生活が立て込みすぎて2回更新するどころか本を読む余白もまるでなかったですね。

心臓の王国 竹宮ゆゆこ

鬼島鋼太郎は高2の夏休み、スイカ畑をバイトをしていた。
日給5000円。ただしスイカは重く、日陰のない真夏の畑での作業は過酷を極めた。
でもお金は欲しい。欲しいものがたくさんある。体調不良と復調を繰り返し夏休みはもう終わろうとしている。

そんなさなか、ひとりの男と出会った。「せいしゅんってどうやるんだ」と尋ねる彼、アストラル神威と名乗り「友達になってほしい」という今後の人生を付きまとわれることになる男だ。そして彼はわたなべゆうたと名乗り、鋼太郎のクラスに転校してきた。
同じクラスに既にわたなべが3人いる(それぞれ無印、旧字体、オルタナティブと呼ばれる)ため、区別のため神威と呼ばれることになった彼の世話係を押し付けられることになったのだ。

竹宮ゆゆこが書く青春は攻撃力が高い。
私が読んだのは電子書籍版なんだけど、最初に知ったのは書店で、帯にでかでかとブロマンスと書かれていた。わたしはブロマンス=BLの近似ジャンル(※性的な関係はない)と思ってますが、この本は男同士のみならず男女問わず17歳のクソデカ感情のドッジボールです。竹宮ゆゆこ原液100パーセントみたいな内容。とらドラで育ったわたしのような人間にはものすごくよく効きます。ゆゆこが書く青春なら心臓を鷲掴みにしたのちきっちり殺してくれるはずだという謎の信頼感のもとに読みましたが、こんな頻度で殺しに来るなんて聞いてない。
末満健一脚本演出作品「TRUMP」での「さっきまでギャグ100連発をしていたのにいきなり刺される」みたいなシーンの連続です。

注意書きなのですがこの物語には先天性の心臓病で入退院を繰り返している妹が登場します。入院期間が長い母親もいます。生きてますが、引っ張られる感情としてはかなりのものです。これらを抜きにしても感情の綱引きみたいな物語なので、重たい話は読みたくないという人はお勧めできないし、逆にそういうのが読みたいです、というにはとてもおすすめです。今年のベスト○○候補です。

彼女が言わなかったすべてのこと 桜庭一樹

2019年9月終わり。茨城県南部を震源とする都内では震度3を観測した日のことだ。
乳がん治療中の小林波間(こばやし なみま)は通り魔事件と旧友に遭遇した。かつて親友の恋人だった中川甍(なかがわ いらか)とLINEを交換して別れた。
後日、また会おうということになり待ち合わせ場所におらず、LINEビデオ通話で確認すると確かに同じ場所にいるらしい。ただ2人の画面に映るビルの形が異なり、お互いパラレルワールドの住人なのでは? という結論に至った。
あの地震の日、何かの拍子でつながった世界で出会ったふたりはもう会えることはないのだろう。それでも別の世界線で暮らす2人はLINEで連絡を取り異なる世界同じ空間同じものを見て食べる。
2つの世界は同じようで違うことがほかにもあった。小池百合子は両方の世界で都知事をやっていたし、米津玄師も存在した。でも波間の世界にシュタインズゲートはなかったし、中川の世界に恋々はいなかった。ニュースサイトのリンクは通らないが、スクショや映像や音声は送ることができたので恋々がパーソナリティをやっているオールナイトニッポンをLINE越しによく一緒に聞いたし、シュタインズ・ゲートを分割して送ってもらってみた。
決定的に違うことはほかにもあった。
小林波間の世界は2020年に東京オリンピックが開催された。
中川甍の世界は2020年に新型コロナウィルスの出現で世界は一変した。甍からもたらされるコロナが徐々に世界を覆っていく(エンタメが死んでいき不自由な世界に変わっていく)様子を信じられない様子で波間は聞く。
波間の世界は平和かというとそうでもない。乳がんの手術が終わり、今後は10年かけてホルモン治療をしていく。髪は抜け落ち顔は丸くなり、薬の副作用でマルチタスクで物事を考えられない状態が続いている。
病院で知り合った同じ病気を患っている深南はブログの書籍化の話が来たが、最終的には「病人がリスクを負って妊娠出産をしたが、再発悪化をしたりして最終的に亡くなれば映像化なども期待ができるが、健康すぎるので商品にならない」と流れたという。
その話を聞いて本人より盛大にキレ散らかす波間の場面を読みながら24時間テレビ……と思った。
内容は現実、今この2019年からロシアのウクライナ侵攻あたりも登場するので、別の角度から読む東京ディストピア日記のようでもある。