桜の季節がやってきました。地元でもようやく桜の開花が宣言され、福島県では聖火リレーが始まりスウェーデンでは世界フィギュア選手権が始まり今2020年じわじわ再起動してるなと思います。なんとか収束してほしい。

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 若林正恭

[amazon asin=”4167915820″ kw=”表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 (文春文庫 わ 25-1)”]

自由に旅行ができなくなってから1年以上経ち、いつになれば旅行に行けるかもまだちょっとよくわからない。そんなわけで旅行エッセイを読む。これはオードリーのツッコミのほう、以前小説家と鼎談番組「ご本、出しときますね?」のMCをやっていた若林正恭氏だ。
氏は2013年のころ家庭教師を雇っていたそうだ。アラフォーだというのにニュースを見てもさっぱり理解できない。これは恥ずかしいのでは、と思いたち友人に紹介された。
そして自分の悩みの根源とは別のシステムで動いている社会主義国家キューバへの旅行を決めた。2016年6月のことだ。

本越しではあるがキューバの人がどのように暮らしているのか垣間見える。
配給所があり飢える心配はない、でも最近それでは足りずスーパーでも買っていること。
国営企業のためスーパーで売ってる調味料はどれも2種類程度であること。
職業訓練がしっかりしており、ウェイターからスポーツ選手までなりたい業務の専門学校を卒業する。でもコメディアンになりたい人間が学校を出た後バイトで食いつなぎながらデビューを狙うということはあまりないこと。
就職は義務ではないが「アルバイト」という概念があまりないこと。
海がきれいなこと。
亡命は禁止されているが、身内に亡命者がいると生活が裕福になる矛盾があること(キューバから発送は制限があるが、キューバへ発送・送金は制限がなくスマートフォンも送ることができる)
異国の空気を感じることができる。それ以外に収録されているのはモンゴル・アイスランド。コロナ後の東京。

電子書籍:○

小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集 桜庭一樹

[amazon asin=”4087711676″ kw=”小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集”]

東京創元社のWEBサイトで掲載されていた桜庭一樹読書日記がとても好きだった。書籍化されているものは各オンライン書店では注文できないか中古のみのよう。書店ではまだ並んでいるところもあるだろうか。この本はそれらを楽しみに待っていたころを思い出す本だ。
帯には約15年分の書評ということで、収録期間は2005年~2018年。最も多いのはリレー読書日記やあちこちで書評を書かれていた2006年~2009年の間で、書評以外では道尾秀介氏・冲方丁氏・綿矢りさ氏・辻村深月氏との対談も収録されている。
解説も収録されているが、その昔この解説を読みたいがために本を買っていたことも思い出されて懐かしい。桜庭さんが本の話をしているのが好きな人はぜひともオススメの1冊。

映画レビューと火の鳥の連載をやっていたことは知っているが最近は何か刊行予定あるんだろうかと検索してみたらコロナ禍の東京の日記が出るようだ。

[amazon asin=”4309029612″ kw=”東京ディストピア日記”]

推し、燃ゆ 宇佐見りん

[amazon asin=”4309029167″ kw=”推し、燃ゆ”]

第164回芥川龍之介賞受賞作。
直木賞ならともかく純文学対象の芥川賞受賞作を読もうとは普段あまり思わないが、本作は「アイドルを推す」ことを生活の中心に置いている女子高生の物語と聞いて俄然興味を持った。
いかにも大衆、という感じのそういうものが純文学で題材として扱われるのか、と思っていたら「芥川賞は時代を映す鏡」という話を目にし、ジャニーズのアイドルやNiziUやowvのようなアイドル、それに「推し」「推す」と言われる対象が人にとどまらず食べ物や企業にまで及んでいる現在ならそれもそうかと思った。

物語は「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」の一文で始まる。
虫の知らせか早朝に目が覚めたあかりはざわつくSNSで推しが起こした事件を知る。

推し:男女混合アイドルグループ所属上野真幸
推す:女子高生あかり。ファンのスタンスとしては現場には行く、でも特定はされたくない。有象無象の拍手や歓声のひとつでいたい。推しの見る世界を見たい。
あかりは推しのためならバイトも頑張る。推しの情報を集めてルーズリーフにまとめて咀嚼して自分の解釈をブログに書き連ねる。その経過であかりのブログは人目を集め同じグループ推しの友達ができた。推しに対する解像度を高め、その強固さは推しと同じグループのメンバーも舌を巻くほどだった。
しかし「推しがファンを殴って炎上」のニュースはどう解釈すればいいか分からない。自分の解釈では推しは穏やかな人間ではないが、人を殴るような人間ではない。怒ればいいのか、庇えばいいのか、SNSで目にする感情的なファンを眺めて嘆けばいいのか分からない。でも今後も変わらず推すことだけは決めていた。

あかりの生活はすべて推しを中心に回っていた。世界の人々が難なくこなせる生活も人生の彩りも自分はままならない。しわ寄せに苦しみながらも生活のすべてが推しに集約されていく。淡々とした語り口とは対称的に「オタクのすなるSNSでのふるまい」の描写は濃厚だ。どこかでアイドルが、若手俳優が炎上するとみられがちな光景が再現されている。

次元を問わず人物を推してファン活動をしたことがある人なら理解できすぎてしまう物語だと思う。

電子書籍:○

腐男子先生!!!! 瀧ことは

[amazon asin=”4047347108″ kw=”腐男子先生!!!!! (ビーズログ文庫アリス)”]

「推し、燃ゆ」は重いので、「重い」方向性が違う「推しとオタク」の物語も紹介する。

女子高生の早乙女朱葉は漫画を描いて本を作って同人誌即売会イベントへサークル参加する腐女子だった。ある日のイベントでノベルティを渡し損ねた男性を追いかけ、彼が自分の学校の先生であることに気がついてしまった。
これは女子高生(腐女子)と教え子を神だ推しだと崇める先生(腐男子)のラブコメです。
その時に流行ったオタクコンテンツの話題がそれとなく振りまかれているのでネタ元を頭の中で転がしながら読むのもよし(分からなくても面白さは減りません)コミカライズから入るのもよし、元が小説家になろう掲載作品のため隙間時間に読むのもよいでしょう。

書籍版完結済全3巻

電子書籍:○
小説家になろう:腐男子先生!!!!!(書籍版未収録作品あり)
コミカライズ:腐男子先生!!!!! – pixivコミック

死んでも推します!!~人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします~ 栗原ちひろ

「推し、燃ゆ」とは違う方向の「推しを推す」物語のご紹介です。これはこれから書籍化されるオンライン小説作品で、異世界ファンタジーでコメディ要素が大分強いラブコメです。

公爵令嬢セレーナの推しは自分の婚約者だ。はじめて出会ったのは10歳の時に見せられた肖像画だった。見た瞬間天使がラッパを吹いて祝福した。私は「萌え」という概念を取得した。16歳の結婚が近いある日、婚約者ともども炎に巻かれそこで意識は途絶えた。次に意識がはっきりした時、自分は生まれて1年未満の赤子に戻っていた。
どうして自分がまた2度目の生を受けているのかは分からない。だけど今度こそは「推し」を死なせない、婚約者でなくて構わない彼の身を守れるなら。
そうしてセレーナは男装を身にまとい「推し」フィニスの剣になることを決めた。

こちらも小説家になろう掲載作品で、書籍化とコミカライズが決まっています(※発売日未定) 講談社Kラノベブックスfで刊行予定。

略称「でも推し」は去年6月から9月中旬にかけてほぼ毎日連載されていた全100話の物語です。毎朝ひと笑いしてから仕事についていました。書籍版は現在リライト中とのことで、手元に届けられる日を楽しみに待ちたいと思います。

小説家になろう:【書籍化】死んでも推します!!~人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします~

広大な領地をもつルトヴィア帝国。猟師の娘として暮らす少女・カリエは、突如謎の男に攫われ、皇位継承者候補である王子の身代わりとして宮殿に入ることに――。カリエを待ち受ける激動の運命の行く末は? 
須賀しのぶが書く『流血女神伝』シリーズは、コバルト文庫史上に輝く、伝説の大河ファンタジーです。
このたび、シリーズ第1作となる『流血女神伝 帝国の娘』の初コミカライズが決定。(作画:窪中章乃 キャラクター原案:船戸明里)小学館の漫画サイト『サンデーうぇぶり』で4月5日から、雑誌『サンデーGX』で5月号(4月19日発売)から連載されます。
WebマガジンCobaltでは、『流血女神伝 帝国の娘』のコミカライズを記念して、原作小説のプレイバック連載を4月2日(金)から実施する予定です。どうぞお楽しみに!

3/19現在次号予告 | サンデーGENE-X|小学館でカリエの顔が見られますが、原作カリエと比べれば幾分可愛い系の顔をしているなと思いました。
流血女神伝は角川文庫では「帝国の娘」のみ上下巻で発売されていますが、原初のコバルト文庫では「帝国の娘」以降も話が続いています。全25巻です。カリエはジェットコースターに乗せられたがごとく数奇な運命をたどります。大変おすすめです。
古い作品なので古本と図書館以外で手に入れるのはちょっと難しいかも知れませんが、電子書籍化もされています。

[amazon asin=”B009VZ8LRY” kw=”帝国の娘 上 (角川文庫)”][amazon asin=”B009VZ8L60″ kw=”帝国の娘 下 (角川文庫)”][amazon asin=”B0739HTRPP” kw=”流血女神伝 砂の覇王1 (集英社コバルト文庫)”]

とりあえず目標の第3回に辿り着きましたわ。いやでも冊数少なくても週に1回更新の方がいいのかとか色々と考え中です。どう思います? こうあれこれ悩むのは開設したての方向が定まってない時のお楽しみのような気します。というのもあれなんですよ。先日2月22日に個人サイトcolorfulが開設20周年を迎えました。私自身がまだ振袖を着られる身の上なんですけど、実質我が子のようなものです。

ゴールデンタイムの消費期限 斜線堂有紀

書けなくなった「元天才作家」高校生の綴喜文影に元に届いたのは「レミントンプロジェクト」への招待状だ。紹介してくれた編集小柴によればこれに参加すればまた書けるようになるということだった。
ヘリコプターに乗せられ辿りついたのは山中にある施設だ。個人のスマートフォンは持ち込めないようになっており、11日間をともに過ごす5人と引き合わされた。料理人、バイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士。綴喜も含めた6人に共通するのは「今は見る影もないがかつて天才と称された人間」だ。

レミントンプロジェクトとは人工知能「レミントン」とのやり取りでかつての天才に力を取り戻させるプロジェクトだった。
同世代で「かつて天才としてもてはやされたこともあった」という似たバックグラウンドや傷を持つ男女の交流と、AIの補助のもと自分と向き合う期間。このプロジェクトは閉ざされた密室で行われ、AIは6人の心を揺さぶり激しく取り乱させるが暴力沙汰や死者は出ない。綺麗な物語だ。
「AIが人間の仕事を奪う」「AIを利用することで広がる世界」など様々な可能性はきかれているが、作中のようなことは既に行われているのかもしれない。

電子書籍:○

金星特急 嬉野君

金星が花婿を探している。金星が選んだ男はこの世の栄華は思いのまま。花婿候補はどこからともなく現れた特急が金星の元へ運んでいく。そうして金星特急に乗り込んで無事に戻ってきた者は誰一人おらず、特急を追跡した者たちもすべて撃ち落とされた。
金星に一目ぼれした錆丸は入学したばかりの高校を中退し金星特急へ乗り込んだ。そこで出会ったのは腕は立つが不愛想で正体不明の砂鉄、大喰らいの美貌の騎士ユースタス。
金星特急が彼らを連れていくのはどこか、金星とは何者なのか。
世界を股にかけた冒険活劇金星特急。

さて約10年前に完結した本作をここで取り上げる理由はひとつ、来月3月10日、「続・金星特急 竜血の娘」が発売されるためです。

金星特急と地続きの物語であるためこれを読んでいるほうが圧倒的に解像度が高い。私は小説ウィングスで連載を追っているので内容を知っているので言いますが、本作においては「続編はコケる」「あれは越えられない」は全く適用外。
毎回金星特急らしい「頭をかち割られそうな驚き」と「冒険」と「世界を旅する空気」を楽しんでいます。今年一推しの一冊になるのは間違いない。できるだけネタバレを避けて既読者向けに叫びたいのですが、月氏が好きな人はこれを読んで面白かったら小説ウィングス本誌最新とひとつ前を買ってほしい。

電子書籍:○(※続・金星特急についても1カ月遅れで電書になる)

わたしの幸せな結婚 顎木 あくみ

斎森先妻の娘、斎森美代は継母・異母妹に虐げられて使用人同然に育った。母方の異能の血を受け継いで生まれたはずが見鬼の才を持たなかったことが大きい。
ある日、美代は久堂清霞の元に嫁ぐことになった。清霞は美しい容姿だが冷酷無慈悲、今まで何人もの女性が結婚を諦めて去っていったと美代の知るほどの噂の人物だ。それでも美代にはもう帰るところも行くところもない。実家は美代の唯一の味方幸次が異母妹と結婚して継ぐことになった。

王道のシンデレラストーリーでかつてコバルトを読んで育ってきた人間としてはかなり懐かしさを覚える作品。最初は人間不信全開の対応だった清霞と自責の念の塊の美代がじわじわと距離を縮めていく様がほほえましいです。

電子書籍:○

オタク女子が4人で暮らしてみたら 藤谷千明

エッセイ。
フリーライターという仕事上、30代後半とという年齢上付きまとう将来の不安。さらに階段から転げ落ちたり、パートナーと別れたり様々な不安が夜泣きという形で現れた。
不安解消案として考えた結果シェアハウスはありなのでは?? と考えた筆者藤谷さん、オタクルームシェアしない? とLINEで持ちかけ「面白いほうに5000点!」と話はとんとん拍子に進んでいく。すったもんだ―の後家を契約する時点で「10年来の友達の本名を知る」というのは実にオタクあるあるだと思った。

ルームシェアの体験談として非常に成功例だと思う。「気心の知れたフォロワーの近所に住んで推しの円盤を見たりマンガの貸し借りをしたり一緒にご飯を食べたりしたい」みたいなオタクグループホーム計画を夢見たことが一度や二度ある人は多いのではないか。
オタクはすぐガチャに例えるが、これは住居も友達も住人もガチャの引きが爆裂によかったと思う。なので汎用性があるハウツー本ではないしオタクグループホームにあこがれがありすぎる人は羨ましさで鬼になれそうな本だが良い読み物だ。
時期的にコロナ前~日本で感染者が増え始めたころのこと。

電子書籍:○(2/24現在電子書籍は400円弱で購入可能です)

仕事本

2020年4月、緊急事態宣言が出た東京在住の人たちはどのような風に仕事をしていたのか、という日記アンソロジー。有名な人も無名な人も。パン屋・タクシーの運転手・介護士・ホスト・漫画家・旅行会社の社員・専業主婦・CAなどなど77人が語る2020年4月。

コロナ初年の世界はどんな風だったのか、去年の春の首都圏はどんな風だったのか、という本です。
人の日記を読むのが好きな人に。

年末年始から都会ではさらに感染者急増、長らく感染者0が続いていたわが県でも年始から帰省土産コロナにはじまって随分感染者が増えに増えて「同僚の家族が濃厚接触者」ぐらいの身近さになりました。エヴァも公開延期になったし落ち着くまで引きこもって本を読んで配信ライブを見ようかという今日この頃です。田舎なので入院170人で病床使用率50%超えてしまう。
今年のやりたいこととしてグラフィックレコーディングとカリグラフィがあってここでやることにしました。
まあでかいポップですね!

それでもあなたは回すのか 紙木織々

[amazon asin=”4101802041″ kw=”それでも、あなたは回すのか (新潮文庫)”]

お仕事小説のいいところは「こういう感じなのかなー」って職業疑似体験できるところだ。本作はソシャゲをたしなんでいる人が読むと、いつもやってるソシャゲの運営会社の苦労が垣間見れる。

文学部卒の友利晴朝(「はるとも」なのであだ名はハト)は株式会社アローンズゲームスの内定をゲットした。ハトの所属は業界では花形だと呼ばれる「自社運営のソシャゲチーム」第1事業部の2チームの片割れ、「アローンズゲームスで最初に売れたソシャゲ、8年経った今は赤字を垂れ流すサービス終了待ったなし」の「タクティクスソウル」チーム。プロジェクト名から「タクト」と呼ばれる方だ。

ソシャゲをやっていると深夜帯から緊急メンテナンスがはじまることもあり、中の人の心配をしてしまうが、ハトの会社はかなりホワイト企業だ。ハトはプランナーとして入社して教育係の安村さんから、不安点を聴取したうえで「いずれはユーザーサポートもやってほしい。そのためにはまずユーザーと同じ目線に立つ必要があります。あなたの仕事はまずタクティクスソウルをプレイすることです。具体的にはこれを達成してください」とリストが渡される。残業しようとするそぶりを見せようものなら「今はそんな急ぎの仕事を任せていません。残業は翌日の仕事に支障を与えます。何か理由があるなら傾聴しますが?」と定時退社を求める。トラブル対応時など、何事も例外があるのだが。

私のソシャゲ経験は片手で足りる程度の経験値だけど、それでもサ終(サービス終了)はいくつか経験している。サ終前の運営はこんな感じなんかなーと思って読んでいたら作者の方もハトと同じ「ソシャゲ開発会社のプランナー」であることを知った。となると作中のあのインシデントのあれは実体験もしくは本当にあった怖い話の可能性が? と思うと頭が下がる。雑談って重要だなと思う一作。

電子書籍:○

忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む 辻村七子

[amazon asin=”4086803542″ kw=”忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む (集英社オレンジ文庫)”]

ガブリエーレは20年ぶりにイタリア・フィレンツェに降り立った。ガブリエーレは幼いころから「黒いもや」が見えていた。他の人間には見えないと言われていたが唯一パオロだけは自分にも同じものが見えていると、お前は1人ではないと肯定してくれた。そんなパオロが病院の裏手で倒れており今も意識不明の状態だ。ガブリエーレはパオロが話してくれた「これは秘密だけど自分は神様の手助けをしているんだよ」と言っていたことからパオロの裏稼業に辿り着き、自らを「かっぱ」と名乗る半吸血鬼とともに事態の解決に乗り出す。
宝石商リチャードが好きな人にはちょっと読みづらいかもしれず、デビュー作螺旋時空のラビリンスが好きな人は好きかもしれない。

電子書籍:○

ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。haru

[amazon asin=”4309249639″ kw=”ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。: 解離性同一性障害の非日常な日常”]

これは「解離性同一障害」いわゆる多重人格について扱った本だけど、医学書ではない。創作でもない。これは現実に存在した、その疾患を抱えた当事者による本だ。

「疾患の治療法」「付き合い方」などは書かれてない代わりに大変読みやすく気軽に読める。
haruさんには12人の別人格があった。この本は別人格のすべてについて紹介されているが、本文中で語り部として登場するのは主に3人の人格だ。主人格のharuさんはあとがきに登場する。どういう風にして人格が生まれ、1日の動きがどうなっていて、診断名がつけられるまでにはどんな道のりがあったのか。そういうことが語られている。
あくまでもこれは症例のうちのひとつである。解説の精神科医岡野医師も書かれているが、発症の原因として語られがちな虐待の話は登場しない。破壊的で黒幕的な人格も存在しない。幸福な事例だったのだろうと思う。
haruさんは「直接会える解離性同一性障害の人」として活動されていたが、去年この世を去った。技術を悪用されtwitterアカウントは凍結されごく一部の文章がnoteなどに残されているのみだ。
この本を紹介したのはこういう人と交代人格たちが存在したこと、「人間には等しく24時間が与えられている」が当てはまらない人たちが存在することを誰かに伝えたいためだ。

20210315追記:haruさんは生きていた。なりすましではなく本人である。つい先日オンラインでの活動を再開された。当時「haruくんは遠い所へ行きました。ありがとうございました」とお友達からのツイート及び画像、予約投稿されていたと思われる遺書めいたエントリが上がっていた。しかし「遠いところ」には行っていたのは事実のようで、前と同じではない様子。

電子書籍:○

ダンシングプリズナー 遊木ユウ

[amazon asin=”4086803585″ kw=”ダンシング・プリズナー (集英社オレンジ文庫)”]

2020年度ノベル大賞準大賞受賞作品。ざっくりいうと「特殊設定の全寮制男子校ジュブナイル」。
どんな風に特殊設定かというと舞台は少年院で、でも普通の少年院と違って「演劇を通じて自律と協同を促す」月1ペースで舞台をやっている少年院だ。
舞台に向けての準備は毎日あり、直前になるとそれにかかりっきりになり公演に関することであれば院生はある程度自由に動くことが許され会話もOK、なんならトンカチのような武器になりそうなものの使用許可もある。すべては公演のため。本格的な舞台の上演は目標とせずあくまで過程が大事だとされ、「普通の演劇より感動できる」と一般人のリピーターもいる。

この少年院に入所してくるものは無作為に選ばれるため、年齢も犯罪歴もばらばらだ。
主人公は神連唯(かみつれ ゆい)14歳。3度の脱走を図り失敗して反省文を書かされているところから物語始まる。彼の罪名は殺人。ただし彼は無罪の罪でこの少年院へ送られてきた。
曼珠沙華煌(まんじゅしゃげ きらめき)という周囲の人間を惹きつけてやまない少年が入所してきたころから神連は徐々に変化していく。

神連が殺した相手とされている父親を殺した真犯人は、という話に流れていくけどその辺はハウダニット(どうやって殺したのか)に割かれていてこっちも「結果より過程が重要」って感じ。

オルタネート 加藤シゲアキ

[amazon asin=”4103537310″ kw=”オルタネート”]

2021年直木賞・本屋大賞ノミネート作。

オルタネートという「高校生限定個人認証済実名マッチングアプリ」が一般的な現代日本の、円明学園高校での群像劇。青春は大体キラキラしている。
私が高校生だった時というのはアプリどころかガラケーすら一般的な存在ではなく、ごく限られた人間だけがポケベルを持ち歩いているような時代だったけど、手段が違うだけで変わらないものもある。例えば文化祭とか部活とか。
本作は群像劇だ。料理の甲子園的な配信型コンテスト番組「ワンポーション」に出演したい調理部3年生の蓉(いるる)、オルタネートに詳しいガチ勢。でもアプリを通じて誰とも会ったことはなく、オルタネートが提案する「あなたと相性のいい人」90%以上の人が現れたら、その時初めて会おうとと思っている凪津(なづ)、高校を中退しオルタネートはもう使えなくなったが弟のアカウントを使って昔の友達を探し円明学園高校に忍び込んだ尚志(なおし)
この3人を中心に物語が動く。長編だけど視点移動に伴い細かく章分けされているのでちょっとずつ読み進めるのにも向いており、身近なテーマ(高校生の青春)なので本を読みなれない人にもおすすめ。

電子書籍:×(2021/1/25現在)

ハッピーホリデー!
きょう仕事納めの方ももうちょっと働く方も年末年始も変わらずお仕事の方もお疲れ様です。今日から本更新です。といってもあらゆるものが試運転のため、春先までは温かい目で見てほしいです。よろしくお願いします。
今月のおすすめ本は以下の5冊です。

有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 2 /栗原ちひろ

[amazon asin=”4086803577″ kw=”有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 2 (集英社オレンジ文庫)”]ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にしたオカルトミステリー2巻。
緊急事態宣言発令後、都会の本屋が軒並み閉まって本が売れないどころかスタート地点にも立てない「悪夢の4月刊」のうちの1冊だったエリオット1巻に重版がかかったことが個人的に今年の数少ないドラマチックなことだった。

社交界で知らないものはいない心霊マニア、「幽霊男爵」という通り名さえあるエリオットと「自分は人形です」と称するコニーが心霊事案ですったもんだーします。心霊マニアとはあくまでも表向きの分かりやすい話で、エリオットは本当に幽霊が見え、10代のころは生者と死者を区別できず苦労していたことも。その時の話が2巻の1話で語られます。色恋沙汰はそう多くはありませんが顔のいい男といい感じの関係性(複数)はあります。短編形式ですが世界観にどっぷり浸れる系なので読みごたえ抜群。

電子書籍:○

竜神さまの生贄になるだけの簡単なお仕事/夕鷺 かのう

[amazon asin=”4047364347″ kw=”竜神さまの生贄になるだけの簡単なお仕事 (ビーズログ文庫)”]「自分を(物理的に)食べてほしい聖女見習いルーチェ」VS「意地でも食べたくない竜神オルフェン」

「私を食べてください」と異形の元へやってくる少女で連想される物語といえばLaLa本誌でコミカライズが絶賛連載中の紅玉いづき「ミミズクと夜の王」ですが、こちらとはいっそカテゴリ違いのレベルでコメディにステータスを振りきった物語です。ラブコメというよりはコメディ時々LOVE。
どのぐらいコメディかというと「オルフェン様の嫁とは思えないよくできた聖女だ」と言われて 「あの方の花嫁なんてそんな大それたものではありません。私はあの方専用のです」という問答をし、ことあるごとに「自分も食べませんか」と誘い、「私という肉がありながらどこの肉とも知れぬ肉(※ウサギ)は食べるんですね」と言いつつ自分でウサギの解体をしオルフェンのお世話もする押しかけヒロインです。
あと結構珍しいなと思ったのはオルフェン(男視点)で「お前くっそ可愛いな??????」って思ってるシーンがたびたびあるところです。

電子書籍:○

寝屋川アビゲイル黒い貌のアイドル/ 最東 対地

[amazon asin=”4065200016″ kw=”寝屋川アビゲイル 黒い貌のアイドル (講談社タイガ)”]アイドルグループNExTの人気投票で1位に駆け上がりセンターに抜擢された「るる」こと瑠璃丘類衣のアイドル人生はある日突如として終わりを迎えた。アイドルに戻りたい、でもこの顔のままでは戻れない。るるの顔は今黒いシミでおおわれている。

現代の医学では「異常は見られない」美容整形でも対応不可能と言われたるるが最後に流れ着いたのが「霊能者ブローカー」阿南だ。あの人ならなんとかできそうと言われて寝屋川までやってきた。一縷の望みを手繰り寄せてるるは東京から大阪は寝屋川市へとやってきた。この町は一味違う。東京は人にぶつかったとしても何も言われないが、この町は全身黒衣の自分を見て「カラスが寄ってくんで」だの「カオナシや」だの「暑ないんか」と話しかけられる。
るるの目当ては阿南の紹介でたどり着いた「アビゲイル」、アビーとゲイル。コンビの厄裁師だ。

帯には「新感覚ナニワホラー」って書かれているけど、人がなめらかに死んだり呪いとか死者とかそういうものが出てくるだけで「人が死ぬ物語」に抵抗がなければホラー耐性はなくても大丈夫です。具体的にいえば呪術廻戦が読めるなら大丈夫。
「あれ、なんでそんなこと言うの」っていうのがいい感じに伏線になってそういうことかーーーってなる感じの繰り返しなのでそういうのが好きな人にはお勧めです

電子書籍:○

蟲愛づる姫君の婚姻/宮野美嘉

[amazon asin=”4094066527″ kw=”蟲愛づる姫君の婚姻 (小学館文庫キャラブン!)”]中華で年の差婚とかお前のことは女と見れないとか蠱毒とか呪いとかそういう要素が含まれています。幽霊伯爵の花嫁読者なら宮野美嘉があの感じで中華恋愛ファンタジーを書きました、で説明が済むんですがもうちょっと書きます。
斎帝国の第17皇女で15歳の李玲琳(り・れいりん)は、ボロをまとい地べたに這いつくばり、蟲を愛し蟲術を使い、それでいて黙ってさえいれば多くいる皇女のうち誰よりも美しい少女だった。彼女が愛する姉にして斎の女帝の命令で玲琳は新興国魁へ嫁入りすることが決まった。玲琳の夫となったのは楊鍠牙(よう・こうが)25歳。玲琳は鍠牙と初めて出会った時こう聞いた。
「お前は私のために金を使ってくれる男かしら」

玲琳と鍠牙は「新婚夫婦」という単語が想起される「甘さ」はなく、かといって政略結婚の無関心や冷たい素振りもなく、お互い我が強く個性も強く、でもお互いの主義は主張しつつ、お互いの主張もある程度は尊重する、のような「このふたりならでは」の夫婦愛が見られます。
たとえば玲琳が両手を広げると「抱きしめてあげる」という意思表示です。
現在既刊4冊、来年1月に新刊、2月には初の短編集の刊行が予定されています。

電子書籍:○

2.43/壁井ユカコ

[amazon asin=”4087452921″ kw=”2.43 清陰高校男子バレー部 1 (集英社文庫)”]

福井の弱小バレー部を舞台に春高を目指すスポ根小説です。
レンザブローでWEB連載されていたものが一定期間ののち書籍化されました。人気なので続編をやります、を今冬ついにノイタミナ枠でアニメ化します。
既刊は単行本のみだと4冊。最初の2冊は文庫化されていますが上下巻仕様なので全6冊。現在新シリーズがWEB連載されています。

一番最初の物語の話をすると、群像劇として描かれているある青春の物語です。
口は悪いがバレーに関してはきっちり褒める情熱溢れるセッター灰島と身体能力は高いがプレッシャーには弱い黒羽、女子バレー部員でかつてエース、今はぱっとしない茨ちゃん、健康上の理由で屋外で運動できない棺野くん、小さいキャプテン小田、小田のシンメ相棒青木。
「青春って眩しいなあ」と、大して輝いてもなかった過去を振り返りつつ沁みる1冊です。

2.43 清陰高校男子バレー部 ポータルサイトでは詳細なあらすじ、登場人物表も公開されているのでこちらもあわせてご覧ください。

電子書籍:○

次回のレビューは1月25日更新予定です。

全国的にコロナウィルス感染拡大が広まっており、忘年会も新年会もしないでステイホームしてくれという流れが広がっています。「おうち時間を豊かに」の一環としてコバルト文庫では期間を区切って3シリーズの読み放題キャンぺーンが開催されています。

2020/12/18~12/24
響野夏菜『鳥籠の王女と教育係』
2020/12/25~2021/1/7
松田志乃ぶ『平安ロマンティック・ミステリー 嘘つきは姫君のはじまり』
2021/1/8~1/14
小田菜摘『そして花嫁は恋を知る』

3作とも10巻超ありますが、読みやすく面白い物語なので未読で時間を持て余しがちな方はぜひ。

2020年-2021年末年始企画 物語の最後まで読める!完結人気シリーズが勢揃い おすすめ3シリーズ読み放題リレー|集英社Webマガジンコバルト文庫,オレンジ文庫

2021年1月20日でオレンジ文庫が創刊6周年を迎えるにあたってフェアが開催されます。
6周年記念帯についているQRコードを読み込むとSSやエッセイを読むことができます。

SS・エッセイの担当作家は
青木祐子・阿部暁子・菊川あすか・香魚子・愁堂れな・白洲 梓・辻村七子・はるおか りの
です。ひとつのQRコードで全部読めます。(公開期間:2021年5月31日まで)

また箔押しのスペシャルしおりが封入されています。こちらは全4種ランダムです。

またWEBマガジンコバルト作品がオレンジ文庫から刊行されます。
久賀理世作「王女の遺言」 2021年1月20日発売

政略結婚のため、嫁ぎ先へ向かう道中、海賊に襲撃され生死不明となったガーランド王国の王女アレクシア。アレクシアと瓜二つの女優ディアナは、王の重臣グレンスター卿の依頼を受け、アレクシアの身代わり役を続けていた。
アレクシアの護衛官ガイウスは一瞬で身代わりを見破るが、本物のアレクシアが発見されるまではディアナを支えることに決める。そして一連の事件は、王位への野心をあらわにした兄王子ウィラードが仕組んだ「王女アレクシアの暗殺計画」の可能性があることに気づくディアナとガイウス。
一方、人買いに拉致されたアレクシアは、売られた先の娼館から脱出し、ディアナの一座の仲間である劇作家リーランドと行動を共にしていた。リーランドの助言から「王女アレクシア」を利用しようとするグレンスター家の陰謀に気づいたアレクシアは、危険を冒して王都へ戻り、ディアナと己の立場を、元通り入れ替えようと決心する。

王女の遺言|よめる|集英社Webマガジンコバルト

上記リンクから「最新更新分を読む」から2019年7月5日連載開始分から読めます。

はじめまして!
普段はcolorfulという読書感想系日記サイトを管理運営しているまろんと申します。
本当は15日にプレオープンのはずでしたが今日は「なにかをはじめるには良い日」だと聞いたので前倒しできょう開設します。なので、次お越しになる際は見た目や機能が変わったり追加されたりしているかもしれませんが、お、なんか変わったなあと思ってください。

とある秋がいい感じに深まった日の寝起きに「そうだWEBマガジンをやろう」と天啓のようにひらめいたので、本家とは別に立ち上げて読書系のWEBマガジンをはじめます。方向的にはダヴィンチより圧倒的に活字倶楽部です。活字倶楽部でピンと来ない方は弊ブログの読了カテゴリをぱらぱらとご覧いただければと思います。

更新頻度はとりあえず月1回25日をレビュー更新(その月の新刊や3か月内程度の作品、すごく古いやつで数冊取り上げる予定)します。続けられる範囲が分からないので春先ぐらいまではさぐりさぐりやっていきます。更新頻度は最低の場合で月1回ですが、上記colorfulはそれよりはもうちょっと更新しているので、書いている人のひととなりを知りたい方はそちらをご覧ください。

先日の少女小説ガイド配信で復刊とか刊行情報が手に入らないというコメントがありました。そういう情報収集先はいくつあってもいいだろうと思うのでそういう新刊ニュース系もとりあげようと思います。

取扱いジャンルですが
・ライト文芸
・ライトノベル
・エンタメ寄りの文芸
あたりで9割ぐらいになると思われます。主に女性向けの取り扱いです。
電子書籍はkindle(Amazon)を基準とします。
ちなみにBLについてはわたしが一穂ミチ作品と凪良ゆう作品以外はあんまり読まないので、取り上げるとしたらそのどちらかになると思います。
今現在特に推してる作家は栗原ちひろ・斜線堂有紀・有栖川有栖・辻村深月・竹岡葉月・紅玉いづき・野梨原花南・三浦しをん・加藤シゲアキのあたりです。
ファンタジーとミステリが好きです。密室殺人が好きです。ジャンプとガンガンとコバルト文庫と富士見ファンタジア文庫と電撃文庫と講談社ノベルスを読んで大きくなりました。

このWEBマガジンは私1人が趣味の延長でやります。今時点でおそらく内容は相当偏ることは想定されます。それにわたしが「これはWEBマガジンです」というだけで特にWEBマガジンのいろははこれから探っていく感じです。単に好きな作品を自由に推せる場所を増やしただけという話ですが、とりあえず春までは続けたいと思っていますので、応援の程よろしくお願いします。

PAGE TOP