とか部活とか。
本作は群像劇だ。料理の甲子園的な配信型コンテスト番組「ワンポーション」に出演したい調理部3年生の蓉(いるる)、オルタネートに詳しいガチ勢。でもアプリを通じて誰とも会ったことはなく、オルタネートが提案する「あなたと相性のいい人」90%以上の人が現れたら、その時初めて会おうとと思っている凪津(なづ)、高校を中退しオルタネートはもう使えなくなったが弟のアカウントを使って昔の友達を探し円明学園高校に忍び込んだ尚志(なおし)
この3人を中心に物語が動く。長編だけど視点移動に伴い細かく章分けされているのでちょっとずつ読み進めるのにも向いており、身近なテーマ(高校生の青春)なので本を読みなれない人にもおすすめ。
電子書籍:×(2021/1/25現在)