カテゴリー「 紹介 」の記事

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光のとこにいてね 一穂ミチ

幼少期から30代にかけて出会いと別れを繰り返す2人の女性の物語。

医者の家に生まれて、複数の習い事で多忙な毎日の小学校2年生の小瀧結珠はある時から毎週水曜は「母と一緒に団地に行く」という生活をしていた。ある日5階のベランダで隣室のベランダをのぞき込もうとしている同じ年ぐらいの女の子と出会った。ぼさぼさ頭に原始人みたいな服を着たその子は「校倉果遠(あぜくらかのん)」と名乗った。
結珠と果遠はそれから毎週水曜日、結珠の母が用事を終えて出てくるまでの間団地の公園で一緒に遊んでいた。結珠は果遠に父がいないことに驚き、自然派に傾倒した母の意向でエビフライもハンバーグも食べたことがなく、シャンプーも使わない生活に驚いていた。
お互いの家の「お母さん」の話をしたり時計の読み方を教えたりして、待ち合わせ場所で「光のとこでいてね」と約束して、2人はぱたりと会えなくなってしまった。

2回目に出会ったのは結珠と果遠が高校生に上がった時だ。
S女の制服は高校になると急に野暮ったくなると評判で、おそろいのださい制服が一堂に会した場所に現れたベリーショートの美人が8年ぶりに会う果遠だった。
果遠は小学生の結珠が着ていた制服だけを手掛かりにS女の外部入学という狭き門(1学年15人)を突破してやってきた。結珠もまた一目で果遠の存在を気付いた。
果遠の一途さに結珠は胸を刺すような痛みを感じていて、果遠は結珠からもらったものを支えにしてままならない環境で生き抜いてきた。

再び仲良くなれたと思った2人はまた母の都合で引き裂かれることになる。

あなたへの挑戦状 阿津川辰海・斜線堂有紀

読み終わってからああそういうことねと思った1冊。阿津川辰海・斜線堂有紀による競作。
阿津川辰海「水槽館の殺人」
「水槽館の殺人」は1階から3階まで水槽が埋め込まれたゲストハウス「アクエリアム」で起こった殺人事件。節ごとに「さあこの謎を解いてみろ」と静かに煽るエピグラフがあって、館の見取り図があって、遺体付近の図があって、密室殺人で、ときめくやつである。
斜線堂有紀「ありふれた眠り」
優秀な妹と僕。僕(一寿)と千百合は互いを異物のように扱ういびつな兄妹だ。
妹を避け続けひとり暮らしをしている僕のもとへ千百合がやってきた。千百合は芸大を受験するという。家族にはゲーム会社に勤めていると言っている僕(実際はホテル勤務)はどうすれば妹にばれないかということを考えていた矢先に勤務先で殺人事件が発生した。

競作執筆日記
小説家がどのようにして視点が生まれ作品を作るかということに焦点を置いた日記を書いている。余談だがこれを読んでいたのが、「誰かの日記が読みたい」と言ったすぐ後だったのでその欲が満たされた。

私は電子書籍(kindle)で読みましたが、紙書籍だと袋とじもあるようです。

すずめの戸締まり 新海誠

今話題作の映画の、ノベライズ版です。映画を見た人にもとってもおススメです。
ですがこの映画は「地震」「緊急地震警報」「津波の後」等のシーンがそれなりの頻度で登場するため、東日本大震災及び阪神大震災でつらい思いをされた方にはあんまり「見てください」とは言えない映画です。
Amazon Primevideoで冒頭12分が公開されています(津波後を彷彿とさせるシーンも緊急地震警報に類するアラームが鳴り響くシーンもあります)ので、行ってみたいけどちょっと怖いという方はそちらでお試しください。
この小説版のいいところは「あのシーンはどういうことだったのか」「あのキャラ造形はどうだったのか」「作品のバックグラウンド」について視聴者の考察ではなく公式情報のひとつとして知れることです。
例えば草太が受けるはずだった試験、芹澤がオープンカーで流していた曲について、絵日記はなぜ黒く塗りつぶされたのか。
「映画もう1回見たい」と思える小説版です。マクドナルドのハッピーセットのおまけとしてもらえる「すずめといす」もあわせてご覧ください。

#推しが幸せならOKです 常世かくり

魔法のiらんどからの書籍化。
社会人2年目の疲れたOLがとある金曜の夜、酒とつまみを買い込んでテレビを見ていたら衝撃的なニュース速報が流れてきた。
ムーンプロダクション所属の女性アイドルグループ、coc9tail(カクテル)が年内で解散するというニュースだ。そのニュースは瞬く間に広がり、SNSのトレンドは1位が「coc9tail解散」、2位が「王子大丈夫」だった。
王子とはデビューから1年でのぼりつめた国民的人気俳優、柊美聖(ひいらぎ みさと)のことだ。美聖はcoc9tailのセンター黛息吹(まゆずみ いぶき)のガチオタだった。
あらゆる場で息吹への感謝を口にし、確実視されていた紅白歌合戦では審査員席ではなく客席でcoc9tailのパフォーマンスを見た後拝むようにして泣き崩れていたところが抜かれ、SNSのアイコンは息吹のことしかつぶやかないし、俳優のアカウントというより息吹オタのアカウントにすぎなかった。

この物語は黛息吹のトップオタ、柊美聖が崇拝の対象だった息吹を人間の女性として見られるようになるまでのラブコメです。視点は基本男性(美聖)側で、時々は美聖のオタク視点もあり。
最近はジャニーズ事務所所属のアイドルがオタク趣味を隠さない事案(むしろそっちの仕事をとってくる)が結構ありますけど、あんな感じで、普段推される側にいる顔のいい男が推しを前にしてオタク文法で喋っているのは実に「令和の俳優×アイドルのラブコメ」だなあと思います。

殺し屋ダディ 栗原ちひろ

柳生哮(りゅうせい たける)と我藤朝比(がとう あさひ)は今は亡き殺し屋組織のボスだったオヤジの忘れ形見の4歳児犬星三也(いぬぼし みや)を育てることになった。
オヤジは偉大だった。オヤジは政治的に、もしくは街の治安に関わるデカい殺しだけを請け負ってきた結果誰が誰を殺したがったのかそれはそれはやばい「死者のリスト」が残り、オヤジの死後、そのリストは三也に受け継がれ、そのリスト争奪戦が発生するとみられた。
ただ、三也は「殺しは一切不可」ということを4歳児の語彙全力で伝え、柳生と我藤は「普通の3人家族」の生活を強いられる。
かくして東京と埼玉の県境の団地で、幼稚園への送り迎え、ごみ出し、料理、時々物騒な戦いが始まる。
物語には描かれていないことだけど、朝比は絶対山本ゆりさんのレシピをめっちゃ参考にしているということです。

スターリッシュツアーズで踊り、体調不良でくたばっていたらあっという間に9月が終わろうとしている。

地方ではそろそろ上映回数が減っている頃と思いますが、まだ絶賛上映中なので「そういえば10年ぐらい前ニコニコ動画でマジLOVE1000%をよく見てたよ」みたいな人はぜひ令和のマジLOVE1000%をご覧いただきたいです。

千年鬼譚 緋色の鬼神と転生の乙女 神尾あるみ

農学部2年生の鈴鹿涼音は両親を亡くし、真面目に大学に通う傍らバイトや何でも屋稼業にも精を出している。彼女には時間がかかっても買い戻したいものがある。今日ようやく2番目の夢に手が届いた。質入れしている数々のものから鈴鹿家の家宝の剣を再び手に取ることができた。
愛車のカブで帰宅中、一方通行の狭い道を猛スピードで駆けてくる黒バイクに遭遇し間一髪事故を逃れた。が、対向のバイクから転がり落ちてきたものを見て涼音は息を呑んだ。
角が生えた生首だ。生首は千年の眠りについていた自称平安最強の鬼神大嶽丸だという。
衝撃の出会いから一夜が明け、涼音の自宅までやってきた昨日のバイク男の襲撃を交わし、自分が首を斬られたのは鈴鹿山だが体はこの近辺にあるという大嶽丸の言葉のままに横浜の街を駆り2人はついに大嶽丸の体を探し当てた。
それは同時に新しい事件を連れてきた。
警視庁公安部を名乗る男女が現れ大嶽丸を再び封印すると言い、大嶽丸1000年前に自分を殺した女が涼音で、大嶽丸の体に刺さっている短剣は、前日に涼音が買い戻した剣と同じ鉄で作られた姉妹剣だという。

ここがメインではないんだけど、「過去を取り戻す」ことに集中して衣食住すべておざなりになっていた涼音が、意外と手先が器用で凝り性でセンスがある大嶽丸と過ごすことで変化していく様子が良かった。具体的にはシンカンセンスゴイカタイアイスを食べるシーン。

マーブル 珠川こおり

都会にあこがれて一浪してまで入った都内の大学に通う茂果(もか)の毎日は思っていたようなものではなかった。友達は少ないしその少ない友達のひとり、由紀ともうまくやれていない。友達と過ごすぐらいなら家族との時間を増やしたい。上京して足の悪い祖母と弟の穂垂(ほたる)と暮らす毎日だ。
穂垂はアニメの「ヒライス」が好きで、絵を描いてはTwitterにあげている。茂果はアニメのことはよくわからないが、穂垂の絵は好きで毎日見ている。ある日由紀から「好きな絵師の別アカが腐向けで逆カプだったんだけど、この解釈は最高すぎるわ」と見せられたイラストの絵柄がどう見ても穂垂のそれだった。穂垂がBL好きだったとは知らず混乱しながらも本人に直球で聞いてみた。
本人に聞いてみるとあっさり「茂果ちゃんが知ってるアカウントはオールキャラ用でメインは腐向け」だと答えた。
以降茂果の心境は穏やかではない。由紀は腐女子だし、恋人の朗はバイだ。何にも気にしてなかった。それがいざ弟がBLを好み、自らも生産するタイプのオタクだったと知ったら「弟は同性愛者なのだろうか。弟には普通に女の子と付き合って結婚して普通の幸せを手に入れてほしい。男が男を好きになったらもう救いがない。子どもは生まれないしこの先はない」と驚くほど視野狭窄になっていく。
私は穂垂側の人間なこともあり、茂果の発想や言動は押しつけがましいと感じるんだけど、この感情はどこに行きつくんだろうと思って最後まで読んでしまった。
ちなみに穂垂と由紀が大好きなアニメこと「ヒライス」は既刊18冊の漫画原作のアニメで、どういう作品で穂垂の推しカプがどういうものなのかかなり描写されるので、「知らないアニメの布教を受ける」感覚を体験することができる。

「行動制限のない夏」と言う単語を毎日のように耳にしている。年に1回、お盆の4日間だけ全国に名だたる観光地になる我が県は「最高に楽しい4日間」と並行で「地獄のふたが開いたような感染爆発」が発生した。現地絶対楽しいけど、明らかに危険であろうと想定できる場所へ赴くリスクを背負えない私はお盆は引きこもったまま暮らし本を読み漁っていた。
そんないろいろな夏の物語の詰め合わせが今回です。

汝、星のごとく 凪良ゆう

青野櫂と井上暁海、17歳。瀬戸内海の島で暮らしている2人の人生と、恋愛の物語だ。
櫂が生まれてすぐ父は胃がんでこの世を去り母子家庭で育った。母は男なしでは生きられない女で、恋人がいる時は息子でさえ放り出し、捨てられては泣き暮らすを繰り返している。今回も京都から男を追って櫂を連れて引っ越してきた。島唯一の、あからさまな水商売の家の息子だ。漫画を描くことを世界とつながっている。
暁海の父は浮気をしている。3年目の今年はついに父が家を出て、少しずつ家に戻らなくなり今は全く戻ってこない。相手は東京からきた人で今治で刺繍作家をやっている。専業主婦の母は暁海に「お父さんの様子を見てきて」と言いつける。
そんな2人の出会いから恋愛に発展するまで、恋人になってから、高校を卒業した後の生活について、2人の視点を交互に行き来しつつ長い時間が描かれる。
「自分で自分を養える、それは人が生きていくうえで最低限の武器です」と口を変えて語られ、真正面から男女の恋愛を描きつつ、これまでの凪良作品のように多様な家族の形を描いている。
夏に始まって夏に終わる物語だ。

深夜0時の司書見習い 近江泉美

八月最初の週末、美原アンは東京から札幌へやってきた。「籾さんが遊びにおいでと言っているから期限付きでホームステイしておいで。お父さんはお母さんに会いたいから上海へ行くよ」と送り出されたものの、汗だくで辿り着いた籾さんちでは、そんな約束はしていないと一点張りで突っぱねられた。気さくでいい人と聞いた「籾さん」は人相が悪いぶっきらぼうな青年セージひとりのみで、「図書屋敷に参られたし」と書かれたメールを見せた途端にセージはさらに強い口調で帰れとはねつけた。
同居のノトとリッカ夫婦がとりなし籾家で滞在が決まり、セージは「図書館にネットにつながるものの持ち込み禁止」「夜は部屋から出てはいけない」「猫の言うことを聞いてはいけない」と3つのルールをアンに厳命した。
異変があったのはその夜だ。
夢の中だと思った。アンは「仕事の時間だ」としゃべる猫に先導されるがままに鍵を手にして、不思議のアリスよろしくエプロンドレスを身に纏い図書迷宮に降り立っていた。
表側の世界、モミの木文庫所蔵の本が読まれることで裏側の世界「図書迷宮」の世界は変化する。愛読者がいる本は登場人物や著者の姿かたちが明確になって、図書迷宮で闊歩する。逆に読者が少ない本は存在が希薄になって灰色に溶けてしまう。
アンはこの「モミの木文庫」、近隣住民からは図書屋敷と呼ばれる私設図書館でしばらく司書見習いとして働くことになった。本を読む楽しみを知るビブリオファンタジーかと思えば、思わぬ展開に話は展開しきれいに着地する。ジブリ版耳をすませばの作中作が好きな人はたぶん好きだと思います。
ひと夏の冒険譚で、SNSの登場の仕方が現代風。

サマーサイダー 壁井ユカコ

幼い頃は三浦誉と倉田ミズは恵悠の子分だった。
3人の関係は緊張感をもったものになったり子分ではなくなったり形を変えつつも高校になった今も続いている。廃校になった中学校に残った備品の整理に最後の世代がかりだされ、最終的に残ったのは誉と悠とミズの3人。
3人が過ごした教室は卒業式の雰囲気をまだ残していた。2次会の出席や落書きが残された黒板を見ているとクラスメイトの声が聞こえてきそうなものの、室内は蝉時雨で満たされている。
干からびて花瓶に貼り付いた花が教壇に置かれていた。夏の日に教員宿舎で変死体として発見された担任に手向けられた花だ。3人の中学校の時の担任は「僕は蝉の幼虫なんだ」と蝉に傾倒した佐野青春という変わり者だった。
ひと夏の青春ホラー。

花は愛しき死者たちのために 柳井はづき

2021年ノベル大賞準大賞受賞作。

硝子の棺で横たわる死せる乙女エリス。彼女は決して朽ちることなくその美しさをとどめている。
エリスの棺がいつからあるのか、素性も没年もなぜ腐敗しないのかなぜ死んだのか、エリスに関することは一切不明だ。エリスの棺はカロンと名乗る黒衣の男によって運ばれ、金色の鍵とともに姿を見せる。
ある時は親を知らず先代の墓守とも死別した純粋な墓守の青年ヨゼのもとへ
ある時は成金貴族の子息セドリックのもとへ
薔薇を摘んで香水を作る家で育ったドロテの近くへ
カロンに絵のモデルを頼んだギルベルトのもとへ
エリスは何も語らず硝子の中でただ横たわるのみ。またひとりエリスに狂わされた者が命を落とす。

特に受賞作にして表題作「花は愛しき死者たちのために」は宗教に対して教科書程度の知識しかない一般人(わたしのことです)が考える「カトリックの世界観」で描かれていて、信仰が生活に根付いている物語だと感じた。
エリスにささげる花を買いに行ったヨゼが「花ならマルガが売っている」と言われて春を売る方の「花売り」マルガのことを知る。ヨゼは造花を買うためマルガのもとへ通うようになる。
とにかく物語を読ませる能力がすごく強い。

わたくしSound Horizonのファン歴19年目の人間ですが、Elysion~楽園幻想物語組曲~、特にエルの肖像がよく似合うと思います。ああいう感じが好きな人は多分好き。
2021年ノベル大賞受賞者 一問一答を読んだところ、「怪奇・幻想・耽美な雰囲気のある作品が好き」とのことで1期曲は相性がいいと思います。
それはそれとしてダークファンタジーが好きな人はぜひおすすめ。

後宮不美人 鈴生庭

これはちょっと帯のインパクトがすごいので読むことにしました。


ちなみにまだkindle版はありません。

目が覚めたら可愛い女性が心配そうにのぞき込んでいた。そんなはずがない。自分は死んだはずなのだ。

コンプレックスの塊の正規は浪人中で、東大に入学したらクイズ王になって在学中に司法試験に合格して検事になると息まいていた。しかし改札を出て歩きスマホをしてしまっていたところ交通事故に遭い命を落とした。
状況を確認しているとここは姉に薦められてちょっとだけプレイした中華風後宮乙女ゲームの世界だと分かった。そして自分は今女性の体を得て、脇役キャラクターの婉婉(えんえん)として転生した。
婉婉は幼馴染のイケメン皇子に婚約破棄されて死を選んだらしい。正規は婉婉に代わって復讐することを決めた。とはいえ命を奪うわけではない。死にたくなるほどの辱めを与えたいだけだ。
婉婉=正規は宮女試験を潜り抜け後宮に潜入した。転生前の知識を使い手柄を上げて皇子に近づく機会を得たが、復讐を果たす前に暗殺未遂事件の犯人に仕立て上げられてしまう。身の潔白を果たすために正規は奔走する。

会社の裏に同僚埋めてくるけど何か質問ある? 夕鷺かのう

独立短編集のような、シリーズ3冊目。でも普通にこれ単独で読めます。わたしがこれシリーズものかと気づいたのもの人の感想を見て気づいたようなもので。
「めっちゃご利益ある縁切り神社」に駆け込むまでの話で、社畜系お仕事小説かと思えば叙述トリックみたいな短編もあってよくできたミステリを読んだ気持ちで読み終わりました。
でもひたすら恨みつらみを限界まで積み重ねた上での発露で、残酷なシーンもあるので、今仕事上で追いつめられるレベルで悩んでいることがある人、日頃モンスタークレーマーと接することが多い人にはちょっとおススメできない本です。

シリーズ1冊目:今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います (集英社オレンジ文庫) Kindle版
シリーズ2冊目:神さま気どりの客はどこかでそっと死んでください (集英社オレンジ文庫) Kindle版

占い師オリハシの嘘 なみあと

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占い師オリハシはよく当たると評判の女占い師だ。店を構えているわけではなくオンライン特化だが、一般人から芸能人に政財界まで広く支持を得ておりリピーターも多い。
ミステリアスで人並外れた霊感を持つと言われている占い師オリハシだが、実は失踪癖があり好奇心旺盛で首を突っ込んではトラブルに巻き込まれ、時折妹の折橋奏が代役をつとめていることは知られていない。
奏には占いの知識も神がかり的な能力もないが、占い師オリハシの代役を務めるときは占いとは違う方法(調査及び推測)で依頼人の未来を見通して、占い師オリハシの言葉として伝えている。
真の占い師オリハシである奏の姉、折橋紗枝はしばらく不在にするとき奏には「代役よろしくね」と言い、10年来の友人森重修二には「奏のことをよろしくね」と言う。奏はことあるたびに修二に愛を叫ぶが意にも解されず、依頼人の調査と事案の解決(および占いにしたてあげるためのそれっぽい動作)に奔走する。

オカルトミステリ、ただし霊感も知識も0の占い師代理とオカルトマニアによるミステリです。

みるならなるみ/シラナイカナコ 泉サリ

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集英社ノベル大賞受賞作。
中編2作収録でそれぞれ独立しているようで登場人物が一部共通しているなど、ちょっとだけ関係している。

みるならなるみ

高校になったら軽音部に入ってガールズバンドを結成しようと約束していた鳴海とチカ。
入学式直後キーボード担当とドラム担当を見つけ、「Genuine(本物)」が生まれた。経験者のみのバンドは軽音部では浮いていたが、毎日練習しオリジナル曲も作りライブに出演しフェスにもエントリーした。進路を考える頃、バンドに欠員が生まれた。期間限定のメンバー募集に応募してきたのはどう見ても男だ。ガールズバンドに男を加入させることの是非は話し合われたがマリヤの腕は確かなもので、どうせ短期間だからと加入が決まった。

シラナイカナコ

「運命共有教」という数十年前に生まれた新興宗教がある。全知全能の神マイマイを唯一神とし、信者間で生まれた子どもを選び「幸福の子」として崇めた。地球が2つに割れる日を「運命の日」と呼び信者のみが救われるという教義をもっている。日本とトルコとネパールで大地震が起きた日を教徒は「運命の日の予兆」と呼び、その日に生まれた四葉は「幸福の子」となった。異常な環境を日常とし、学校でインターネットに触れる時間を「教院」で暮らす四葉が世界と触れられる時間だった。

15秒のターン 紅玉いづき

収録短編で私が好きなのは「戦場にも朝が来る」と「この列車は楽園ゆき」。
前者は少女文学掲載時からも好きだったソシャゲと重課金の女の子2人の話。

「この列車は楽園ゆき」は高校生の話なんですが、不思議な感触の物語で、この例えが正しいかちょっと分かりませんがこれは私の感想なので好き勝手いうんですけど、「わたし10代時分にコバルト文庫でこういうの読んだ気がする」って思ったんですよね。別に類似作品があるわけじゃなくて、講談社ラノベ文庫の「パラダイスレジデンス1(野梨原花南)」を読んだ時もそうだったので、そういうスイッチがあるんだと思います。
冒頭「15秒のターン」で「高校生、毎日、ひかってる」っていうセリフがあるけど高校生、事件事故がなくても日常を描写するだけでもすごく輝いている。

あなたが女の子だったらよかった。
あたしが男の子だったらよかった。

(P223)

良かったところ全部引用しているととても長くなるので、一番強いここを引用しますが、ここがエモエモの極みだし本作はここで終わらずこの後の、もう少女とは言えなくなった先の未来も描かれるのだ。
そういう意味で、コバルト文庫を読んでおおきくなって子どものひとりふたりいてもおかしくはない年齢に差し掛かった元少女(わたしのことです)がこういう作品を読むのはなんか感慨深い [2]要するにエモい、と思いました。

この作品、独立した短編ではありますが、「少女の物語はいつだってきらきらしている」「少女の物語があまりにもエモくて鋭利な刃物」だっていう共通点はありますので、そういうのが好きな人は思う存分めった刺しにされると思います。

うつくしが丘の不幸の家 町田そのこ

[amazon asin=”B09TSNL1Y6″ kw=”うつくしが丘の不幸の家 (創元文芸文庫)”]

25年ほど前に開発された新興住宅地「うつくしが丘」には900世帯ほど住んでいる。子育て面ではよい土地ではあるが、アクセスが悪く車をもたない家庭は苦労する立地だ。理容室を開業したい美保理と譲は住居兼店舗として築25年3階建ての中古住宅を買った。道路に面していて枇杷の木が大きく伸びている。
美保理は口さがない近隣住人に「ここが不幸の家と知って引っ越してきたのか」と言われひどく気落ちしていたところ、隣人の老婦人荒木信子に家に招かれた。
荒木信子は言う。「わたし、ずっとお隣に住んでいるけれど、『不幸の家』なんて呼ばれているの初めて聞いたわ」

物語は過去にさかのぼる。
かつて「不幸の家」の住人だった「何かしら問題を抱えていた家族」がこの家を退去するまでの顛末。ずっとこの家に住む家族を見ていた荒木信子が「そんな不幸そうには見えなかったけど」と言うのは正しかったのかどうか。

「誰にどんな事情があるのか、どんな理由でそうしたのか、そんなことは簡単に分かるものじゃないのよ。自分がまずたくさん経験すること、そして何度となく想像を巡らすことでようやく、真実の近くまで辿り着くことができるの。それを怠っている人に、そういう適当なことを吹聴されたくないわ!」

江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる  七沢ゆきの

[amazon asin=”B08R85G7QZ” kw=”江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる (富士見L文庫)”]

杏奈は両親亡き後必死に勉強して入学したいい大学を首席で卒業した。しかし「抗争で命を落としたヤクザの父」という家族構成が災いして母が望むようないい企業に入社することは叶わなかった。それなら推しの研究をしたいと、杏奈は史学の研究ができる大学院の学費を稼ぐために六本木のキャバ嬢として働いていた。

それがどういうわけか今、容姿や知識はそのままに江戸時代にいる。自分は今花魁で、ここは吉原で、花魁に2人も禿(かむろ)がつけられてるということは今は江戸中期~後期だろうとあたりをつけた。2人の禿(かむろ)、桜と梅に協力を頼みみとりあえず感染症対策から手を付けた。
会話文は時代小説で、地の文は「あたし」が語る口語の現代文だ。時代小説になじみがなくとも注釈が豊富に盛り込まれているので、タップで注釈が登場する電子書籍ならハードルは低い [3]紙書籍は都度紙をめくる必要がある

江戸史を愛する深い知識、元ヤンとしての格闘能力、六本木ナンバー1キャバ嬢として君臨したコミュニケーション能力を駆使してこの時代で成り上がっていく。時代小説はとっつきにくいと思っている人にもおすすめできる1冊。
※注釈にも記載がありますが、作中には医療行為が登場しますが、創作上の都合も存在します。料理の再現はともかく医療行為は真似しないでください。

References

References
1 個人的には99%ぐらい独立した短編集で、アンサーソング的にこれとこれはつながりがあるといっていいよね、という感じ
2 要するにエモい
3 紙書籍は都度紙をめくる必要がある

今回は文字数多めになったので3冊でお届け。

ミミズクと夜の王 完全版 紅玉いづき

15年前刊行された紅玉いづきデビュー作の「ミミズクと夜の王」の新装版が刊行された。
電撃文庫マガジンに掲載されその後電子書籍で刊行されていた「鳥籠巫女と聖剣の騎士」に追加エピソードが加筆されている。

夜の森にひとりの少女が迷い込んだ。両手にはジャラジャラと鳴る鎖、額には番号が焼き印で刻まれている。ことあるたびに自分は家畜だ、人間ではないと言い、森に迷い込んだ最初の夜に出会った王に「あたしを食べて」と頼んだ死にたがりの少女の物語。

15年前のリアルタイム読者だった私は「わーい完全版だー」と駆け寄って読んだら背後からナイフで刺されたような衝撃だった。これまでのたびたび鋭利なナイフや鈍器のような衝撃でボコボコにされた紅玉いづき作品は多くあるけど、15年前まったくもってぴんとこなかった「白状します。泣きました。奇をてらわないこのまっすぐさに負けました」という有川ひろ(当時有川浩)の帯コメントがまんま自分の身に降りかかるとは思わなかった。これが加齢による味変か?
「少女は走る。恋した相手のもとへ」というまっすぐな物語に、「初めて読んだのかな?」というレベルで外で泣くという事案だった。「マスクをしていてよかった」とこれほどまで思うことがあるとは思わなかったな。

紅玉いづきデビュー15周年企画として現在3か月連続刊行中。先日姉妹作の「毒吐姫と星の石」が刊行された。コミカライズ「ミミズクと夜の王」はLaLaで連載中でコミックスは3巻まで刊行。

働く私と彼女の同棲 野水はた

カクヨムからの書籍化で百合。
「冷めてる」と言われがちの花芹茉莉(はなせり まつり)は母を亡くした桃山澄玲(ももやま すみれ)を預かることになった。澄玲の父は服役中で、誰も澄玲の面倒を見ようとはしたがらなかったらしい。「澄玲の高校から一番近い」という理由と「あんたももう大人なんだから」と半ば押し切られるようにして澄玲は茉莉のアパートへやってきた。

暗い部屋で膝を抱えていた澄玲が罪悪感なく電気をつけられるようになって、徐々に近づいていく2人が心情描写も多く語られていてよかった。
ちなみに本作は「女性ふたりの交流が描かれている」という意味の百合だけではなく、恋愛的な意味での百合でもある。かといって性描写は(商業BL小説に比べれば)格段に少ない。キスシーンはあるがそれ以上は匂わせ程度だ。しかしただの接触は非常に多い。
茉莉のことを「まつり」と呼ぶようになって以降の澄玲は犬のようになついていたし、銭湯の湯舟につかって「大人は駄目だけど子供は殴っていい」と澄玲に言ったことや、ちょっとした動作がバタフライエフェクトのように作用していたのがとてもよかった。「伏線回収」と言われたらそれはなんか違うように感じるが、「人間の営みの積み重ね」はこういうものだと思った。つい先日最終回を迎えたカムカムエヴリバディを思い出す。

読んでる途中で「おっ」となったのは茉莉の年齢だ。20代後半ぐらいだろうかと思いながら読んでいたが、若干20歳だった。同級生にはまだ学生も多くいるだろう年齢だ。でも茉莉は今の花屋で勤続2年でマンションでひとり暮らしをしていて、おそらく自分の稼ぎで生活している中で澄玲の生活費や学校までの定期代とかの面倒も見ている。茉莉はたびたび「大人とは?」ということについて考えたり話したりしているけど、「大人」というにはあまりにも年若く感じられて、自分が20歳のころを思い起こして、しっかりしてるなあと思いながら読んだ。この作品は20歳と17歳だからできることだ。

東京かくりよ公安局 松田 詩依

小学館文庫キャラブン! アニバーサリー賞受賞作品の大幅加筆作品。
この賞はよくある賞とは違って「小学館文庫キャラブン!のレーベル創刊時のこのイラストにつける」短編小説を募集します、というものだった。
1章(受賞作)に書き下ろしを加えて連作短編になったのがこの作品。

ある冬の日、新月の晩。フードデリバリーのバイト中の西淵真澄の運命は動いた。
「連絡がつかなかったらお兄さんが食べてください」という最近増えてきた「公共施設を配達場所として指定する謎案件」のため真澄は深夜0時に東京駅にやってきた。弟からの電話が突然切れたことを不思議に思い画面を見てみると表示されているのは「圏外」の2文字。気が付けば周囲から人の気配が途絶え、地図からは「東京駅」の表示が消え代わりに「東京幽世壱番街」と現れた。
その瞬間浮遊感とともに東京の街の下に知らない街の姿を見た。今見ているのが夢ではない証拠に真澄を襲ったのは強い衝撃と血の味と死が迫る気配だ。

そうして真澄は死を免れたかわりに前代未聞の「半人半妖の狐憑き」となった。今真澄の体には天狐神黄金と名乗る、狐の耳をもつ美少女が住んでいる。
真澄は事件に巻き込まれた被害者だが、天狐の力がどう作用するかわからず事態が判明するまで「東京幽世公安局公安部公安特務課預かり」となった。承諾すれば衣食住と就職先としての給与が保証され、拒否すれば良くて幽閉悪ければ人体標本となる。選択肢はなかった。
真澄は現世の真下、異界幽世の住人となる。公安特務課には狐憑き真澄以外には鬼蜘蛛ヒバナ、鬼の子百目鬼、烏天狗三海、人間の戸塚と九十九がいる。
幽世での騒動は直上の現世に影響を与える。事態収拾にあたるのが公安特務課だ。

ライト文芸あるあるあやかしほっこりもの謎解きものお仕事ものではなく、アクション多めで少年漫画みたいなノリで、ジャンプで言うとアヤシモンです。

今月のはと文庫オンラインは諸般の事情で1冊だけの更新です!
といいますのもついに我が家も流行り病の流れに飲み込まれて、ようやく今週行動制限解除および退院という運びでした。陰性で体は健康でも非日常すぎて摂取できるエンタメが限定的過ぎて読めた小説がそもそも少なく。

水無月家の許嫁 友麻碧

 

水無月六花が16歳の誕生日を迎えた日は父の四十九日法要だった。通夜や告別式はしておらず本日父の知り合いを呼んで法要を簡潔に執り行った。父はどこの病院でも匙を投げられた奇病で42歳の若さでこの世を去り、今六花の手にも同じ病の兆候が出ていた。
自分ももうすぐ死ぬと思っていた頃、六花のはとこであり許嫁の関係だと名乗る水無月文也が六花を迎えに来た。

あやかしだ天女伝説だと登場するけど、あやかしものよりは個人的にはこれをSFに分類したい。
というのも「水無月家は天女が持ち込んだ月の資源を用いて財を成した一族」だとか「念動力が扱える」だとか「因習でがんじがらめで遺産相続で命の奪い合いが起こっている」とかがしっくりきている。ちなみにそれら一族が邸を構えているのが京都(および滋賀)というのもポイント高いです。陰陽師やそういう異能の一族が住まう土地として京都は素晴らしい。

六花は双子の片割れとして生まれ落ちたが母の愛は姉に注がれ、ネグレクトのような状態だったところを父だけが六花をかばい続け最終的には父子家庭となった、というバックグラウンドから自己肯定感などがマイナスの女の子です。
父がこの世を去り、頼れる身内がなくなったところを水無月家に許嫁として迎えられるというほかに選択肢がない状況ながら、六花はようやく水無月家で落ち着ける場所を手に入れます。しかし待ち受けている過酷な運命みたいなものが見え隠れしている [1]しかもそれは六花の家族となる水無月家ほかの人間も同じでようで今後の展開が楽しみな1冊です。

世界的には世界フィギュア選手権が開催中です! 今年はウクライナ侵攻の件でロシア選手が出場していないため、表彰台に上がる人がいつもとガラッと変わりますが、そんなさなかでもおすすめの漫画がこちらッ!

小学生女子がフィギュアスケートとアイスダンス出身のコーチと出会いオリンピックを目指す話です。激熱なのでとてもおすすめです。kindleは1巻無料で本日3月25日最新5巻が発売になりました。

 

ちなみにそれ以外でも濃厚接触者期間でも見られたもの

ミステリと言う勿れ(ドラマ)
カムカムエヴリバディ(朝ドラ)
スパイファミリー(ジャンプラ)
週刊少年ジャンプ(紙に限る。1回だけ電子書籍は白くて見開きも見やすくて長年の習慣によるワクワク感には勝てなかった)
ラジオ番組各種

ライトなノりの物、時間が短い物、聴覚だけでも楽しめるものが接種できた感じです。

References

References
1 しかもそれは六花の家族となる水無月家ほかの人間も同じで

わたしの2月は仕事と北京五輪とMOTHER2でほぼ終わったので今日はそういう感じの特集です!

砂嵐に星屑 一穂ミチ

「イエスかノーか半分か」シリーズで長らくテレビ局や報道について書いてきた一穂ミチが書くテレビ局に関わる人々の話。大阪、福島にあるなにわテレビに勤務する人々の連作短編。

上司のアナウンサーとの不倫で「東京のキー局へ出向」という名の懲罰人事から大阪へ戻ってきた三木邑子(43)は資料室で不倫相手村雲の幽霊が出ると聞き、深夜に張り込んでいると一風変わった新人笠原雪乃と出くわし、なおかつ本当に村雲の幽霊を見た。(<春>資料室の幽霊)

地震が起きて電車が止まった朝、中島と市岡は徒歩で西宮駅から(兵庫県)から職場の福島駅(大阪)付近まで向かうことを決めた。52歳という年齢で17キロを歩くことがどのぐらいの負荷なのかわからないがとにかく行くしかほかない。
中島は考える。思い出す。30人以上いた同期が離職していったここ数年を。とある一件からまったく会話がなくなった娘のことを。一昨年取材していた熊本の地震のことを。(<夏>泥船のモラトリアム)

新卒で就職した企業をパワハラで1か月で退職した結花は派遣会社からADの職に就いた。
AD経験を3年積んだあと、ベテランのタイムキーパーの後を継いで今はフリーランスのタイムキーパーとして働いて、好きな男性とルームシェアをしている。同棲ではなくルームシェアだ。なんせ由朗はゲイ。とんとん拍子でルームシェアが決まったがそれ以上のことは望みのない相手だ。
(<秋>嵐のランデブー)

「30代半ばに入ってまだADはキツいやろなんせ周りが気遣う。サポートはするから」と堤晴一は代打で規模の小さな密着ドキュメントのVTRを作ることになった。対象は並木広道というクリニクラウン(病院で大道芸や手品をする芸人)で、彼は腹話術の人形と漫才をする。晴一と対照的に広道は人の懐に飛び込み、苦戦した街頭アンケートも回答を取ってくる。カメラが回っていない時、広道は阪神大震災の被災者だったことを話した。
(<冬>眠れぬ夜のあなた)

イエスノーシリーズで何かおすすめはと聞かれたら無難に1巻と、もう1冊は番外編の「つないで」をガチ推しします。

これはディレクターとプロデューサーの話で「ザ・ニュース」という夜のニュース番組の作る側、ドキュメント番組のやらせについて、ある大雨の日、講演のため広島に到着したかと思えば大雨特別警報が発令された。交通網が寸断され市内だけで数百軒の停電が発生し、NHKおよび民放のテレビ電波もいつ停波するかわからない。その緊迫した状況での報道マンの奔走が語られる。

ちなみにイエスノーシリーズは男性同士の性描写が少なからずありますので、苦手な方はご注意ください。

少女を埋める 桜庭一樹

2021年2月、直木賞作家の冬子は7年ぶりの母からの電話で父が死の際にいることを知る。感染リスクの高い東京から感染者がほぼ見られない鳥取へ移動することの是非 [1]当時の東京は年明けの1000人越えから300人程度まで減少していたころだった。一方鳥取は出て1日1名程度、感染確認0名の日も多い時期だった。からオンライン面会を経てPCR検査後鳥取へ飛んだ。

本作は桜庭一樹の私小説です。「少女を埋める」を発表後、朝日新聞社の書評欄で起こった誤読もしくは解釈違いから始まる一連の流れが一作にまとまり(キメラ)、その後の顛末も描かれる(夏の終わり)
桜庭さんのこれまでの読書日記や東京ディストピア日記のような文体で、あの作品が生まれた背景にはそんなことが、ということが語られている。

奇跡なんて、起きない。フィギュアスケートマガジン取材記2015-2019 山口真一

2014年全日本選手権から2019スケートカナダまで。
インタビュー記事の文字起こし全文掲載という丁寧に羽生結弦という人物が描かれている1冊です。

羽生結弦は助走しない 高山真

30年来のフィギュアスケートファンが書く「羽生結弦選手のこのプログラムのここがすごい」
「ここがすごい」については箇条書きなので動画を見ながらだとわかりやすい。
ただし、「ここのここがすごい」という書き方なので用語や場面が分からないと「なんかわからんけどそこがすごいのか」という感じになると思う。取り上げられているのは2010年ジュニア時代から平昌オリンピックで金メダルを獲得したSEIMEIまで [2](※本書は平昌前に発売されているので2個目の金メダルについては言及されていない
前半には用語の説明あり、初心者にもある程度は優しく、平昌五輪に出場したシングルスケーター(日本・海外選手ともに)にも言及あり。

兄・宇野昌磨 弟だけが知っている秘密の昌磨 宇野樹

弟視点から見る宇野昌磨という人物について。
メダル2個取った人とかスマブラめっちゃ好きなんだろ? とかそういう人で宇野昌磨とは、という人となりが知りたい人にはぜひともお勧めしたい1冊。

References

References
1 当時の東京は年明けの1000人越えから300人程度まで減少していたころだった。一方鳥取は出て1日1名程度、感染確認0名の日も多い時期だった。
2 (※本書は平昌前に発売されているので2個目の金メダルについては言及されていない

いろいろあって体調が改善したせいか今月から突然読書が捗るようになっていろんな本をたくさん読んでいます。本を読むのって楽しいなあと数年ぶりにかみしめています。
そんなわけで今月はミステリ特集。今後も何回かやると思うので、今回はナンバリングをつけました。

女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け 石田リンネ

ファンタジー世界のフーダニット

若き女王オフィーリアはある夜殺されてしまうが、王冠に住まう古の契約と呪いにより10日限定で生き返る。再び現世へ戻るにあたり望みを聞かれオフィーリアは「自分を殺したのは誰なのか」と答えた。
10日間残された猶予でオフィーリアは犯人の特定や後継(弟)の育成に勤しむ。生前は夫デイヴィッドのことや様々なことで自分を殺していたが、たまたま生きているだけの今は最早誰に気を遣う必要もなく好きなドレスを身に着け容赦なく平手打ちをぶつける。

春期限定いちごタルト事件 米澤穂信

先日第166回直木三十五賞を受賞した米澤さんの日常の謎シリーズ。
小鳩君と小佐内さんは今日も小市民を目指す。なんでも推理してしまうその癖から苦い経験をした小鳩くんと似た境遇の小佐内さんは名探偵になどならずつつましく、と思うものの目の前には次々に謎が現れる。スイーツに執着しある時は復讐に燃える小佐内さんと小鳩くんの物語。

基本的には連作ミステリの短編集。最新作(書籍)は巴里マカロンの謎、最新作(短編)は「羅馬ジェラートの謎」(紙魚の手帖vol.2)

GOSICK 桜庭一樹

占い師の死からはじまる豪華客船での殺人事件

20世紀初頭、第一次世界大戦後のヨーロッパの小国ソヴュールにある聖マルグリット学園が舞台。東洋から招かれた留学生久城一弥は図書館の一番上の植物園に謎やお菓子をせっせと運んでいた。そこには人形と見紛う美貌と明晰な頭脳を兼ね備えた少女、ヴィクトリカが本を読みながら退屈を紛らわせる新たな謎を待っている。

本作は富士見ミステリー文庫で産声をあげ、レーベル終了後は角川ビーンズ文庫と角川文庫両方で刊行された。完結まで刊行されているのは角川文庫版のみ、挿絵ありは富士見ミステリーもしくは角川ビーンズのみ。
GOSICK REDにはじまる色の名前を冠している数冊は第2部(もしくは続編)のため読むなら「GOSICK」と数字で始まるものを。数冊あるGOSICKsというタイトルは短編集なので1巻に限ってはここを入り口にしても大丈夫です。

invert城塚翡翠倒叙集 相沢沙呼

倒叙ミステリ。

実行される殺人、アリバイは完璧、これで事故として処理される。そう思った犯人のもとに城塚翡翠が現れる。彼女は霊能力があるというのだが。
犯人の視点から描かれた中編集。彼らが組み立てた犯行はどのようにして露見するのか。

前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」のネタバラシがあるため、未読の場合はぜひともこっちを読んでからinvertを読んでほしい。

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