光のとこにいてね 一穂ミチ
幼少期から30代にかけて出会いと別れを繰り返す2人の女性の物語。
医者の家に生まれて、複数の習い事で多忙な毎日の小学校2年生の小瀧結珠はある時から毎週水曜は「母と一緒に団地に行く」という生活をしていた。ある日5階のベランダで隣室のベランダをのぞき込もうとしている同じ年ぐらいの女の子と出会った。ぼさぼさ頭に原始人みたいな服を着たその子は「校倉果遠(あぜくらかのん)」と名乗った。
結珠と果遠はそれから毎週水曜日、結珠の母が用事を終えて出てくるまでの間団地の公園で一緒に遊んでいた。結珠は果遠に父がいないことに驚き、自然派に傾倒した母の意向でエビフライもハンバーグも食べたことがなく、シャンプーも使わない生活に驚いていた。
お互いの家の「お母さん」の話をしたり時計の読み方を教えたりして、待ち合わせ場所で「光のとこでいてね」と約束して、2人はぱたりと会えなくなってしまった。
2回目に出会ったのは結珠と果遠が高校生に上がった時だ。
S女の制服は高校になると急に野暮ったくなると評判で、おそろいのださい制服が一堂に会した場所に現れたベリーショートの美人が8年ぶりに会う果遠だった。
果遠は小学生の結珠が着ていた制服だけを手掛かりにS女の外部入学という狭き門(1学年15人)を突破してやってきた。結珠もまた一目で果遠の存在を気付いた。
果遠の一途さに結珠は胸を刺すような痛みを感じていて、果遠は結珠からもらったものを支えにしてままならない環境で生き抜いてきた。
再び仲良くなれたと思った2人はまた母の都合で引き裂かれることになる。
あなたへの挑戦状 阿津川辰海・斜線堂有紀
読み終わってからああそういうことねと思った1冊。阿津川辰海・斜線堂有紀による競作。
阿津川辰海「水槽館の殺人」
「水槽館の殺人」は1階から3階まで水槽が埋め込まれたゲストハウス「アクエリアム」で起こった殺人事件。節ごとに「さあこの謎を解いてみろ」と静かに煽るエピグラフがあって、館の見取り図があって、遺体付近の図があって、密室殺人で、ときめくやつである。
斜線堂有紀「ありふれた眠り」
優秀な妹と僕。僕(一寿)と千百合は互いを異物のように扱ういびつな兄妹だ。
妹を避け続けひとり暮らしをしている僕のもとへ千百合がやってきた。千百合は芸大を受験するという。家族にはゲーム会社に勤めていると言っている僕(実際はホテル勤務)はどうすれば妹にばれないかということを考えていた矢先に勤務先で殺人事件が発生した。
競作執筆日記
小説家がどのようにして視点が生まれ作品を作るかということに焦点を置いた日記を書いている。余談だがこれを読んでいたのが、「誰かの日記が読みたい」と言ったすぐ後だったのでその欲が満たされた。
私は電子書籍(kindle)で読みましたが、紙書籍だと袋とじもあるようです。
すずめの戸締まり 新海誠
今話題作の映画の、ノベライズ版です。映画を見た人にもとってもおススメです。
ですがこの映画は「地震」「緊急地震警報」「津波の後」等のシーンがそれなりの頻度で登場するため、東日本大震災及び阪神大震災でつらい思いをされた方にはあんまり「見てください」とは言えない映画です。
Amazon Primevideoで冒頭12分が公開されています(津波後を彷彿とさせるシーンも緊急地震警報に類するアラームが鳴り響くシーンもあります)ので、行ってみたいけどちょっと怖いという方はそちらでお試しください。
この小説版のいいところは「あのシーンはどういうことだったのか」「あのキャラ造形はどうだったのか」「作品のバックグラウンド」について視聴者の考察ではなく公式情報のひとつとして知れることです。
例えば草太が受けるはずだった試験、芹澤がオープンカーで流していた曲について、絵日記はなぜ黒く塗りつぶされたのか。
「映画もう1回見たい」と思える小説版です。マクドナルドのハッピーセットのおまけとしてもらえる「すずめといす」もあわせてご覧ください。