今回は文字数多めになったので3冊でお届け。

ミミズクと夜の王 完全版 紅玉いづき

15年前刊行された紅玉いづきデビュー作の「ミミズクと夜の王」の新装版が刊行された。
電撃文庫マガジンに掲載されその後電子書籍で刊行されていた「鳥籠巫女と聖剣の騎士」に追加エピソードが加筆されている。

夜の森にひとりの少女が迷い込んだ。両手にはジャラジャラと鳴る鎖、額には番号が焼き印で刻まれている。ことあるたびに自分は家畜だ、人間ではないと言い、森に迷い込んだ最初の夜に出会った王に「あたしを食べて」と頼んだ死にたがりの少女の物語。

15年前のリアルタイム読者だった私は「わーい完全版だー」と駆け寄って読んだら背後からナイフで刺されたような衝撃だった。これまでのたびたび鋭利なナイフや鈍器のような衝撃でボコボコにされた紅玉いづき作品は多くあるけど、15年前まったくもってぴんとこなかった「白状します。泣きました。奇をてらわないこのまっすぐさに負けました」という有川ひろ(当時有川浩)の帯コメントがまんま自分の身に降りかかるとは思わなかった。これが加齢による味変か?
「少女は走る。恋した相手のもとへ」というまっすぐな物語に、「初めて読んだのかな?」というレベルで外で泣くという事案だった。「マスクをしていてよかった」とこれほどまで思うことがあるとは思わなかったな。

紅玉いづきデビュー15周年企画として現在3か月連続刊行中。先日姉妹作の「毒吐姫と星の石」が刊行された。コミカライズ「ミミズクと夜の王」はLaLaで連載中でコミックスは3巻まで刊行。

働く私と彼女の同棲 野水はた

カクヨムからの書籍化で百合。
「冷めてる」と言われがちの花芹茉莉(はなせり まつり)は母を亡くした桃山澄玲(ももやま すみれ)を預かることになった。澄玲の父は服役中で、誰も澄玲の面倒を見ようとはしたがらなかったらしい。「澄玲の高校から一番近い」という理由と「あんたももう大人なんだから」と半ば押し切られるようにして澄玲は茉莉のアパートへやってきた。

暗い部屋で膝を抱えていた澄玲が罪悪感なく電気をつけられるようになって、徐々に近づいていく2人が心情描写も多く語られていてよかった。
ちなみに本作は「女性ふたりの交流が描かれている」という意味の百合だけではなく、恋愛的な意味での百合でもある。かといって性描写は(商業BL小説に比べれば)格段に少ない。キスシーンはあるがそれ以上は匂わせ程度だ。しかしただの接触は非常に多い。
茉莉のことを「まつり」と呼ぶようになって以降の澄玲は犬のようになついていたし、銭湯の湯舟につかって「大人は駄目だけど子供は殴っていい」と澄玲に言ったことや、ちょっとした動作がバタフライエフェクトのように作用していたのがとてもよかった。「伏線回収」と言われたらそれはなんか違うように感じるが、「人間の営みの積み重ね」はこういうものだと思った。つい先日最終回を迎えたカムカムエヴリバディを思い出す。

読んでる途中で「おっ」となったのは茉莉の年齢だ。20代後半ぐらいだろうかと思いながら読んでいたが、若干20歳だった。同級生にはまだ学生も多くいるだろう年齢だ。でも茉莉は今の花屋で勤続2年でマンションでひとり暮らしをしていて、おそらく自分の稼ぎで生活している中で澄玲の生活費や学校までの定期代とかの面倒も見ている。茉莉はたびたび「大人とは?」ということについて考えたり話したりしているけど、「大人」というにはあまりにも年若く感じられて、自分が20歳のころを思い起こして、しっかりしてるなあと思いながら読んだ。この作品は20歳と17歳だからできることだ。

東京かくりよ公安局 松田 詩依

小学館文庫キャラブン! アニバーサリー賞受賞作品の大幅加筆作品。
この賞はよくある賞とは違って「小学館文庫キャラブン!のレーベル創刊時のこのイラストにつける」短編小説を募集します、というものだった。
1章(受賞作)に書き下ろしを加えて連作短編になったのがこの作品。

ある冬の日、新月の晩。フードデリバリーのバイト中の西淵真澄の運命は動いた。
「連絡がつかなかったらお兄さんが食べてください」という最近増えてきた「公共施設を配達場所として指定する謎案件」のため真澄は深夜0時に東京駅にやってきた。弟からの電話が突然切れたことを不思議に思い画面を見てみると表示されているのは「圏外」の2文字。気が付けば周囲から人の気配が途絶え、地図からは「東京駅」の表示が消え代わりに「東京幽世壱番街」と現れた。
その瞬間浮遊感とともに東京の街の下に知らない街の姿を見た。今見ているのが夢ではない証拠に真澄を襲ったのは強い衝撃と血の味と死が迫る気配だ。

そうして真澄は死を免れたかわりに前代未聞の「半人半妖の狐憑き」となった。今真澄の体には天狐神黄金と名乗る、狐の耳をもつ美少女が住んでいる。
真澄は事件に巻き込まれた被害者だが、天狐の力がどう作用するかわからず事態が判明するまで「東京幽世公安局公安部公安特務課預かり」となった。承諾すれば衣食住と就職先としての給与が保証され、拒否すれば良くて幽閉悪ければ人体標本となる。選択肢はなかった。
真澄は現世の真下、異界幽世の住人となる。公安特務課には狐憑き真澄以外には鬼蜘蛛ヒバナ、鬼の子百目鬼、烏天狗三海、人間の戸塚と九十九がいる。
幽世での騒動は直上の現世に影響を与える。事態収拾にあたるのが公安特務課だ。

ライト文芸あるあるあやかしほっこりもの謎解きものお仕事ものではなく、アクション多めで少年漫画みたいなノリで、ジャンプで言うとアヤシモンです。

今月のはと文庫オンラインは諸般の事情で1冊だけの更新です!
といいますのもついに我が家も流行り病の流れに飲み込まれて、ようやく今週行動制限解除および退院という運びでした。陰性で体は健康でも非日常すぎて摂取できるエンタメが限定的過ぎて読めた小説がそもそも少なく。

水無月家の許嫁 友麻碧

 

水無月六花が16歳の誕生日を迎えた日は父の四十九日法要だった。通夜や告別式はしておらず本日父の知り合いを呼んで法要を簡潔に執り行った。父はどこの病院でも匙を投げられた奇病で42歳の若さでこの世を去り、今六花の手にも同じ病の兆候が出ていた。
自分ももうすぐ死ぬと思っていた頃、六花のはとこであり許嫁の関係だと名乗る水無月文也が六花を迎えに来た。

あやかしだ天女伝説だと登場するけど、あやかしものよりは個人的にはこれをSFに分類したい。
というのも「水無月家は天女が持ち込んだ月の資源を用いて財を成した一族」だとか「念動力が扱える」だとか「因習でがんじがらめで遺産相続で命の奪い合いが起こっている」とかがしっくりきている。ちなみにそれら一族が邸を構えているのが京都(および滋賀)というのもポイント高いです。陰陽師やそういう異能の一族が住まう土地として京都は素晴らしい。

六花は双子の片割れとして生まれ落ちたが母の愛は姉に注がれ、ネグレクトのような状態だったところを父だけが六花をかばい続け最終的には父子家庭となった、というバックグラウンドから自己肯定感などがマイナスの女の子です。
父がこの世を去り、頼れる身内がなくなったところを水無月家に許嫁として迎えられるというほかに選択肢がない状況ながら、六花はようやく水無月家で落ち着ける場所を手に入れます。しかし待ち受けている過酷な運命みたいなものが見え隠れしている [1]しかもそれは六花の家族となる水無月家ほかの人間も同じでようで今後の展開が楽しみな1冊です。

世界的には世界フィギュア選手権が開催中です! 今年はウクライナ侵攻の件でロシア選手が出場していないため、表彰台に上がる人がいつもとガラッと変わりますが、そんなさなかでもおすすめの漫画がこちらッ!

小学生女子がフィギュアスケートとアイスダンス出身のコーチと出会いオリンピックを目指す話です。激熱なのでとてもおすすめです。kindleは1巻無料で本日3月25日最新5巻が発売になりました。

 

ちなみにそれ以外でも濃厚接触者期間でも見られたもの

ミステリと言う勿れ(ドラマ)
カムカムエヴリバディ(朝ドラ)
スパイファミリー(ジャンプラ)
週刊少年ジャンプ(紙に限る。1回だけ電子書籍は白くて見開きも見やすくて長年の習慣によるワクワク感には勝てなかった)
ラジオ番組各種

ライトなノりの物、時間が短い物、聴覚だけでも楽しめるものが接種できた感じです。

References

References
1 しかもそれは六花の家族となる水無月家ほかの人間も同じで

今夏8月13日~14日開催予定のコミックマーケット100で、光来たる島(流血女神伝完結記念エドとカリエのその後の物語)とアンゲルゼ補完本(直近ではアンゲルゼ電子書籍化完了記念で公開されていたやつ)の新装版が頒布される予定だそうです。通販あり。
「光来たる島」は本編完結後の話なので、コミカライズではじめて追っている人は年単位で寝かせておいてほしいし、アンゲルゼは4冊完結でしょっていう人はこの本ぜひ読んでほしい。アンゲルゼは流血女神伝に比べれば知名度が低い作品ですが、「人外の戦争が長期化している世界での少年少女の物語」「とにかくものすごく重い」がピンとくる人はぜひとも読んでほしいです。
電子書籍もありますので!

13年前の感想が今すっと出せるのがわたしのなせる業です。
アンゲルゼ/須賀しのぶ | colorful

「在庫は1年はもたせる予定です」とのことですが、わたし個人としては「流血女神伝とアンゲルゼが好きな方には大変おすすめできる1作です(※1冊ではない)」「出来たら早めに確保してください!」と声を大にして言いたいと思います!

「少女文学館」5月のコミティアと神保町一棚本屋です

紅玉いづきさん主宰サークル「少女文学館」新刊は5月のコミティアで頒布される予定です。

紅玉:5月コミティア、申し込み予定! つきましては~~~~~~~~!!!!!! ついに!! 「少女文学 第五号」刊行決定です~~!!!!!!!!!! いや決定かどうかはしらんけども! わたしが! つくると! 決めたので! つくります!! 間に合わなかったらごめん!!(略)
紅玉:「少女文学」も、なんと第五号! というわけで、今回は記念号といたしまして、ちょっと特別な一冊にしたいと思っております。今回はテーマのみ、お知らせ! 暫定テーマタイトルは、「少女・ショート・ショート」! 過去の参加者さまみなさまにご連絡を差し上げて、とにかくたくさんのショートショートを! 収録できればと思っています!!

イベント・通販以外でも現在少女文学を手に取れる本屋さんが存在します。
現在神保町にあるシェア本屋「PASSAGE by ALL REVIEWS」さんです。こちらは書棚単位で出店が可能で、店主は栗原ちひろさんです。

PASSAGE by ALL REVIEWSさんは現在感染対策上完全予約制で3/1-3/15は時短営業(15-19時)、予約時間前入店&遅刻入店×、現金決済不可となっています。ツイートから受ける店内イメージは大変素敵な感じ(古い人間なので、かつてあったTRICKTRAPのことを思い出したりしました)なので、気軽に首都圏へ行ける世の中になったら是非とも行ってみたいです。

わたしの2月は仕事と北京五輪とMOTHER2でほぼ終わったので今日はそういう感じの特集です!

砂嵐に星屑 一穂ミチ

「イエスかノーか半分か」シリーズで長らくテレビ局や報道について書いてきた一穂ミチが書くテレビ局に関わる人々の話。大阪、福島にあるなにわテレビに勤務する人々の連作短編。

上司のアナウンサーとの不倫で「東京のキー局へ出向」という名の懲罰人事から大阪へ戻ってきた三木邑子(43)は資料室で不倫相手村雲の幽霊が出ると聞き、深夜に張り込んでいると一風変わった新人笠原雪乃と出くわし、なおかつ本当に村雲の幽霊を見た。(<春>資料室の幽霊)

地震が起きて電車が止まった朝、中島と市岡は徒歩で西宮駅から(兵庫県)から職場の福島駅(大阪)付近まで向かうことを決めた。52歳という年齢で17キロを歩くことがどのぐらいの負荷なのかわからないがとにかく行くしかほかない。
中島は考える。思い出す。30人以上いた同期が離職していったここ数年を。とある一件からまったく会話がなくなった娘のことを。一昨年取材していた熊本の地震のことを。(<夏>泥船のモラトリアム)

新卒で就職した企業をパワハラで1か月で退職した結花は派遣会社からADの職に就いた。
AD経験を3年積んだあと、ベテランのタイムキーパーの後を継いで今はフリーランスのタイムキーパーとして働いて、好きな男性とルームシェアをしている。同棲ではなくルームシェアだ。なんせ由朗はゲイ。とんとん拍子でルームシェアが決まったがそれ以上のことは望みのない相手だ。
(<秋>嵐のランデブー)

「30代半ばに入ってまだADはキツいやろなんせ周りが気遣う。サポートはするから」と堤晴一は代打で規模の小さな密着ドキュメントのVTRを作ることになった。対象は並木広道というクリニクラウン(病院で大道芸や手品をする芸人)で、彼は腹話術の人形と漫才をする。晴一と対照的に広道は人の懐に飛び込み、苦戦した街頭アンケートも回答を取ってくる。カメラが回っていない時、広道は阪神大震災の被災者だったことを話した。
(<冬>眠れぬ夜のあなた)

イエスノーシリーズで何かおすすめはと聞かれたら無難に1巻と、もう1冊は番外編の「つないで」をガチ推しします。

これはディレクターとプロデューサーの話で「ザ・ニュース」という夜のニュース番組の作る側、ドキュメント番組のやらせについて、ある大雨の日、講演のため広島に到着したかと思えば大雨特別警報が発令された。交通網が寸断され市内だけで数百軒の停電が発生し、NHKおよび民放のテレビ電波もいつ停波するかわからない。その緊迫した状況での報道マンの奔走が語られる。

ちなみにイエスノーシリーズは男性同士の性描写が少なからずありますので、苦手な方はご注意ください。

少女を埋める 桜庭一樹

2021年2月、直木賞作家の冬子は7年ぶりの母からの電話で父が死の際にいることを知る。感染リスクの高い東京から感染者がほぼ見られない鳥取へ移動することの是非 [1]当時の東京は年明けの1000人越えから300人程度まで減少していたころだった。一方鳥取は出て1日1名程度、感染確認0名の日も多い時期だった。からオンライン面会を経てPCR検査後鳥取へ飛んだ。

本作は桜庭一樹の私小説です。「少女を埋める」を発表後、朝日新聞社の書評欄で起こった誤読もしくは解釈違いから始まる一連の流れが一作にまとまり(キメラ)、その後の顛末も描かれる(夏の終わり)
桜庭さんのこれまでの読書日記や東京ディストピア日記のような文体で、あの作品が生まれた背景にはそんなことが、ということが語られている。

奇跡なんて、起きない。フィギュアスケートマガジン取材記2015-2019 山口真一

2014年全日本選手権から2019スケートカナダまで。
インタビュー記事の文字起こし全文掲載という丁寧に羽生結弦という人物が描かれている1冊です。

羽生結弦は助走しない 高山真

30年来のフィギュアスケートファンが書く「羽生結弦選手のこのプログラムのここがすごい」
「ここがすごい」については箇条書きなので動画を見ながらだとわかりやすい。
ただし、「ここのここがすごい」という書き方なので用語や場面が分からないと「なんかわからんけどそこがすごいのか」という感じになると思う。取り上げられているのは2010年ジュニア時代から平昌オリンピックで金メダルを獲得したSEIMEIまで [2](※本書は平昌前に発売されているので2個目の金メダルについては言及されていない
前半には用語の説明あり、初心者にもある程度は優しく、平昌五輪に出場したシングルスケーター(日本・海外選手ともに)にも言及あり。

兄・宇野昌磨 弟だけが知っている秘密の昌磨 宇野樹

弟視点から見る宇野昌磨という人物について。
メダル2個取った人とかスマブラめっちゃ好きなんだろ? とかそういう人で宇野昌磨とは、という人となりが知りたい人にはぜひともお勧めしたい1冊。

References

References
1 当時の東京は年明けの1000人越えから300人程度まで減少していたころだった。一方鳥取は出て1日1名程度、感染確認0名の日も多い時期だった。
2 (※本書は平昌前に発売されているので2個目の金メダルについては言及されていない

いろいろあって体調が改善したせいか今月から突然読書が捗るようになっていろんな本をたくさん読んでいます。本を読むのって楽しいなあと数年ぶりにかみしめています。
そんなわけで今月はミステリ特集。今後も何回かやると思うので、今回はナンバリングをつけました。

女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け 石田リンネ

ファンタジー世界のフーダニット

若き女王オフィーリアはある夜殺されてしまうが、王冠に住まう古の契約と呪いにより10日限定で生き返る。再び現世へ戻るにあたり望みを聞かれオフィーリアは「自分を殺したのは誰なのか」と答えた。
10日間残された猶予でオフィーリアは犯人の特定や後継(弟)の育成に勤しむ。生前は夫デイヴィッドのことや様々なことで自分を殺していたが、たまたま生きているだけの今は最早誰に気を遣う必要もなく好きなドレスを身に着け容赦なく平手打ちをぶつける。

春期限定いちごタルト事件 米澤穂信

先日第166回直木三十五賞を受賞した米澤さんの日常の謎シリーズ。
小鳩君と小佐内さんは今日も小市民を目指す。なんでも推理してしまうその癖から苦い経験をした小鳩くんと似た境遇の小佐内さんは名探偵になどならずつつましく、と思うものの目の前には次々に謎が現れる。スイーツに執着しある時は復讐に燃える小佐内さんと小鳩くんの物語。

基本的には連作ミステリの短編集。最新作(書籍)は巴里マカロンの謎、最新作(短編)は「羅馬ジェラートの謎」(紙魚の手帖vol.2)

GOSICK 桜庭一樹

占い師の死からはじまる豪華客船での殺人事件

20世紀初頭、第一次世界大戦後のヨーロッパの小国ソヴュールにある聖マルグリット学園が舞台。東洋から招かれた留学生久城一弥は図書館の一番上の植物園に謎やお菓子をせっせと運んでいた。そこには人形と見紛う美貌と明晰な頭脳を兼ね備えた少女、ヴィクトリカが本を読みながら退屈を紛らわせる新たな謎を待っている。

本作は富士見ミステリー文庫で産声をあげ、レーベル終了後は角川ビーンズ文庫と角川文庫両方で刊行された。完結まで刊行されているのは角川文庫版のみ、挿絵ありは富士見ミステリーもしくは角川ビーンズのみ。
GOSICK REDにはじまる色の名前を冠している数冊は第2部(もしくは続編)のため読むなら「GOSICK」と数字で始まるものを。数冊あるGOSICKsというタイトルは短編集なので1巻に限ってはここを入り口にしても大丈夫です。

invert城塚翡翠倒叙集 相沢沙呼

倒叙ミステリ。

実行される殺人、アリバイは完璧、これで事故として処理される。そう思った犯人のもとに城塚翡翠が現れる。彼女は霊能力があるというのだが。
犯人の視点から描かれた中編集。彼らが組み立てた犯行はどのようにして露見するのか。

前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」のネタバラシがあるため、未読の場合はぜひともこっちを読んでからinvertを読んでほしい。

更新を始めて今号で1年が経ちました。今後もよろしくお願いします。今回は最近読んだ本の中から面白かった本や、「年の瀬感にぴったり」「まさに今この時期」な本の紹介です。

愛じゃないならこれは何 斜線堂有紀

短編小説集で恋愛小説。ただし「これが愛ではないというのなら何だというのか」という2人(時には3人)を描いた物語で、「出会ってすったもんだがあって結ばれる(もしくは別れる)」話ではなく、きらきらした感情より「執着」や「妄執」のような単語が似合う恋愛小説です。

例えばアイドルとオタク、舞台にあがった2人のように「君が生まれてきてくれてよかった」「私はあなたのベターハーフ」と恥ずかしげもなく言い合うビジネスパートナー、高校時代からの仲良しで社会人になった今仲良く遊んでいる3人、あなただけ見つめてるのノベライズかなと思うような、恋に狂わせて彼好みの女になるためいろんなものを捨てた女の話。

すごく好きな一文があって

愛は落ちたら終わりの崖ではなく、絶えず湧いては足を取る泉だった。

ネットスラングであるところの「沼」を最大限綺麗に描写するとこうなるんだなと思った。きれいな泥沼。新規の水が流れ込む沼。noteで連載されていた短編集だけど、書籍版には書下ろしがあってそれは3人組の話でその中に登場するのがこの一文です。
恋愛も沼ジャンル。

パラソルでパラシュート 一穂ミチ

先日M-1グランプリが放送されていましたが、これはまさにそれが登場する長編小説。
柳生美雨は大阪城ホールの最前で靴擦れの痛みに耐えながら、流れてきた一曲に心の中で拍手喝采した。人気バンドといえど世間的な知名度はそう高くないが、自分ベストヒットセトリではナンバー1の曲を聴けた。いまいちの盛り上がりの中、自分が好きなその曲を歌うカメラスタッフを見た。その人の声が聴きたいと見つめているとその男性はぱっと美雨のほうを見て、「ふんすい」という口パクを送った。終演後変な人間に絡まれまくりながら待ち、美雨は芸人の亨と出会った。

大阪難波の芸人が暮らす事故物件の一軒家を舞台に湧き上がる友情や別離や共同生活。
マシンガンのように撃ち合う関西弁の会話劇はテンポがリアルな会話のそれで、違和感がない。方言小説は自分になじみがある言語であればあるほど気持ち悪く感じられるものがあるけど、特に芸人同士の会話は文字を追いながら音声で聞こえてくるようなレベル。

星を掬う 町田そのこ

元夫は今日も暴力を振るいながら有り金を奪い取っていく。千鶴は夜勤のパン工場のまかないパンで食をつなぎながら日銭を稼ぐ。それでも生活には金がかかる。そこでラジオの企画に自分の夏休みの思い出を投稿した。母との最後の思い出は5万円と引き換えにコンテンツになった。それが転機になって千鶴は今度こそ元夫から逃れるためシェルターを利用しつつ、幼いころに出奔した母・聖子が暮らす「さざめきハイツ」で暮らし始めた。
母は若年性認知症を患っており、聖子を「ママ」と慕う恵真や聖子の身の回りの世話をする彩子が一緒に住んでいた。そんな風にさざめきハイツには「母娘風の組み合わせ」がいくつもありながら、実際は「普通の母娘」の関係が築けなかった人間が住んでいる。

胃が合うふたり 千早茜・新井見枝香

エッセイ。タイトルからすると作家と書店員によるグルメ巡りなエッセイだと思ってたらまあまあそうではなかった(一応食エッセイ書きませんかという話で始まったそう)。とても仲がいいふたりだ。新井さんは大阪や名古屋でライブがあると、ちょっと足を延ばして京都に住む千早さんのもとへ会いに行く生活を月に1回ほどしているそうだ。
Aというところに行った時の話を千早さん視点、新井さん視点から読める。ごはん中の話も多いが、千早さん視点の「新井見枝香という人について」、新井さん視点の「千早茜という人について」を読むのがなんかやたらと面白かった。エッセイなのにお互いを紹介する対談を延々読んでいたような気がする。

メダリスト つるまかいだ

これ漫画なんですけど今が派手に薦める時なので。
男子シングルからのアイスダンス出身、全日本選手権出場経験あり。なんとかフィギュアスケートにしがみついてきた司はある日出会ったフィギュアスケートをどうしてもやりたいという少女いのりに才能を見出し、コーチをやることを決めた。
2人分の人生を使ってオリンピックを目指す物語。既刊4冊今なら1巻電子書籍が無料で読める(21/12/25現在)

少し前にやっていたアニメのユーリオンアイスはいきなり世界のトップ6(グランプリファイナル)の話からはじまったけどこれはバッジテスト(ガチの初心者)からはじまる。

なんで「今が派手に薦める時」なのかといえば今はまさにオリンピックイヤー! 2月に北京オリンピックが控えており、そして今日(12/25)&明日(12/26)でフィギュアスケート男子シングル・女子シングル・アイスダンスのオリンピック出場者が決定します [1]ペアを除き、全日本選手権優勝者は無条件でオリンピックに出場確定です
男子は多分この3人だろうなというのはあれど、女子は7点差に7人 [2]うち2点差に5人がひしめいているというものすごい大混戦です。誰が優勝してもあり得るというのが今年。

あとわたしは4巻にある2A(ダブルアクセル)着氷するシーンを何回読んでも涙が出てしまうんですが、26日にあるはずの4A(クワドロプルアクセル)着氷の瞬間の情緒が心配。

References

References
1 ペアを除き、全日本選手権優勝者は無条件でオリンピックに出場確定です
2 うち2点差に5人

東京創元社から新レーベルが創刊されます。「創元文芸文庫」ではミステリ・ファンタジー・SF・ホラーなどのジャンルに収まらない文芸作品を刊行していきます、とのこと。
創刊ラインナップ第1弾は2022年に映画公開を控えた凪良ゆう「流浪の月」

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創刊日は2022/2/26です。
流浪の月以外の創刊ラインナップは古内一絵「キネマトグラフィカ」(3月刊)、町田そのこ「うつくしが丘の不幸の家」(4月刊)が発売され、7月より奇数月発売となるそうです。

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東京創元社が新たな文庫レーベル〈創元文芸文庫〉を創刊します|株式会社 東京創元社のプレスリリース

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2018年に1巻が刊行され現在累計部数90万部発行されている「後宮の烏」のアニメ化が発表されました。
放送時期等詳細は今後公開されるとのことです。
書籍 シリーズ別 後宮の烏 – 集英社 オレンジ文庫

先日最終号が発刊された小説ウィングスのWEB版が公開されました。
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新書館:コミック&ノヴェル[ウェブマガジンウィングスサイト]

現状公開されているのは

  • 津守時生「三千世界の鴉を殺し」
  • 嬉野君「続・金星特急 竜血の娘」
  • 縞田理理「トロイとイーライ」
  • 糸森環「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録

の4作の連載1話が読めて、新作連載は来年2月よりスタート。
金星特急めっちゃ面白いのでよろしくお願いします。ちらっと読んで面白かったら金星特急に遡ってくださいね~~~

[amazon asin=”B07M88118G” kw=”金星特急(1) (ウィングス・ノヴェル)”]

さて2か月ぶりの通常更新です。コロナ以降めっきり遠のいてしまった舞台です。

僕たちの幕が上がる 辻村七子

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バディストーリーと銘打たれているもののメインはカンパニー(顔合わせ~読み合わせ~舞台稽古~初日およびそれ以降)での物語。
ニチアサ出の身若手俳優 二藤勝に今をときめく人気の脚本・演出家鏡谷カイトからオファーが届いた。エンタメ性の高い時代活劇の主役、渋谷にある大きめの劇場で15公演、勝の得意な殺陣が多いというあまりにも破格の好待遇だ。

勝が舞台俳優としてどのように育っていくのか(育てられるのか)見られるのがいいし、時々目にしていた「暖簾を贈る文化」がどういうものなのか知れたのもいい。初日公演の模様も読めるので、2.5次元舞台通っている人には大変おススメの1冊です。客電が落ちた後の視界、スタオベの空気、舞台の感想を話しながら帰る余韻、自分は知っている。

電子書籍:○

仏果を得ず 三浦しをん

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本書は上方(大阪)で成立した古典芸能、文楽の義太夫(物語の語り部)健と三味線(物語のすべての劇伴を担当する)兎一郎の物語だ。
師匠の指示で組むことになったが、兎一郎は「実力はあるが変人」という評価が文楽の技芸員の間で一致している。大阪と東京をひと月ごとに行き来しその合間で地方公演へ赴き芸の道に精進する。こっちは間にちょいちょい男女のあれやこれやの機微の話が多く含まれる。古典芸能だしととっつきにくさはあると思うが、面白い芸能なのでぜひとも一度ご覧ください。
今なら動画配信で手軽に見られる演目もあります。
【錦秋文楽公演】動画配信中!! | 独立行政法人 日本芸術文化振興会
「蘆屋道満大内鑑」や作中で登場する「ひらかな盛衰記」が見られます。

https://amzn.to/3FKEHee

文楽参考図書としてはこちらがおすすめです。

赤×ピンク 桜庭一樹

https://amzn.to/3cNbW3W

東京・六本木、廃校になった小学校の中庭は夜毎に熱気であふれる。八角形の檻を照らす眩しい光、派手な衣装に手錠を付けた女性による非合法キャットファイトが行われている。完全会員制ガールズブラッドのリンクに立つ3人の女性の物語。
「まゆ」「ミーコ」「皐月」はそれぞれこの地下キャットファイトクラブで生きることや格闘技について考えたり悩んだり魅せられたりしながら今夜もリンクに立つ。

サーカス団長シェイクスピア 紅玉いづき

サーカス団長 シェイクスピア(紅玉いづき) – カクヨム

先日コミティアで告知され、カクヨムで連載が開始された「ブランコ乗りのサン=テクジュペリ」の前日譚です。

震災復興目的で湾岸地域へ誘致されたカジノ特区には客寄せの少女サーカス団がある。
花形の演目を任されるのは曲芸学校をトップ卒業したエリートのみ。ブランコ乗りのサン=テクジュペリ、猛獣使いのカフカ、歌姫アンデルセン、彼女らは文豪の名前を戴き演目を背負う。花の命のようにほんのわずかな間、曲芸子としてスポットライトを浴び、新たな曲芸子へ代替わりする。

「サーカス団長シェイクスピア」で語られるのはその少女サーカス団が産声を上げたころの話。彼女らはどのようにして文学者の名前を背負うことを決めたのか、今は夜毎に満席となる公演の、最初はどうだったのかというのが読めます。

今のところ毎日更新で第2章からはゆっくり更新とのこと。これだけでも読めます。なお今作は商業ベースの作品ではないので「本になったら読もう」ではいつになるか分からないしその日が来るかどうかも分からないので、この冬のおともに是非。アプリなら更新通知が来るしブラウザからだったら縦書きで読むこともできます [1]アプリでは縦書き表示はできません

サーカス団長シェイクスピアの話をしたので、コミティア138で発行されていた同人誌の話をします。

紅玉いづきさん主宰同人サークル「少女文学館」の新刊として装丁がすごい本と、一定年齢以上の少女小説読みの間で話題沸騰の本が出ました。

「黄金と骨の王国」栗原ちひろ

少女文学で連載されていた作品が書きおろしをあわせて1冊にまとまりました。小口がすごい勢いで輝く本です。

黄金に輝く赤字本というツイートをコミティア後ものすごくよく見た。
黄金と骨の王国 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH
ここで買えます。11月25日現在在庫なしですが、現在追納中でそれが完売後は電子書籍へ移行だそうです。

現代怪談百物語 紅玉いづき

はと文庫オンラインvol.9 怪談と新作スペシャルで触れた池袋裏百物語の関連作、Twitterで連載していた怪談の再録本で、基本そのままで「あとがきにかえて」が書き下ろしです。

この本は「本文真っ黒本なんですが、黒い紙に白インクではなく、白い紙に全ページ全面ベタを敷いたのだ……それで明朝体がくっきり出ている。エグい」という仕様の本です。

現代怪談百物語 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH
ここで買えます。

「五月物語」「五月日記」津原やすみ

講談社X文庫ティーンズハート「あたしのエイリアン」が紙で復刊しました。最近は電子書籍で絶版本の復刊が時々見られるようになりましたが、紙で復刊はまだ珍しくロマンの塊みたいな1冊ですね。

こちらは津原泰水さんのboothで購入できます
五月物語&五月日記(プレミアム版) – 津原泰水文章講座 – BOOTH
プレミアム版は直筆サイン入りかつクリアファイルがついてきます。

同人誌の自由さを感じる3冊を紹介して今号は終わります。

References

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