さて2か月ぶりの通常更新です。コロナ以降めっきり遠のいてしまった舞台です。

僕たちの幕が上がる 辻村七子

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バディストーリーと銘打たれているもののメインはカンパニー(顔合わせ~読み合わせ~舞台稽古~初日およびそれ以降)での物語。
ニチアサ出の身若手俳優 二藤勝に今をときめく人気の脚本・演出家鏡谷カイトからオファーが届いた。エンタメ性の高い時代活劇の主役、渋谷にある大きめの劇場で15公演、勝の得意な殺陣が多いというあまりにも破格の好待遇だ。

勝が舞台俳優としてどのように育っていくのか(育てられるのか)見られるのがいいし、時々目にしていた「暖簾を贈る文化」がどういうものなのか知れたのもいい。初日公演の模様も読めるので、2.5次元舞台通っている人には大変おススメの1冊です。客電が落ちた後の視界、スタオベの空気、舞台の感想を話しながら帰る余韻、自分は知っている。

電子書籍:○

仏果を得ず 三浦しをん

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本書は上方(大阪)で成立した古典芸能、文楽の義太夫(物語の語り部)健と三味線(物語のすべての劇伴を担当する)兎一郎の物語だ。
師匠の指示で組むことになったが、兎一郎は「実力はあるが変人」という評価が文楽の技芸員の間で一致している。大阪と東京をひと月ごとに行き来しその合間で地方公演へ赴き芸の道に精進する。こっちは間にちょいちょい男女のあれやこれやの機微の話が多く含まれる。古典芸能だしととっつきにくさはあると思うが、面白い芸能なのでぜひとも一度ご覧ください。
今なら動画配信で手軽に見られる演目もあります。
【錦秋文楽公演】動画配信中!! | 独立行政法人 日本芸術文化振興会
「蘆屋道満大内鑑」や作中で登場する「ひらかな盛衰記」が見られます。

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文楽参考図書としてはこちらがおすすめです。

赤×ピンク 桜庭一樹

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東京・六本木、廃校になった小学校の中庭は夜毎に熱気であふれる。八角形の檻を照らす眩しい光、派手な衣装に手錠を付けた女性による非合法キャットファイトが行われている。完全会員制ガールズブラッドのリンクに立つ3人の女性の物語。
「まゆ」「ミーコ」「皐月」はそれぞれこの地下キャットファイトクラブで生きることや格闘技について考えたり悩んだり魅せられたりしながら今夜もリンクに立つ。

サーカス団長シェイクスピア 紅玉いづき

サーカス団長 シェイクスピア(紅玉いづき) – カクヨム

先日コミティアで告知され、カクヨムで連載が開始された「ブランコ乗りのサン=テクジュペリ」の前日譚です。

震災復興目的で湾岸地域へ誘致されたカジノ特区には客寄せの少女サーカス団がある。
花形の演目を任されるのは曲芸学校をトップ卒業したエリートのみ。ブランコ乗りのサン=テクジュペリ、猛獣使いのカフカ、歌姫アンデルセン、彼女らは文豪の名前を戴き演目を背負う。花の命のようにほんのわずかな間、曲芸子としてスポットライトを浴び、新たな曲芸子へ代替わりする。

「サーカス団長シェイクスピア」で語られるのはその少女サーカス団が産声を上げたころの話。彼女らはどのようにして文学者の名前を背負うことを決めたのか、今は夜毎に満席となる公演の、最初はどうだったのかというのが読めます。

今のところ毎日更新で第2章からはゆっくり更新とのこと。これだけでも読めます。なお今作は商業ベースの作品ではないので「本になったら読もう」ではいつになるか分からないしその日が来るかどうかも分からないので、この冬のおともに是非。アプリなら更新通知が来るしブラウザからだったら縦書きで読むこともできます [1]アプリでは縦書き表示はできません

サーカス団長シェイクスピアの話をしたので、コミティア138で発行されていた同人誌の話をします。

紅玉いづきさん主宰同人サークル「少女文学館」の新刊として装丁がすごい本と、一定年齢以上の少女小説読みの間で話題沸騰の本が出ました。

「黄金と骨の王国」栗原ちひろ

少女文学で連載されていた作品が書きおろしをあわせて1冊にまとまりました。小口がすごい勢いで輝く本です。

黄金に輝く赤字本というツイートをコミティア後ものすごくよく見た。
黄金と骨の王国 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH
ここで買えます。11月25日現在在庫なしですが、現在追納中でそれが完売後は電子書籍へ移行だそうです。

現代怪談百物語 紅玉いづき

はと文庫オンラインvol.9 怪談と新作スペシャルで触れた池袋裏百物語の関連作、Twitterで連載していた怪談の再録本で、基本そのままで「あとがきにかえて」が書き下ろしです。

この本は「本文真っ黒本なんですが、黒い紙に白インクではなく、白い紙に全ページ全面ベタを敷いたのだ……それで明朝体がくっきり出ている。エグい」という仕様の本です。

現代怪談百物語 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH
ここで買えます。

「五月物語」「五月日記」津原やすみ

講談社X文庫ティーンズハート「あたしのエイリアン」が紙で復刊しました。最近は電子書籍で絶版本の復刊が時々見られるようになりましたが、紙で復刊はまだ珍しくロマンの塊みたいな1冊ですね。

こちらは津原泰水さんのboothで購入できます
五月物語&五月日記(プレミアム版) – 津原泰水文章講座 – BOOTH
プレミアム版は直筆サイン入りかつクリアファイルがついてきます。

同人誌の自由さを感じる3冊を紹介して今号は終わります。

References

References
1 アプリでは縦書き表示はできません

ちょっと今本が読めたり文章を書いたりがちょっと難しい感じなので縮小営業でお送りします。

薄幸な公爵令嬢(病弱)に、残りの人生を託されまして ~前世が筋肉喪女なので、皇子さまの求愛には気づけません~ 夕鷺かのう

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異世界転生ものです。

「立てば卒倒、座れば目眩、歩く姿は死に損ない」
体に見合わない強力な魔力を宿して生まれてきたクレハ・メイベルは日常生活もままならず、成人は難しいだろうと言われてきたが、成人を迎える16歳を前にして毒を盛られた。どうせ死ぬならと魔力を使い、同じく死を目前にした鳴鐘呉羽の魂をクレハ・メイベルの体に宿した。
クレハ・メイベルとしての人生を託された呉羽は女性ながら180㎝を超える高身長、趣味は筋トレ、生まれは総合格闘技の道場で現師範代と、並みの男性では到底勝てないレベルの強い女性だ。
「力は自分以外の誰かを助けるためにある」と育てられ、早くに両親を亡くし、弟を育て上げ結婚式の日を週末に控えたある雨の日、増水した川に流された少女を救って死んだ程度に自分の事は二の次に生きてきた。

既刊の中ではヤンキー巫女逢桜伝が近い。ラブコメにしては圧倒的にコメディと立ち回りの要素が強く、切れ者なのにシスコンが過ぎて圧倒的に残念なイケメン兄も登場する。
サブタイトルの求愛に関してはこの巻については要素が少ないので、「自分はここで死ぬということを認識した上で、突然『異世界の公爵令嬢クレハ・メイベル』としての人生を生きることになった呉羽が、『申し送りが少なすぎる!!!』とぼやきながらこの世界で生きていくための情報を得て模索する(そのための情報元としての第二皇子イザーク)」物語だと思ったほうが齟齬が少ないと思われます。

怪を語れば怪来たる 怪談師夜見の怪談蒐集録 緑川聖司

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元々ジュブナイルで怪談本をたくさん書かれている方で、大人向けの本はこれが初めてですというツイートを見かけましたが、作風はあまり変わりすぎない感じです。ポプラポケット文庫の本の怪談シリーズがおすすめです。

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そっちと違うのは怪談が生まれる瞬間のような、遺体の描写がしっかりしているところです(でもそんなグロい感じではありません。児童向けに比べれば一般向けに描写がある、という感じです)

24歳の明里の結婚生活はモラハラにはじまり浮気相手の妊娠で3年で終わりを告げ、一時の実家生活を挟んで格安アパートでの再出発を遂げた……のだが、入居初日から深夜に隣室から壁が殴られ続けるという事案が発生した。不動産屋いわく自己物件ではない、しかも明里の部屋の隣も下も斜め下も空き部屋であるというのに、だ。
仕事帰りに「高校が一緒だった美佳だよ」と同年代の女性に声をかけられ、喫茶店でこのトラブルのことを話し、最近流行ってるんだよこの人に相談してみたら、と見せられたWEBサイトが「怪談師夜見」だ。霊は見えるがお祓いはできないという彼に追いすがって明里は自分の部屋を見てもらうのだが……という1話。
これは1冊できれいにまとまっているし、続きも読みたい1冊。

9月は怪談とともにあった月間でした。

池袋裏百物語 明烏准教授の都市伝説ゼミ

「池袋裏百物語 明烏准教授の都市伝説ゼミ」(原作:紅玉いづき)という朗読現場+配信舞台がありました。本作は2日間昼夜4公演で、その昼夜で役柄交代がある舞台でした。
推し作家が原作で、普段ラジオでしか声を聴くことがない [1]声優であることは知っているが普段どういう作品に参加しているのかいまいち存じ上げない方々参加しているのならそれは聞くしかないでしょう。

のちに完売が伝えられた小説現代に原作が掲載されています。紙書籍の入手難易度はかなり高いと思いますが、電子書籍の販売はあります。

作中作の怪談はこちらでまとまっています。電子書籍オンリーです。

配信自体はアーカイブを含めてもう終了していますが、当時はリアルタイム配信以降アーカイブで10日ばかし聞けたので毎日のように聞いてました。
これも1冊にまとまってくれるとうれしいなあと思いつつ。

ゴーストリイ・サークル 呪われた先輩と半端な僕 栗原ちひろ

3月になってようやく大学の合格通知がきた浅井行は「今!?」と言われつつアパートを探し引っ越しを終えた。思えば行は幼い頃から半端に怪異が見えてしまう人間で、引っ越したその日奇妙な現象に襲われた。その状態の行を助けたのは上の階に住む先輩、出会って一目惚れした瀬凪ほのかで、彼女は除霊ではなく「怪異をやり過ごす」共存する方法を提案した。
瀬凪もまた見える人で、怪異に悩まされる立場の人間だった。

ホラーと銘打った文庫作品ですが、そこまでおどろおどろしい描写があるわけではありません。元々ビジュアルを想起しやすい文体の作家なので、多少不気味さを覚えるシーンはありますがこればかりは相性の問題だと思います。恒川光太郎作品が好きな人はたぶん大丈夫です。
本作のみ現状電子書籍はありません。

怪談徒然草 加門七海

実話系怪談集。体験なのでそんな「驚かせてやろう」みたいな話はなくて、「ちょっといい話」から「なにそれめっちゃこわい」まで収録されています。
わたしは「怪談が読みたい」と言われたらこの本をおすすめしているのですが、その理由は内容もさることながらこの本を読むと大変奇妙なことが起こっています。
一度目に読んだときは異常に天井がみしみしと鳴っていました。古い木造家屋なのでそういうこともあるでしょう。でもその日は風があるわけではなく、普通の静かな夜でした。
二度目に読んだのは貸出処理を行わず、図書館で読みました。読んでいる間中ずっと誰かが目の前に立っている感覚があったんですが、見渡す限り、かなり広い図書館の端まで見ることができましたが、誰もいませんでした。本を読むとあんなにもそこに誰かがいる感覚がしたのに。

つばめ館ポッドラック ~謎か料理をご持参ください~ 竹岡葉月

将来を嘱望された元柔道女子×料理男子

膝の故障で普通の女子大生になる道を選んだ沙央が入居したのはレトロな洋館アパートで、月1で料理持ち寄りのパーティが行われている。ある者は手の込んだ料理を、ある者はデパ地下の惣菜を持ち込み、料理が持ちこめない者は食事を彩る謎の提供を、と入居時に主催者の大家に説明された。
といってもパーティはメイン過ぎず、沙央が同期入居者で口さがない宗哉の手料理を食べ女子力向上のための教えを請い、大学生活を堪能する物語です。学生アパートで起こるあれこれ+日常の謎系ライトミステリ。パーティに持ち込まれる謎は消えた女の謎、暗号で女装男子も出ます。

派遣社員あすみの家計簿 青木祐子

コロナ禍の派遣社員の生活

Pixivのキャプション的注意ですが、本作は2020年以降コロナが理由で雇用関係で変化があった(特に派遣切りに遭った)人が読むと当時のフラッシュバックがあるかもしれないのでご注意ください。

寿退社後に婚約者に逃げられカードの支払いに苦しみ日雇いの仕事でなんとか生活を立て直すアラサーOLの話。2冊目ですがここからでも読めます。ちなみに「悪性のインフルエンザ」として表現されるパンデミック下、現実の2020年以降東京とリンクした物語です。
無職を脱して派遣社員としての職を得て、家計簿をつけていてもやっぱり金銭感覚がちょっとおかしいあすみが副業でウーバーイーツの配達員をはじめる「非正規はつらいよ」物語です。
あすみは男運は悪いけど仕事的には周囲の人の助けもあってたくましく生きていくので、そういう世情でも過度にしんどくはない、でも現実過ぎるので読めない人は確実にいるだろう物語です。

References

References
1 声優であることは知っているが普段どういう作品に参加しているのかいまいち存じ上げない

今年は祭りも花火もないから8月ショートカットでいいわと思っていたら2週間も雨が降り続くって誰が思うだろうか。気が付けば最後に都会(本州)へ出てからもう2年がたって、特に今月先月は猛暑からの大雨で外出が極めて控えめになっていたら日本全国大変なことになっている。もうちょっと引きこもって生きていく所存。

ということで今月はテーマ相棒なんですが、とても面白くて時期的にも今でしょという1冊と出会ったのでこれから。

あめつちのうた 朝倉宏景

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トンボに3年、散水3年。神整備の裏側

2年ぶりの夏の高校野球が開催された今年は悪天候に振り回されている。雨天中止にノーゲーム、一時中断が多い今年は例年になく阪神園芸の名前を目にする機会が多い。本書はその阪神園芸の甲子園グラウンドキーパーの1年を書いた小説だ。
「神整備」と称されるにいたるまでどれほど地道な修行が必要か「甲子園の整備と芝生の管理」というのがどれほど職人芸の世界なのか、甲子園球場を見る目がちょっと変わる1冊。甲子園は阪神タイガースの本拠地でもあるので、現在パリーグで活躍中の選手を彷彿とさせる選手やタイガース生え抜き選手の引退セレモニーも登場する。タイガースファンとしては違う視点で読めるところも大変素晴らしい。
主人公は運動はからっきしだがマネージャーとして夏の甲子園ベンチ入り経験のある雨宮。またここに戻ってきたいという熱意で高校卒業後入社した巨人ファンだ。怒られしごかれながらグラウンドキーパーとして育っていく。
kindleでスピンオフ短編が無料配信中。こちらは雨宮と衝突を繰り返す元高校球児長谷が主人公。

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電子書籍:○

EAT 悪魔捜査顧問ティモシー・デイモン 田中三五

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特殊部隊出の捜査官×人肉を食らう異形の殺人鬼

富士見ノベル大賞佳作受賞作。
人外の化物が引き起こす事件を極秘裏に捜査をする部署がFBIに発足した。ひとりはニューヨーク市警特殊部隊出身で、9人が殉職した事件の生き残りのミキオ。もうひとりは57人を殺して食べた殺人鬼、本物の人外(ノンヒューマン)ティモシー。司法取引で自由を得る代わりに捜査に加わるティモシーの見張り兼相棒兼同居人としてミキオの新生活が始まる。

バディアクションが好きな人にはお勧めの1冊。
ウェンディゴという人肉を食らう種族のティモシーは、ミキオに対して自分への恐怖心があることを認めたうえで同居人としての相互理解を深め価値観や生活様式の違いについて譲歩を求めている。突っぱねるミキオに私は私だと認めてほしいと願う。
物語のメインは捜査とノンヒューマンの制圧と事件の解決だ。登場するノンヒューマンはウェンディゴのようなフィクションでは聞き覚えのない異形ばかりで新鮮で、ティモシーは飄々とした食えない男でとても魅力的。続刊を期待したい。

電子書籍:○

ある小説家をめぐる一冊 栗原ちひろ

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幻想小説×生きる偏差値が低い小説家×介護する編集者

編集者生活に見切りをつけようと思っていた田中庸は、同期に勧められた小説家些々浦空野のデビュー作に心をつかまれた。次作を求めて2回目の訪問でようやく対面することができた空野は「自分が書いたことが現実になる、子供の時からそうだ」とデビュー作をずっと直しているという。原稿をとりたい庸は甲斐甲斐しく料理を作りベッドから起床を促しラジオ体操をしましょうという。
コメディ要素がある一方でいない猫の気配を感じ、屋敷の匂いをかぎ、廃墟を彷徨い、別の人物の視点を通して世界を見る。作中至る所に白昼夢のような描写が差し込まれていて、現実と幻想が交差する瞬間がとてもいい。

電子書籍:○

マルタ・サギーは探偵ですか? 野梨原花南

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日本育ち異世界在住の探偵(※推理はしない)

高校を辞めた夏のある日、鷺井丸太は偶然迷い込んだ謎のコンビニで「カード戦争」のプレイヤーとなり、よりややこしい方向へ丸太を導いたアウレカとは離れ単身霧の街オスタスに投げ出された。所持品は事件を強制終了させる「名探偵」のカードのみ。
今後は社会の手暑い庇護のもと生きていくと考えていた鷺井丸太は、この世界でマルタ・サギーとして生計を立てていくことになった。

富士見ミステリー文庫で刊行され2012年完結後、2014年富士見L文庫で全面改稿のもと復刊された。しかしシリーズ途中で刊行が止まり、自費出版(同人誌)で出版された。そのため今から触れるのならば富士見ミステリー文庫版がおすすめだが、富士見L文庫1巻に登場する「レド・ビァ事件」はかつてあとがきでは登場しただけの語られない事件だったので、ぜひこっちも読んでほしい。ちなみに富士見ミステリー文庫は全巻Kindle unlimited対象作品だ。

政と源 三浦しをん

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水辺の町の人情物語

東京都墨田区Y町在住のつまみかんざし職人源二郎と幼馴染で元銀行員の国政(ふたりとも70代)の日常の話だ。性格が違えば生き方も違う。ふたりは戦前戦後の長い時間、時折喧嘩をしながら同じ時間を暮らしてきた。心から愛した女と添い遂げ今は若い弟子を育てている源二郎を内心羨みつつ、仕事に身を捧げてがむしゃらに働き休日は家族を顧みない不器用な生活をした結果、孤独な老後となった人生を国政は時折顧みている。
源二郎の弟子、徹平とその恋人マミの応援や指導をする話もあり。登場人物の心情に寄り添った日常の話が読みたい人に。

電子書籍:○

今号は以下のnoteをお手本に書きました。
『このラノ』式、ライトノベル400字レビューの書き方|岡田勘一[編集者・ライター]|note

オリンピック始まりましたね。とりあえず今環境音楽としてサーフィンの配信を流しています。今のところ競技中に突然推しが作った曲が流れたのが最大のハイライトです。ありがとうアメリカのアーチェリー選手。

ちょっと宣伝です。2010年に同人誌として頒布した「この少女小説がすごい!」をKindleで電子書籍として復刊させました。kindle unlimited対象書籍です。何分2010年当時の本で、絶版になっている本もあるので巻末に電子書籍有無リストも作りました。何を扱ってるかは試し読みで目次が全部読めるのでそちらでご確認ください。

[amazon asin=”B098SVNPVF” kw=”この少女小説がすごい! (はと文庫)”]

>おいしいベランダ 竹岡葉月

[amazon asin=”B01FEURL4I” kw=”おいしいベランダ。 午前1時のお隣ごはん (富士見L文庫)”]

完結おめでとうございます、のベランダ園芸からはじまったラブコメ。

大学進学といとこの海外赴任を機に一人暮らしをはじめた栗坂まもりは、お隣さんのイケメンスーツ亜潟葉二にひそかにときめいていた。
「時々話をするご近所さん」だった2人がもう少しお近付きになったのは栗坂違いでストーカーが警察沙汰を起こした深夜のことだった。夕食を事件のさなかに失い空腹のまもりは祝杯を挙げる予定だったという亜潟家に招かれた。
ベランダ農園からむしった野菜と半額の刺身でつくられた海鮮丼、具だくさんの味噌汁、蒸篭で蒸されたサラダと、インスタントではない温かいみそ汁にまもりは「わたしもこんなていねいな生活がしたかったのに」と涙を流し、葉ニは「お前は思い違いをしている」と多忙でこまめに買い物をするのは無理だけどちゃんとしたものを食べたいとうベランダ園芸沼一直線の話を聞かされる。

ライトな語り口で読みやすく、「隣に住んでいる人のごく当たり前の日常や人生の岐路」をのぞき見するかのような地面に足がついた物語。1巻は大学入学直後ですが、最終巻はそこから約5年ほど過ぎた話です。

電子書籍:○

ここからは「夏といえば」小説特集です。

トッカン 特別国税徴収官  高殿円

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夏休みっぽい本1。
中学校だったか高校だったか不確かですが、税金に関する作文を書かれていたなあという思い出。その辺の記憶と直結するのが本書トッカン。トッカンの舞台もこの作文の主催元も同じ国税局(の支店)。タイトルのトッカンとは「特別国税調査官」の略称であり税金警察「徴収官」の中でも特に悪質な滞納者をターゲットにする。

東京国税局京橋地区税務署の新米徴収官、鈴宮 深樹通称ぐー子は、国税局からの出向してきた特別国税徴収官の鏡 雅愛付の事務官として差し押さえ業務などに連れ出されつつ、税務署や事業所を訪問して一般市民からの滞納相談や督促などを行っている。

「悪どい滞納者と凄腕税務官」のようなわかりやすい2時間ドラマ的勧善懲悪構造ではない。確かに意図的に脱税している人物もいるが、消費税を払えず健康保険も払っていないから病院にもいけないカツカツの生活をしている自営業者も出てくる。

雲は湧き、光あふれて 須賀しのぶ

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夏といえば高校野球。今年は開催できているようで [1]それでも棄権せざるを得ない話はよく聞くがよかった。高校野球がテーマで、3編入りの短編集。

故障を抱え1打席だけバッターボックスに立てる超高校級スラッガー益岡と、自称「3年のヘタレ組」監督曰く走塁センスがある須藤の物語でこれはスポ根の王道。「ピンチランナー」

甲子園を目指すのは何も高校球児だけではない。
スポーツ専門の蒼天新聞社に入社して3か月、新人記者にとっては夏の地区大会は登竜門だ。埼玉県の強豪東明高校と1回戦で当たる三ツ木高校は毎年1回戦敗退の弱小校だと言われている……が泉千納(いずみ・ちな)は三ツ木高校のピッチングに驚き取材に向かう。「甲子園への道」

昭和9年にベーブルースと沢村栄治の一戦を観戦して野球に魅せられた少年。野球を愛し、甲子園を目指す彼に立ちはだかったのは戦争だった。「雲は涌き、光あふれて」

ちなみに3本目の表題作がお好みの方はぜひとも夏空白花をお読みいただきたい。

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夏の終わりに君が死ねば完璧だったから 斜線堂有紀

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夏の物語。平たくいうと難病ものです。

「多発性金化筋繊維異形成症」通称金塊病は発症後少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されこの骨が金 [2]moneyではなくgoldに極めて近い物質へ変化する。そうして生まれた金は天然の金と並べても科学的に区別がつかない代物だ。
類のない病気のため国は献体を求めているが、人間が金に変質した場合もそれは「人間」なのかそれとも金と同じ組成をしているから「金」なのか。あまりにも価値がある物質である場合でも、遺体に値段を付ける付けないという発想は冒涜なのか、結局「金塊病患者の献体」は相応の金額が支払われることになった。その額、およそ3億円にのぼる。

片田舎の昴台の有り余る自然と停滞する経済を回すために、金塊病患者を収容・治療するサナトリウムが建設された。
少年江都はこのサナトリウム唯一の患者弥子と出会い、「自分にチェッカーで一度でも勝つことができれば遺産を相続させよう」と持ちかけられる。遺産とはつまり死後、この体が金塊に変わったあとの話だ。

これはネタバレのようでネタバレにはならないと思うし、そこで結構読むか回避するか決めると思うので書くんですが、奇跡は起きません。死にます。「人間の感情は証明できるのか?」「人生の正解とは」といった物語です。

DIVE!! 上下 森絵都

[amazon asin=”B009GPM3IW” kw=”DIVE!! 上 (角川文庫)”][amazon asin=”B009GPM3CI” kw=”DIVE!! 下 (角川文庫)”]

オリンピック開催中なのでオリンピックを目指すアスリートの物語。結構昔の話なので彼らが目指しているのは「シドニー五輪」で、児童向け文学としてまず刊行され、大人にもおすすめだと角川文庫入りした後もアニメになったり舞台になったり割と最近ドラマにもなったりして円盤発売を控えていたりと、何らかの形で触れたことがある人もいるかもしれない。

物語は存続の危機に立たされた弱小ダイビングクラブに所属する高飛び込みの少年たちが主人公。クラブ存続のための条件はオリンピック出場。高飛び込みって普通に生きているだけではおそらく触れることはまれな競技で、もしかしたら地元ローカル枠で有力な選手がいたら競技のシーンを見るかもしれないっていうレベルなんだけど、競技のシーンがすごくいいんだ。
青春をかなぐり捨ててスポーツに打ち込む3人の少年の成長・葛藤・意地の張り合いとかそういうのが好きで、今まで読んだことがないっていう人にはぜひとも読んでほしい1作。

References

References
1 それでも棄権せざるを得ない話はよく聞くが
2 moneyではなくgold

「テーマ:SF」って言いきった今回。
6回目の連載にしてまだ方向性を絶賛模索中なんですが、今回は「あいのかたち」がすごくよかったので「今号はSF特集やる?」と本棚を眺めてきました。
普段SFはあまり読まないので最近の作品がなくて、実質過去の名作特集です。

あいのかたち マグナ・キヴィダス 辻村七子

前作マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年の直接の続編なのかと思えば一回転半ひねった感じの短編集。前作はSFベースのキャラ文芸(この場合はキャラクターをたたせた文芸作品のこと)だったけど、あいのかたちは収録された5編とも硬い仕上がりだ。

世界はテンペストと呼ばれる自然災害でで北半球と海の3分の1は壊滅状態に陥った。災害が引き起こすあらゆる死で人口は120憶から3分の1以下にまで減った。ヒト絶滅を危惧した科学者は禁じられていたクローンを全面解禁・医療技術の発展は寿命を120年から200年へ延ばし、テンペストから150年後、アンドロイドが生まれた。
そういう世界での物語だ。

ジナイーダ:オレンサル氏と氏の孫が置き去った中古のアンドロイド「ジナイーダ」について
ピクニック:死にかけた1人の男とその男の存在に気付いた一体のアンドロイド。助かったと思った男の問いにアンドロイドは答える。「自分はレスキューではないので助けられないが、傍を歩くことはできる」「あなたに選べる道は2つです。ここで死ぬか歩いて死ぬか」
マーダーケース:一人の天才が死んだ。彼女はなぜ死んだのか
エピタフ:一世代限りのクローン個体集団について
ジナイーダreprise:ジナイーダのその後

「愛とは」「生きるとは」「人間と良き隣人アンドロイド」という話をずっとしている。アンドロイドは自分を害されても人間を害することができない。自殺に及ぶ人間を放置することができない。ピクニックが特にいい。240キロにわたる死出のピクニック。人間とアンドロイドの違いとは。

電子書籍:○

カスタムチャイルド 壁井ユカコ

16年前の作品。多分紙書籍で新刊を手に入れるのはすごく難しいと思うけど電子書籍はあるので。
遺伝子操作が一般的になって「金髪碧眼の日本人」に人気が集中し逆に黒髪黒瞳の人気が盛り上がってきたような時代。
ある朝大学生の三嶋は中学生ぐらいの下着姿の少女にカッターナイフを突きつけられた。昨日成り行きで泊めた推定家出少女だ。どう考えても関わるのは危険だったが、治安の悪い駅で放置するわけにもいかなかったが朝になってみればこのざまだ。
この2人の出会いは6月29日。まさに今ぐらい。今ぐらいに始まって夏とともに終わる物語。よいボーイミーツガールです。
       
電子書籍:○

君と時計と嘘の塔 綾崎隼

全4冊のタイムリープミステリ。

幼馴染にして好きな女の子、かつて小学生だった自分が陥れた芹愛が死んだという最悪な夢を見た日、綜士は夏休み明けの教室に異変を感じた。親友がいない。欠席なのか不登校なのか、担任に問いただしてみればおかしな回答が返ってきた。
「海堂一騎なんていう生徒はこのクラスには存在しない」
自分が作り出した幻だったのか、病気なのか、あらゆる状況証拠がそれはありえないと思っていても狂ってしまったのは世界ではなく自分なのではないか。
そして綜士は草薙千歳・鈴鹿雛美というこの事態に立ち向かう味方と出会う。
千歳は5年前この白鷹高校付近で発生した、気象庁にも存在を認識されていない大地震の謎を解きたい。
雛美は自分は数度タイムリープを繰り返しておりそのたびに綜士と同じ「大切な人の存在が突然消える経験」をしているという。

電子書籍:○

チグリスとユーフラテス(上)(下) 新井素子

SF、という観点で本棚を眺めているとこれを紹介しない理由がなかった。
電子書籍は存在しないけど絶版ではない様子なので未読の方はぜひご一読いただきたい。

地球から惑星ナインへ移住した人類は人工子宮を活用し世界に繁栄をもたらした。宇宙歴220年を超えたあたりから徐々に人口が減りはじめ、生殖能力に問題がある者が増加し人口は一転下降に転じ、惑星ナイン最後の子供「ルナ」が誕生した。老女ルナはコールドスリープで眠りについている惑星ナインの女を次々に起こしていく。ルナによって起こされた彼女らは、生まれてからコールドスリープで眠りにつくまでにナインで何が起こっていたかを語っていく。これは惑星ナインの逆年代記。

電子書籍:×

それはお前が童貞だからです 凪良ゆう

これはBLです。
タイトルがインパクトありすぎですが、SFです。30を越えて女性経験のない男が魔法使いになりました。ノリはギャグかコメディかという感じで、要素はヤクザと麻薬と超能力と火サスのノリです。作中で「〇滅の刃」みたいな伏字での記述が出てくるのは地雷だったっていう人には薦められないんですが、振り切れたギャグも書く人なんだなということも知られてほしいと思います。

電子書籍:○

前期でオルタネートがノミネートされた時も驚いたんだけど、後期はスモールワールズがきた!

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4月のはと文庫オンラインvol.5で「スモールワールズ」と最新作(絶賛連載中)の光のところでいてねを取り上げたところですが、すごい! すごい! と小躍りした今日です。
はと文庫オンラインvol.5 | はと文庫オンライン
今後の楽しみが一つ増えました。

ところで6/14まで新書館60周年記念フェアで電子書籍が各書店で半額になっています。

一穂ミチのBL作品はディアプラス文庫でかなりの数が刊行されているんですけどこの際にお勧めしたいので書くと

イエスかノーか半分か【電子限定SS付き】 (ディアプラス文庫) Kindle版

去年劇場版としても公開されたイエスかノーか半分か。
二重人格レベルで外面(王子様キャラ)の作り込み具合が激しい人気アナウンサー国江田計は仕事でまずアニメーション作家都築潮と会い、その次はオフモードの計と潮が出会う。出会い頭の事故で潮は左手を負傷し自転車を押して2人は潮の自宅まで行き、計は潮の左手となり仕事を手伝うことになった。毒舌全開、すっぴんそのままの計をこの前仕事で会った国江田アナとは気づかれてないことから計は「オワリ」と偽名を名乗った。

とりあえずこれを書きながら未読の「さよなら一顆」を買い、ヒャッハーご祝儀だ! とイエスかノーか半分かを買いました。

さよなら一顆 (ディアプラス文庫) Kindle版

非BLではオレンジ文庫のきょうの日はさようならもおすすめです。

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫) Kindle版

本日5/25はあの新刊が出ます。

恩田陸の「麦の海に沈む果実」からつながる理瀬シリーズ、17年ぶりの新刊「薔薇のなかの蛇」が発売されます!
電子書籍の配信日は本日、紙書籍版は26日プラスマイナス数日ありますが、ここ2年ばかしは妙に「10数年ぶりにあの続編が世に解き放たれる」系をよく見る気がします。喜ばしいことです。

コンビニ兄弟 町田そのこ

久しぶりに大きめの書店へ行き、棚を歩いていたらなんか目が合ったので購入した本。
おりしもその日は本屋大賞受賞作発表の日で、えっこの人の本今日買ったよ!? ってなったタイミングのいい1冊でした。

本屋大賞を受賞した「47ヘルツのクジラ」は長編で比較的重めの物語ですが、こっちは連作短編です。「47ヘルツのクジラ」よりは軽いけど、軽い要素ののれんをめくったら結構ヘビーですよねこれ。

九州ローカルコンビニ「テンダネス」門司港こがね村店は名物店長がいる。
夜の仕事をした方がよほど儲かるのではないかと思うほどのフェロモンをまき散らす志波三彦にはファンクラブがある。構成員は主にコンビニが入るビルの上層階の高齢者専用マンションだ。

ライト文芸あるあるの、コンビニに持ち込まれる謎のようなライトミステリではなく、飯テロ小説でもないし、ほっこり小説でもないと思う。
「フェロモン店長」を主人公に据えたコミックエッセイをPixiv的なところで連載しているパート店員の話もあるけど、「夢にどれぐらい向き合うか」とか、「幼馴染の支配やいじめ」とか、「友人の死を契機に随分身近に感じられる死と余生の過ごし方」とかそういう感じの物語だ。コンビニはあくまで舞台装置で、6編の人生の物語。

52ヘルツのクジラの弊感想こちら→52ヘルツのクジラ/町田そのこ – colorful

東京ディストピア日記 桜庭一樹

2020年1月~2021年1月のコロナ禍の日記。

コロナ禍の日記は以前にも紹介した仕事本があるんだけど、これはそれとは違う。桜庭さんの日記であると同時に、「東京都知事がヒカキンさんのyoutubeに出演してステイホームを呼びかけた」「阪神の藤浪選手が感染した」「キリストの墓があるとされる教会が671年ぶりに閉鎖された」とかコロナ関連でこの日にはこういうことがあった、と振り返りができる。
できるんだけど、ものすごく遠い昔のような気もするし、なんでこんなに事態が変わってないんだろうということもある。

個人的にいいなあと思ったのは「三浦春馬さんは極端な選択を行い、亡くなってしまったというニュースが流れていた」という、2文字のあれではなく「極端な選択」という表記になっていること。検索したところ韓国だとこういう表記らしい。ずっとトレンドに三浦春馬○○という表記に嫌気がさして現在地をアイスランドにしていたわたしのような人間に優しい表記だった。

同種の本では英国ロックダウン日記もおすすめだ。

少女文学第4号

びっくりするぐらい豪華な雑誌風アンソロジーです。

執筆者・掲載作(敬称略)
特集『少女×戦争』
須賀しのぶ「魔女の選択」扉・梶原にき
紅玉いづき「戦場にも朝がくる」扉・☆
小野上明夜「蛙になったお姫様」扉・ゆき哉
東堂杏子「あなたはだあれ」扉・狐面イエリ
市川珠輝「竜乗りエッダ―箒星が流れたら―」扉・すみす
神尾あるみ「夜に咲く花」扉・島田ハチ
栗原ちひろ「雛が墜ちる」扉・itsumonoKATZE
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津原やすみ(SNS:津原泰水)「恋するマスク警察」扉・鳴海ゆき
若木未生「クウとシオ」

今30代で10代時分はコバルト沢山読みましたっていう人と、課金額問わずソシャゲやってる人はちょっと読んでほしい作品があります。
あと小野上明夜さんの少女文学作品は「隔離」って感じのブラックなものが放り込まれがちなんですが、今回は割とホワイトでした。でもこれは商業じゃ無理だって作品です。

紅玉さんの「戦場にも朝がくる」、本当にひどくて(絶賛の褒め言葉)これ以上読むの無理だって半日ぐらい家事して夜にようやく読むのを再開したレベルの。鈍器本当に鈍器。情緒をぐちゃぐちゃにしてくる1作でした。わたしはこれまで「次元の壁が消えた」とか「○○は実在する」文化圏の人は凪良ゆうの神様のビオトープを読んでくれって言ってるんですが、シャニライとかあんスタとかA3とかやってる人は読んでほしい作品になってしまいましたよ。

本作は同人誌で本屋では買えないので、以下の栗原ちひろさんのboothでお買い上げください。
なお5/25現在初版完売で重版入荷待ちです。入荷お知らせメールとか登録してお待ちください。1500円ぐらいするし電子書籍なぞ存在しないんですが、ある一定の読書歴をもつ人間にとっては致死率のバフがかかる1冊です。

通販受付:栗原移動遊園売店 – BOOTH

元々私案件すぎる同人誌でしたが、とんでもないものが世に出ようとしています。

今号のテーマ:戦争
表紙に梶原にきさん、執筆者に須賀しのぶさん
コバルトで陸軍海軍空軍を制覇した、謎の変異ウィルスと異なる進化を遂げた元人間との戦争も描いた須賀しのぶさんの少女小説枠での戦争である。戦争といっても色々あるけど戦争なのだ。
なんかよくわからないがとりあえずわかることとしてはすごいものがうまれるぞ!!????
友達は「津原やすみが津原やすみだよ(津原泰水じゃないよ)」とぶちあがっていました。
わたしと同世代の人は床を転がるラインナップですよね……。

知らない人のために簡単に「少女文学」という同人誌を説明すると「プロが書いた少女小説の同人誌」です。紙質とか手触りが在りし日の雑誌コバルトとかThe beansが近くてとにかく雑誌です。
イベントだったり通販だったりで売られています。
今30歳以上で「10代の時はコバルト文庫とかビーンズ文庫とかよく読んでました」っていう人は多分懐かしくて死ねます。(今20代で10代時点の読書事情はよく知らないのでそこは言及避けます)

商業では今時ちょっと読めないような小説も読めるので、面白い小説が読みたい、という人は手に取ってほしい1冊です。

紅玉いづきさんのnoteで各扉絵と小説本文の一部が読めます。
企画合同誌『少女文学 第四号』刊行|紅玉いづき|note
注文は栗原ちひろのboothにて予約受付中です。
少女文学 第四号 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH

boothの癖について
・ログインした状態でカートに入れて進んでいるとパスワード入力を求められて正しいパスワードを入れていても、「認証できません!」って先に進めないことがあります。
その時は1回ログアウトして、ログインしてください。カートには入ったままなので再度追加は不要です。
・印刷が仕上がってbooth倉庫に辿り着いて、入庫作業~通販OKとなるまでに1カ月近くかかるので気長に待てることが必要です。
・予約段階では発送手段は宅配便(送料730円)しか選べません。
・送料はできるだけ安くしたい人は通販開始後に注文しましょう。ゆうパケットで400円です。
・入荷状況は栗原ちひろさんのtwitterでお知らせされます。

わたしはもうポチりました。到着を正座待機します。

再びの緊急事態宣言の春がやってきてしまった。

別冊文芸春秋2021年5月号

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突然の雑誌(しかも電子書籍限定)だけど、今が波に乗る上でベストタイミングなので。
2021年5月号からはじまった連載のうち2つご紹介します。
ひとつは有栖川有栖「捜査線上の夕映え」
もうひとつは一穂ミチ「光のところにいてね」

まず「捜査線上の夕映え」から。
こちらは火村英生シリーズ最新長編作品。「連載開始にあたっての前書き」を読んでいたらシリーズ最初の作品「46番目の密室」が世に出たのは今から29年前、1992年のこと。
途中まで加齢し、今は34歳のままの火村さんとアリスは今作で2020年9月を生きる。
新型コロナウィルスの第2波が過ぎかけた、まだそれなりに平和だった頃の大阪と京都が舞台だ。
アリスはマスクをしてちょっとした旅もしくはただの電車での移動をし、火村さんはオンライン講義をする。
この連載が終了し新刊として発売される頃には「そういえばこんなこともあったね」と言える世の中になっていてほしいコロナ禍のミステリ。

そして「光のところにいてね」
この後とりあげる「スモールワールズ」が発売されたばかりの一穂ミチの一般向け(多分)新作長編。今後は成長するだろう、第1章では小学生の結珠(ゆず)と果遠(かのん)、2人の物語だ。

小2にして習い事だらけの生活を送っている結珠は、ある日母に連れられてとある団地へ行った。母は病院や施設でボランティアをしており今回もそれだというが、結珠が見たものはぼさぼさ頭で無精ひげを生やした男性と、その男性の前では今まで見たことがないようなふるまいをする母だった。
母とともに団地へ行き「階下で30分待て誰とも話すな」というそれは習い事がない水曜ごとに繰り返され、結珠はこの団地に住む果遠と出会った。
果遠の母は食品添加物や電磁波や予防接種等をこの上なく憎悪し、オーガニックに傾倒した人物だ。その母の元、果遠は食べ物や着る物や髪型、ちょっとした生活用品に友人関係に至るまで大きく制限や影響を受けているが果遠は「お母さんのそういう所嫌いじゃないけど、結珠ちゃんの前でされたらちょっと嫌いになるかもしれない」という。スモールワールズとも共通するところだが、季節の移り変わりや時間の描写がとても素敵だ。

別冊文芸春秋は隔月刊(※ただし電子書籍限定。紙書籍もあるにはあるが著者関係者のみの非売品の模様)発売日の時点でkindle unlimited対象書籍となっている。

今回の夕映えは、『朱色の研究』や『幻坂』の夕焼けとは違うのだ――念願の火村シリーズ最新長篇に懸ける想い はじまりのことば | コラム・エッセイ – 本の話
試し読み:コロナ禍で捜査も進まず、音を上げた大阪府警は… 臨床犯罪学者・火村英生と盟友アリス、いよいよ始動! 電子版37号 | ちょい読み – 本の話
迷ってばかりの私がようやく見つけた萌芽… ふたりの少女と共に私はこの物語を紡いでいく はじまりのことば | コラム・エッセイ – 本の話
うらぶれた団地で出会った結珠と果遠。惹かれ合う少女を通して描く家族、そして愛の物語 電子版37号 | ちょい読み – 本の話

スモールワールズ 一穂ミチ

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発売前からものすごい勢いで推されていて、丁寧な公式サイトはあるわ声優櫻井孝宏氏による掌編の朗読(19分)もあるし書店員さんのポップはすごいし既にコミカライズがアフタヌーンで走っている。

コミカライズについてはスモールワール公式サイト │ 講談社で一部公開されているので見てほしい。

で、本の内容に戻る。短編集だけどいい意味で何を読んでいるのか分からない。アンソロジーを読んでいるかのように内容も文体も様々なのだ。「家族」という共通点があるが、ミステリ(ちなみに収録作品の「ピクニック」は日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされていた)もあるし、書簡体小説もあるし、コミカライズがすごく映えるようなコメディに寄った作品もあるしうらぶれた教師と離婚した妻が引き取った娘(心の性別では息子)の話もある。家族という小さな世界の物語がどれも驚きの展開へ連れていく。
「泣ける物語」ではない(泣く人はいると思う)、ほっこりする物語でもない、でも絶望の物語でもメリバでもないのだ。「分かりやすい」「ちょっといい話」のだけど、傑作がこんなにも1冊に集っていることがあるかーーーと叫びたくなる物語だ。

電子書籍:○

今(2021/4/25)やってるDMMブックスのポイント50%バックキャンペーンで一穂ミチ作品BLを含めて多くが対象になっている のでこれを機にいかがですか……。
非BL作品は「スモールワールズ」と「きょうの日はさようなら」の2冊のみ。
BL作品のオススメは「イエスかノーか半分か」(シリーズ作品の1冊目)と「ぼくのスター」(これは単刊)

となりの魔王 雪乃下 ナチ

[amazon asin=”4047304883″ kw=”となりの魔王 到来編 (ビーズログ文庫アリス)”]

緊急事態宣言でくさくさしている人もいるかと思うので、コメディに全振りの作品を引っ張り出した。
地方の町が舞台で現代だけどファンタジー。どのぐらい地方かというと「町内会」「回覧板」が生きている、「24時間営業のコンビニができたら町が沸き立つ」田舎町だ。そんな町に一人の少女には激震が走り、それ以外の住民には「コンビニができた以下」の事件が起きた。
瀬野夏織の隣に魔王が引っ越してきた。魔王だ。マッチョすぎるから魔王とあだ名がついたのではない。角が生えていて真っ黒のマントをまとい肩にはカラスを乗せている。ちなみに空も飛べる。ご丁寧に引っ越しそばを持ってきたその魔王はこの町になじんだ。
夏織の家族からして「そりゃ角ぐらい生えてるわよ魔王だもん」「ここらあたりじゃ魔王が引っ越してくるなんて珍しくもなんともないでしょ」という。
魔王が引っ越してきて、何をするわけでもなく、何日か何十年か普通に暮らして戻っていく。ここはそういう土地らしい。

そういうただの日常系コメディだ。勇者は出てくるけど魔王と夏織の間にラブが生まれない。
本作は2015年にビーズログ文庫アリスから刊行されたもので、元は個人サイトで連載されていたオンライン小説。小説家になろうにも掲載されておりこちらには書籍版には収録されていないものも載っている模様。

となりの魔王(小説家になろう)

暁天の星 鬼籍通覧/椹野道流

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最近ようやく「いつか見る」リストにあったドラマのアンナチュラルを見た。見たと言っても今まだ完走はしてなくてあと2話残している状態。UDIラボという架空の研究機関で不自然な死を遂げたご遺体の解剖・死因の究明を進め、死の裏に隠された謎だったり事件だったりを解明していく物語だ。
でこれを見るにあたって思い出したのが鬼籍通覧だ。こちらは大阪府にあるO医科大学法医学教室に配属された新人伊月崇が先輩の伏野ミチルにしごかれ、ご遺体を解剖する。
ある日やってきたご遺体は線路に飛び込んだ若い女性に車に飛び込んだ若い女性。謎の共通点とは。

アンナチュラルに比べると欠損部位が多いご遺体が多いので、文字から状態を想像してしまうとうわぁ……となってしまう人もいるだろう内容でホラー要素を含むのでそういう意味ではちょっと読む人を選ぶ本ではあるんだけど、間に「飯食う人々」というインターミッション的ななごむシーンも挟まれている。

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