2021年

19 件

更新を始めて今号で1年が経ちました。今後もよろしくお願いします。今回は最近読んだ本の中から面白かった本や、「年の瀬感にぴったり」「まさに今この時期」な本の紹介です。

愛じゃないならこれは何 斜線堂有紀

短編小説集で恋愛小説。ただし「これが愛ではないというのなら何だというのか」という2人(時には3人)を描いた物語で、「出会ってすったもんだがあって結ばれる(もしくは別れる)」話ではなく、きらきらした感情より「執着」や「妄執」のような単語が似合う恋愛小説です。

例えばアイドルとオタク、舞台にあがった2人のように「君が生まれてきてくれてよかった」「私はあなたのベターハーフ」と恥ずかしげもなく言い合うビジネスパートナー、高校時代からの仲良しで社会人になった今仲良く遊んでいる3人、あなただけ見つめてるのノベライズかなと思うような、恋に狂わせて彼好みの女になるためいろんなものを捨てた女の話。

すごく好きな一文があって

愛は落ちたら終わりの崖ではなく、絶えず湧いては足を取る泉だった。

ネットスラングであるところの「沼」を最大限綺麗に描写するとこうなるんだなと思った。きれいな泥沼。新規の水が流れ込む沼。noteで連載されていた短編集だけど、書籍版には書下ろしがあってそれは3人組の話でその中に登場するのがこの一文です。
恋愛も沼ジャンル。

パラソルでパラシュート 一穂ミチ

先日M-1グランプリが放送されていましたが、これはまさにそれが登場する長編小説。
柳生美雨は大阪城ホールの最前で靴擦れの痛みに耐えながら、流れてきた一曲に心の中で拍手喝采した。人気バンドといえど世間的な知名度はそう高くないが、自分ベストヒットセトリではナンバー1の曲を聴けた。いまいちの盛り上がりの中、自分が好きなその曲を歌うカメラスタッフを見た。その人の声が聴きたいと見つめているとその男性はぱっと美雨のほうを見て、「ふんすい」という口パクを送った。終演後変な人間に絡まれまくりながら待ち、美雨は芸人の亨と出会った。

大阪難波の芸人が暮らす事故物件の一軒家を舞台に湧き上がる友情や別離や共同生活。
マシンガンのように撃ち合う関西弁の会話劇はテンポがリアルな会話のそれで、違和感がない。方言小説は自分になじみがある言語であればあるほど気持ち悪く感じられるものがあるけど、特に芸人同士の会話は文字を追いながら音声で聞こえてくるようなレベル。

星を掬う 町田そのこ

元夫は今日も暴力を振るいながら有り金を奪い取っていく。千鶴は夜勤のパン工場のまかないパンで食をつなぎながら日銭を稼ぐ。それでも生活には金がかかる。そこでラジオの企画に自分の夏休みの思い出を投稿した。母との最後の思い出は5万円と引き換えにコンテンツになった。それが転機になって千鶴は今度こそ元夫から逃れるためシェルターを利用しつつ、幼いころに出奔した母・聖子が暮らす「さざめきハイツ」で暮らし始めた。
母は若年性認知症を患っており、聖子を「ママ」と慕う恵真や聖子の身の回りの世話をする彩子が一緒に住んでいた。そんな風にさざめきハイツには「母娘風の組み合わせ」がいくつもありながら、実際は「普通の母娘」の関係が築けなかった人間が住んでいる。

胃が合うふたり 千早茜・新井見枝香

エッセイ。タイトルからすると作家と書店員によるグルメ巡りなエッセイだと思ってたらまあまあそうではなかった(一応食エッセイ書きませんかという話で始まったそう)。とても仲がいいふたりだ。新井さんは大阪や名古屋でライブがあると、ちょっと足を延ばして京都に住む千早さんのもとへ会いに行く生活を月に1回ほどしているそうだ。
Aというところに行った時の話を千早さん視点、新井さん視点から読める。ごはん中の話も多いが、千早さん視点の「新井見枝香という人について」、新井さん視点の「千早茜という人について」を読むのがなんかやたらと面白かった。エッセイなのにお互いを紹介する対談を延々読んでいたような気がする。

メダリスト つるまかいだ

これ漫画なんですけど今が派手に薦める時なので。
男子シングルからのアイスダンス出身、全日本選手権出場経験あり。なんとかフィギュアスケートにしがみついてきた司はある日出会ったフィギュアスケートをどうしてもやりたいという少女いのりに才能を見出し、コーチをやることを決めた。
2人分の人生を使ってオリンピックを目指す物語。既刊4冊今なら1巻電子書籍が無料で読める(21/12/25現在)

少し前にやっていたアニメのユーリオンアイスはいきなり世界のトップ6(グランプリファイナル)の話からはじまったけどこれはバッジテスト(ガチの初心者)からはじまる。

なんで「今が派手に薦める時」なのかといえば今はまさにオリンピックイヤー! 2月に北京オリンピックが控えており、そして今日(12/25)&明日(12/26)でフィギュアスケート男子シングル・女子シングル・アイスダンスのオリンピック出場者が決定します [1]ペアを除き、全日本選手権優勝者は無条件でオリンピックに出場確定です
男子は多分この3人だろうなというのはあれど、女子は7点差に7人 [2]うち2点差に5人がひしめいているというものすごい大混戦です。誰が優勝してもあり得るというのが今年。

あとわたしは4巻にある2A(ダブルアクセル)着氷するシーンを何回読んでも涙が出てしまうんですが、26日にあるはずの4A(クワドロプルアクセル)着氷の瞬間の情緒が心配。

References

References
1 ペアを除き、全日本選手権優勝者は無条件でオリンピックに出場確定です
2 うち2点差に5人

東京創元社から新レーベルが創刊されます。「創元文芸文庫」ではミステリ・ファンタジー・SF・ホラーなどのジャンルに収まらない文芸作品を刊行していきます、とのこと。
創刊ラインナップ第1弾は2022年に映画公開を控えた凪良ゆう「流浪の月」

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創刊日は2022/2/26です。
流浪の月以外の創刊ラインナップは古内一絵「キネマトグラフィカ」(3月刊)、町田そのこ「うつくしが丘の不幸の家」(4月刊)が発売され、7月より奇数月発売となるそうです。

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東京創元社が新たな文庫レーベル〈創元文芸文庫〉を創刊します|株式会社 東京創元社のプレスリリース

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2018年に1巻が刊行され現在累計部数90万部発行されている「後宮の烏」のアニメ化が発表されました。
放送時期等詳細は今後公開されるとのことです。
書籍 シリーズ別 後宮の烏 – 集英社 オレンジ文庫

先日最終号が発刊された小説ウィングスのWEB版が公開されました。
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新書館:コミック&ノヴェル[ウェブマガジンウィングスサイト]

現状公開されているのは

  • 津守時生「三千世界の鴉を殺し」
  • 嬉野君「続・金星特急 竜血の娘」
  • 縞田理理「トロイとイーライ」
  • 糸森環「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録

の4作の連載1話が読めて、新作連載は来年2月よりスタート。
金星特急めっちゃ面白いのでよろしくお願いします。ちらっと読んで面白かったら金星特急に遡ってくださいね~~~

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さて2か月ぶりの通常更新です。コロナ以降めっきり遠のいてしまった舞台です。

僕たちの幕が上がる 辻村七子

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バディストーリーと銘打たれているもののメインはカンパニー(顔合わせ~読み合わせ~舞台稽古~初日およびそれ以降)での物語。
ニチアサ出の身若手俳優 二藤勝に今をときめく人気の脚本・演出家鏡谷カイトからオファーが届いた。エンタメ性の高い時代活劇の主役、渋谷にある大きめの劇場で15公演、勝の得意な殺陣が多いというあまりにも破格の好待遇だ。

勝が舞台俳優としてどのように育っていくのか(育てられるのか)見られるのがいいし、時々目にしていた「暖簾を贈る文化」がどういうものなのか知れたのもいい。初日公演の模様も読めるので、2.5次元舞台通っている人には大変おススメの1冊です。客電が落ちた後の視界、スタオベの空気、舞台の感想を話しながら帰る余韻、自分は知っている。

電子書籍:○

仏果を得ず 三浦しをん

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本書は上方(大阪)で成立した古典芸能、文楽の義太夫(物語の語り部)健と三味線(物語のすべての劇伴を担当する)兎一郎の物語だ。
師匠の指示で組むことになったが、兎一郎は「実力はあるが変人」という評価が文楽の技芸員の間で一致している。大阪と東京をひと月ごとに行き来しその合間で地方公演へ赴き芸の道に精進する。こっちは間にちょいちょい男女のあれやこれやの機微の話が多く含まれる。古典芸能だしととっつきにくさはあると思うが、面白い芸能なのでぜひとも一度ご覧ください。
今なら動画配信で手軽に見られる演目もあります。
【錦秋文楽公演】動画配信中!! | 独立行政法人 日本芸術文化振興会
「蘆屋道満大内鑑」や作中で登場する「ひらかな盛衰記」が見られます。

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文楽参考図書としてはこちらがおすすめです。

赤×ピンク 桜庭一樹

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東京・六本木、廃校になった小学校の中庭は夜毎に熱気であふれる。八角形の檻を照らす眩しい光、派手な衣装に手錠を付けた女性による非合法キャットファイトが行われている。完全会員制ガールズブラッドのリンクに立つ3人の女性の物語。
「まゆ」「ミーコ」「皐月」はそれぞれこの地下キャットファイトクラブで生きることや格闘技について考えたり悩んだり魅せられたりしながら今夜もリンクに立つ。

サーカス団長シェイクスピア 紅玉いづき

サーカス団長 シェイクスピア(紅玉いづき) – カクヨム

先日コミティアで告知され、カクヨムで連載が開始された「ブランコ乗りのサン=テクジュペリ」の前日譚です。

震災復興目的で湾岸地域へ誘致されたカジノ特区には客寄せの少女サーカス団がある。
花形の演目を任されるのは曲芸学校をトップ卒業したエリートのみ。ブランコ乗りのサン=テクジュペリ、猛獣使いのカフカ、歌姫アンデルセン、彼女らは文豪の名前を戴き演目を背負う。花の命のようにほんのわずかな間、曲芸子としてスポットライトを浴び、新たな曲芸子へ代替わりする。

「サーカス団長シェイクスピア」で語られるのはその少女サーカス団が産声を上げたころの話。彼女らはどのようにして文学者の名前を背負うことを決めたのか、今は夜毎に満席となる公演の、最初はどうだったのかというのが読めます。

今のところ毎日更新で第2章からはゆっくり更新とのこと。これだけでも読めます。なお今作は商業ベースの作品ではないので「本になったら読もう」ではいつになるか分からないしその日が来るかどうかも分からないので、この冬のおともに是非。アプリなら更新通知が来るしブラウザからだったら縦書きで読むこともできます [1]アプリでは縦書き表示はできません

サーカス団長シェイクスピアの話をしたので、コミティア138で発行されていた同人誌の話をします。

紅玉いづきさん主宰同人サークル「少女文学館」の新刊として装丁がすごい本と、一定年齢以上の少女小説読みの間で話題沸騰の本が出ました。

「黄金と骨の王国」栗原ちひろ

少女文学で連載されていた作品が書きおろしをあわせて1冊にまとまりました。小口がすごい勢いで輝く本です。

黄金に輝く赤字本というツイートをコミティア後ものすごくよく見た。
黄金と骨の王国 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH
ここで買えます。11月25日現在在庫なしですが、現在追納中でそれが完売後は電子書籍へ移行だそうです。

現代怪談百物語 紅玉いづき

はと文庫オンラインvol.9 怪談と新作スペシャルで触れた池袋裏百物語の関連作、Twitterで連載していた怪談の再録本で、基本そのままで「あとがきにかえて」が書き下ろしです。

この本は「本文真っ黒本なんですが、黒い紙に白インクではなく、白い紙に全ページ全面ベタを敷いたのだ……それで明朝体がくっきり出ている。エグい」という仕様の本です。

現代怪談百物語 – 栗原移動遊園売店 – BOOTH
ここで買えます。

「五月物語」「五月日記」津原やすみ

講談社X文庫ティーンズハート「あたしのエイリアン」が紙で復刊しました。最近は電子書籍で絶版本の復刊が時々見られるようになりましたが、紙で復刊はまだ珍しくロマンの塊みたいな1冊ですね。

こちらは津原泰水さんのboothで購入できます
五月物語&五月日記(プレミアム版) – 津原泰水文章講座 – BOOTH
プレミアム版は直筆サイン入りかつクリアファイルがついてきます。

同人誌の自由さを感じる3冊を紹介して今号は終わります。

References

References
1 アプリでは縦書き表示はできません

ちょっと今本が読めたり文章を書いたりがちょっと難しい感じなので縮小営業でお送りします。

薄幸な公爵令嬢(病弱)に、残りの人生を託されまして ~前世が筋肉喪女なので、皇子さまの求愛には気づけません~ 夕鷺かのう

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異世界転生ものです。

「立てば卒倒、座れば目眩、歩く姿は死に損ない」
体に見合わない強力な魔力を宿して生まれてきたクレハ・メイベルは日常生活もままならず、成人は難しいだろうと言われてきたが、成人を迎える16歳を前にして毒を盛られた。どうせ死ぬならと魔力を使い、同じく死を目前にした鳴鐘呉羽の魂をクレハ・メイベルの体に宿した。
クレハ・メイベルとしての人生を託された呉羽は女性ながら180㎝を超える高身長、趣味は筋トレ、生まれは総合格闘技の道場で現師範代と、並みの男性では到底勝てないレベルの強い女性だ。
「力は自分以外の誰かを助けるためにある」と育てられ、早くに両親を亡くし、弟を育て上げ結婚式の日を週末に控えたある雨の日、増水した川に流された少女を救って死んだ程度に自分の事は二の次に生きてきた。

既刊の中ではヤンキー巫女逢桜伝が近い。ラブコメにしては圧倒的にコメディと立ち回りの要素が強く、切れ者なのにシスコンが過ぎて圧倒的に残念なイケメン兄も登場する。
サブタイトルの求愛に関してはこの巻については要素が少ないので、「自分はここで死ぬということを認識した上で、突然『異世界の公爵令嬢クレハ・メイベル』としての人生を生きることになった呉羽が、『申し送りが少なすぎる!!!』とぼやきながらこの世界で生きていくための情報を得て模索する(そのための情報元としての第二皇子イザーク)」物語だと思ったほうが齟齬が少ないと思われます。

怪を語れば怪来たる 怪談師夜見の怪談蒐集録 緑川聖司

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元々ジュブナイルで怪談本をたくさん書かれている方で、大人向けの本はこれが初めてですというツイートを見かけましたが、作風はあまり変わりすぎない感じです。ポプラポケット文庫の本の怪談シリーズがおすすめです。

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そっちと違うのは怪談が生まれる瞬間のような、遺体の描写がしっかりしているところです(でもそんなグロい感じではありません。児童向けに比べれば一般向けに描写がある、という感じです)

24歳の明里の結婚生活はモラハラにはじまり浮気相手の妊娠で3年で終わりを告げ、一時の実家生活を挟んで格安アパートでの再出発を遂げた……のだが、入居初日から深夜に隣室から壁が殴られ続けるという事案が発生した。不動産屋いわく自己物件ではない、しかも明里の部屋の隣も下も斜め下も空き部屋であるというのに、だ。
仕事帰りに「高校が一緒だった美佳だよ」と同年代の女性に声をかけられ、喫茶店でこのトラブルのことを話し、最近流行ってるんだよこの人に相談してみたら、と見せられたWEBサイトが「怪談師夜見」だ。霊は見えるがお祓いはできないという彼に追いすがって明里は自分の部屋を見てもらうのだが……という1話。
これは1冊できれいにまとまっているし、続きも読みたい1冊。

9月は怪談とともにあった月間でした。

池袋裏百物語 明烏准教授の都市伝説ゼミ

「池袋裏百物語 明烏准教授の都市伝説ゼミ」(原作:紅玉いづき)という朗読現場+配信舞台がありました。本作は2日間昼夜4公演で、その昼夜で役柄交代がある舞台でした。
推し作家が原作で、普段ラジオでしか声を聴くことがない [1]声優であることは知っているが普段どういう作品に参加しているのかいまいち存じ上げない方々参加しているのならそれは聞くしかないでしょう。

のちに完売が伝えられた小説現代に原作が掲載されています。紙書籍の入手難易度はかなり高いと思いますが、電子書籍の販売はあります。

作中作の怪談はこちらでまとまっています。電子書籍オンリーです。

配信自体はアーカイブを含めてもう終了していますが、当時はリアルタイム配信以降アーカイブで10日ばかし聞けたので毎日のように聞いてました。
これも1冊にまとまってくれるとうれしいなあと思いつつ。

ゴーストリイ・サークル 呪われた先輩と半端な僕 栗原ちひろ

3月になってようやく大学の合格通知がきた浅井行は「今!?」と言われつつアパートを探し引っ越しを終えた。思えば行は幼い頃から半端に怪異が見えてしまう人間で、引っ越したその日奇妙な現象に襲われた。その状態の行を助けたのは上の階に住む先輩、出会って一目惚れした瀬凪ほのかで、彼女は除霊ではなく「怪異をやり過ごす」共存する方法を提案した。
瀬凪もまた見える人で、怪異に悩まされる立場の人間だった。

ホラーと銘打った文庫作品ですが、そこまでおどろおどろしい描写があるわけではありません。元々ビジュアルを想起しやすい文体の作家なので、多少不気味さを覚えるシーンはありますがこればかりは相性の問題だと思います。恒川光太郎作品が好きな人はたぶん大丈夫です。
本作のみ現状電子書籍はありません。

怪談徒然草 加門七海

実話系怪談集。体験なのでそんな「驚かせてやろう」みたいな話はなくて、「ちょっといい話」から「なにそれめっちゃこわい」まで収録されています。
わたしは「怪談が読みたい」と言われたらこの本をおすすめしているのですが、その理由は内容もさることながらこの本を読むと大変奇妙なことが起こっています。
一度目に読んだときは異常に天井がみしみしと鳴っていました。古い木造家屋なのでそういうこともあるでしょう。でもその日は風があるわけではなく、普通の静かな夜でした。
二度目に読んだのは貸出処理を行わず、図書館で読みました。読んでいる間中ずっと誰かが目の前に立っている感覚があったんですが、見渡す限り、かなり広い図書館の端まで見ることができましたが、誰もいませんでした。本を読むとあんなにもそこに誰かがいる感覚がしたのに。

つばめ館ポッドラック ~謎か料理をご持参ください~ 竹岡葉月

将来を嘱望された元柔道女子×料理男子

膝の故障で普通の女子大生になる道を選んだ沙央が入居したのはレトロな洋館アパートで、月1で料理持ち寄りのパーティが行われている。ある者は手の込んだ料理を、ある者はデパ地下の惣菜を持ち込み、料理が持ちこめない者は食事を彩る謎の提供を、と入居時に主催者の大家に説明された。
といってもパーティはメイン過ぎず、沙央が同期入居者で口さがない宗哉の手料理を食べ女子力向上のための教えを請い、大学生活を堪能する物語です。学生アパートで起こるあれこれ+日常の謎系ライトミステリ。パーティに持ち込まれる謎は消えた女の謎、暗号で女装男子も出ます。

派遣社員あすみの家計簿 青木祐子

コロナ禍の派遣社員の生活

Pixivのキャプション的注意ですが、本作は2020年以降コロナが理由で雇用関係で変化があった(特に派遣切りに遭った)人が読むと当時のフラッシュバックがあるかもしれないのでご注意ください。

寿退社後に婚約者に逃げられカードの支払いに苦しみ日雇いの仕事でなんとか生活を立て直すアラサーOLの話。2冊目ですがここからでも読めます。ちなみに「悪性のインフルエンザ」として表現されるパンデミック下、現実の2020年以降東京とリンクした物語です。
無職を脱して派遣社員としての職を得て、家計簿をつけていてもやっぱり金銭感覚がちょっとおかしいあすみが副業でウーバーイーツの配達員をはじめる「非正規はつらいよ」物語です。
あすみは男運は悪いけど仕事的には周囲の人の助けもあってたくましく生きていくので、そういう世情でも過度にしんどくはない、でも現実過ぎるので読めない人は確実にいるだろう物語です。

References

References
1 声優であることは知っているが普段どういう作品に参加しているのかいまいち存じ上げない

今年は祭りも花火もないから8月ショートカットでいいわと思っていたら2週間も雨が降り続くって誰が思うだろうか。気が付けば最後に都会(本州)へ出てからもう2年がたって、特に今月先月は猛暑からの大雨で外出が極めて控えめになっていたら日本全国大変なことになっている。もうちょっと引きこもって生きていく所存。

ということで今月はテーマ相棒なんですが、とても面白くて時期的にも今でしょという1冊と出会ったのでこれから。

あめつちのうた 朝倉宏景

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トンボに3年、散水3年。神整備の裏側

2年ぶりの夏の高校野球が開催された今年は悪天候に振り回されている。雨天中止にノーゲーム、一時中断が多い今年は例年になく阪神園芸の名前を目にする機会が多い。本書はその阪神園芸の甲子園グラウンドキーパーの1年を書いた小説だ。
「神整備」と称されるにいたるまでどれほど地道な修行が必要か「甲子園の整備と芝生の管理」というのがどれほど職人芸の世界なのか、甲子園球場を見る目がちょっと変わる1冊。甲子園は阪神タイガースの本拠地でもあるので、現在パリーグで活躍中の選手を彷彿とさせる選手やタイガース生え抜き選手の引退セレモニーも登場する。タイガースファンとしては違う視点で読めるところも大変素晴らしい。
主人公は運動はからっきしだがマネージャーとして夏の甲子園ベンチ入り経験のある雨宮。またここに戻ってきたいという熱意で高校卒業後入社した巨人ファンだ。怒られしごかれながらグラウンドキーパーとして育っていく。
kindleでスピンオフ短編が無料配信中。こちらは雨宮と衝突を繰り返す元高校球児長谷が主人公。

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電子書籍:○

EAT 悪魔捜査顧問ティモシー・デイモン 田中三五

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特殊部隊出の捜査官×人肉を食らう異形の殺人鬼

富士見ノベル大賞佳作受賞作。
人外の化物が引き起こす事件を極秘裏に捜査をする部署がFBIに発足した。ひとりはニューヨーク市警特殊部隊出身で、9人が殉職した事件の生き残りのミキオ。もうひとりは57人を殺して食べた殺人鬼、本物の人外(ノンヒューマン)ティモシー。司法取引で自由を得る代わりに捜査に加わるティモシーの見張り兼相棒兼同居人としてミキオの新生活が始まる。

バディアクションが好きな人にはお勧めの1冊。
ウェンディゴという人肉を食らう種族のティモシーは、ミキオに対して自分への恐怖心があることを認めたうえで同居人としての相互理解を深め価値観や生活様式の違いについて譲歩を求めている。突っぱねるミキオに私は私だと認めてほしいと願う。
物語のメインは捜査とノンヒューマンの制圧と事件の解決だ。登場するノンヒューマンはウェンディゴのようなフィクションでは聞き覚えのない異形ばかりで新鮮で、ティモシーは飄々とした食えない男でとても魅力的。続刊を期待したい。

電子書籍:○

ある小説家をめぐる一冊 栗原ちひろ

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幻想小説×生きる偏差値が低い小説家×介護する編集者

編集者生活に見切りをつけようと思っていた田中庸は、同期に勧められた小説家些々浦空野のデビュー作に心をつかまれた。次作を求めて2回目の訪問でようやく対面することができた空野は「自分が書いたことが現実になる、子供の時からそうだ」とデビュー作をずっと直しているという。原稿をとりたい庸は甲斐甲斐しく料理を作りベッドから起床を促しラジオ体操をしましょうという。
コメディ要素がある一方でいない猫の気配を感じ、屋敷の匂いをかぎ、廃墟を彷徨い、別の人物の視点を通して世界を見る。作中至る所に白昼夢のような描写が差し込まれていて、現実と幻想が交差する瞬間がとてもいい。

電子書籍:○

マルタ・サギーは探偵ですか? 野梨原花南

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日本育ち異世界在住の探偵(※推理はしない)

高校を辞めた夏のある日、鷺井丸太は偶然迷い込んだ謎のコンビニで「カード戦争」のプレイヤーとなり、よりややこしい方向へ丸太を導いたアウレカとは離れ単身霧の街オスタスに投げ出された。所持品は事件を強制終了させる「名探偵」のカードのみ。
今後は社会の手暑い庇護のもと生きていくと考えていた鷺井丸太は、この世界でマルタ・サギーとして生計を立てていくことになった。

富士見ミステリー文庫で刊行され2012年完結後、2014年富士見L文庫で全面改稿のもと復刊された。しかしシリーズ途中で刊行が止まり、自費出版(同人誌)で出版された。そのため今から触れるのならば富士見ミステリー文庫版がおすすめだが、富士見L文庫1巻に登場する「レド・ビァ事件」はかつてあとがきでは登場しただけの語られない事件だったので、ぜひこっちも読んでほしい。ちなみに富士見ミステリー文庫は全巻Kindle unlimited対象作品だ。

政と源 三浦しをん

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水辺の町の人情物語

東京都墨田区Y町在住のつまみかんざし職人源二郎と幼馴染で元銀行員の国政(ふたりとも70代)の日常の話だ。性格が違えば生き方も違う。ふたりは戦前戦後の長い時間、時折喧嘩をしながら同じ時間を暮らしてきた。心から愛した女と添い遂げ今は若い弟子を育てている源二郎を内心羨みつつ、仕事に身を捧げてがむしゃらに働き休日は家族を顧みない不器用な生活をした結果、孤独な老後となった人生を国政は時折顧みている。
源二郎の弟子、徹平とその恋人マミの応援や指導をする話もあり。登場人物の心情に寄り添った日常の話が読みたい人に。

電子書籍:○

今号は以下のnoteをお手本に書きました。
『このラノ』式、ライトノベル400字レビューの書き方|岡田勘一[編集者・ライター]|note

オリンピック始まりましたね。とりあえず今環境音楽としてサーフィンの配信を流しています。今のところ競技中に突然推しが作った曲が流れたのが最大のハイライトです。ありがとうアメリカのアーチェリー選手。

ちょっと宣伝です。2010年に同人誌として頒布した「この少女小説がすごい!」をKindleで電子書籍として復刊させました。kindle unlimited対象書籍です。何分2010年当時の本で、絶版になっている本もあるので巻末に電子書籍有無リストも作りました。何を扱ってるかは試し読みで目次が全部読めるのでそちらでご確認ください。

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>おいしいベランダ 竹岡葉月

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完結おめでとうございます、のベランダ園芸からはじまったラブコメ。

大学進学といとこの海外赴任を機に一人暮らしをはじめた栗坂まもりは、お隣さんのイケメンスーツ亜潟葉二にひそかにときめいていた。
「時々話をするご近所さん」だった2人がもう少しお近付きになったのは栗坂違いでストーカーが警察沙汰を起こした深夜のことだった。夕食を事件のさなかに失い空腹のまもりは祝杯を挙げる予定だったという亜潟家に招かれた。
ベランダ農園からむしった野菜と半額の刺身でつくられた海鮮丼、具だくさんの味噌汁、蒸篭で蒸されたサラダと、インスタントではない温かいみそ汁にまもりは「わたしもこんなていねいな生活がしたかったのに」と涙を流し、葉ニは「お前は思い違いをしている」と多忙でこまめに買い物をするのは無理だけどちゃんとしたものを食べたいとうベランダ園芸沼一直線の話を聞かされる。

ライトな語り口で読みやすく、「隣に住んでいる人のごく当たり前の日常や人生の岐路」をのぞき見するかのような地面に足がついた物語。1巻は大学入学直後ですが、最終巻はそこから約5年ほど過ぎた話です。

電子書籍:○

ここからは「夏といえば」小説特集です。

トッカン 特別国税徴収官  高殿円

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夏休みっぽい本1。
中学校だったか高校だったか不確かですが、税金に関する作文を書かれていたなあという思い出。その辺の記憶と直結するのが本書トッカン。トッカンの舞台もこの作文の主催元も同じ国税局(の支店)。タイトルのトッカンとは「特別国税調査官」の略称であり税金警察「徴収官」の中でも特に悪質な滞納者をターゲットにする。

東京国税局京橋地区税務署の新米徴収官、鈴宮 深樹通称ぐー子は、国税局からの出向してきた特別国税徴収官の鏡 雅愛付の事務官として差し押さえ業務などに連れ出されつつ、税務署や事業所を訪問して一般市民からの滞納相談や督促などを行っている。

「悪どい滞納者と凄腕税務官」のようなわかりやすい2時間ドラマ的勧善懲悪構造ではない。確かに意図的に脱税している人物もいるが、消費税を払えず健康保険も払っていないから病院にもいけないカツカツの生活をしている自営業者も出てくる。

雲は湧き、光あふれて 須賀しのぶ

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夏といえば高校野球。今年は開催できているようで [1]それでも棄権せざるを得ない話はよく聞くがよかった。高校野球がテーマで、3編入りの短編集。

故障を抱え1打席だけバッターボックスに立てる超高校級スラッガー益岡と、自称「3年のヘタレ組」監督曰く走塁センスがある須藤の物語でこれはスポ根の王道。「ピンチランナー」

甲子園を目指すのは何も高校球児だけではない。
スポーツ専門の蒼天新聞社に入社して3か月、新人記者にとっては夏の地区大会は登竜門だ。埼玉県の強豪東明高校と1回戦で当たる三ツ木高校は毎年1回戦敗退の弱小校だと言われている……が泉千納(いずみ・ちな)は三ツ木高校のピッチングに驚き取材に向かう。「甲子園への道」

昭和9年にベーブルースと沢村栄治の一戦を観戦して野球に魅せられた少年。野球を愛し、甲子園を目指す彼に立ちはだかったのは戦争だった。「雲は涌き、光あふれて」

ちなみに3本目の表題作がお好みの方はぜひとも夏空白花をお読みいただきたい。

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夏の終わりに君が死ねば完璧だったから 斜線堂有紀

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夏の物語。平たくいうと難病ものです。

「多発性金化筋繊維異形成症」通称金塊病は発症後少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されこの骨が金 [2]moneyではなくgoldに極めて近い物質へ変化する。そうして生まれた金は天然の金と並べても科学的に区別がつかない代物だ。
類のない病気のため国は献体を求めているが、人間が金に変質した場合もそれは「人間」なのかそれとも金と同じ組成をしているから「金」なのか。あまりにも価値がある物質である場合でも、遺体に値段を付ける付けないという発想は冒涜なのか、結局「金塊病患者の献体」は相応の金額が支払われることになった。その額、およそ3億円にのぼる。

片田舎の昴台の有り余る自然と停滞する経済を回すために、金塊病患者を収容・治療するサナトリウムが建設された。
少年江都はこのサナトリウム唯一の患者弥子と出会い、「自分にチェッカーで一度でも勝つことができれば遺産を相続させよう」と持ちかけられる。遺産とはつまり死後、この体が金塊に変わったあとの話だ。

これはネタバレのようでネタバレにはならないと思うし、そこで結構読むか回避するか決めると思うので書くんですが、奇跡は起きません。死にます。「人間の感情は証明できるのか?」「人生の正解とは」といった物語です。

DIVE!! 上下 森絵都

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オリンピック開催中なのでオリンピックを目指すアスリートの物語。結構昔の話なので彼らが目指しているのは「シドニー五輪」で、児童向け文学としてまず刊行され、大人にもおすすめだと角川文庫入りした後もアニメになったり舞台になったり割と最近ドラマにもなったりして円盤発売を控えていたりと、何らかの形で触れたことがある人もいるかもしれない。

物語は存続の危機に立たされた弱小ダイビングクラブに所属する高飛び込みの少年たちが主人公。クラブ存続のための条件はオリンピック出場。高飛び込みって普通に生きているだけではおそらく触れることはまれな競技で、もしかしたら地元ローカル枠で有力な選手がいたら競技のシーンを見るかもしれないっていうレベルなんだけど、競技のシーンがすごくいいんだ。
青春をかなぐり捨ててスポーツに打ち込む3人の少年の成長・葛藤・意地の張り合いとかそういうのが好きで、今まで読んだことがないっていう人にはぜひとも読んでほしい1作。

References

References
1 それでも棄権せざるを得ない話はよく聞くが
2 moneyではなくgold

「テーマ:SF」って言いきった今回。
6回目の連載にしてまだ方向性を絶賛模索中なんですが、今回は「あいのかたち」がすごくよかったので「今号はSF特集やる?」と本棚を眺めてきました。
普段SFはあまり読まないので最近の作品がなくて、実質過去の名作特集です。

あいのかたち マグナ・キヴィダス 辻村七子

前作マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年の直接の続編なのかと思えば一回転半ひねった感じの短編集。前作はSFベースのキャラ文芸(この場合はキャラクターをたたせた文芸作品のこと)だったけど、あいのかたちは収録された5編とも硬い仕上がりだ。

世界はテンペストと呼ばれる自然災害でで北半球と海の3分の1は壊滅状態に陥った。災害が引き起こすあらゆる死で人口は120憶から3分の1以下にまで減った。ヒト絶滅を危惧した科学者は禁じられていたクローンを全面解禁・医療技術の発展は寿命を120年から200年へ延ばし、テンペストから150年後、アンドロイドが生まれた。
そういう世界での物語だ。

ジナイーダ:オレンサル氏と氏の孫が置き去った中古のアンドロイド「ジナイーダ」について
ピクニック:死にかけた1人の男とその男の存在に気付いた一体のアンドロイド。助かったと思った男の問いにアンドロイドは答える。「自分はレスキューではないので助けられないが、傍を歩くことはできる」「あなたに選べる道は2つです。ここで死ぬか歩いて死ぬか」
マーダーケース:一人の天才が死んだ。彼女はなぜ死んだのか
エピタフ:一世代限りのクローン個体集団について
ジナイーダreprise:ジナイーダのその後

「愛とは」「生きるとは」「人間と良き隣人アンドロイド」という話をずっとしている。アンドロイドは自分を害されても人間を害することができない。自殺に及ぶ人間を放置することができない。ピクニックが特にいい。240キロにわたる死出のピクニック。人間とアンドロイドの違いとは。

電子書籍:○

カスタムチャイルド 壁井ユカコ

16年前の作品。多分紙書籍で新刊を手に入れるのはすごく難しいと思うけど電子書籍はあるので。
遺伝子操作が一般的になって「金髪碧眼の日本人」に人気が集中し逆に黒髪黒瞳の人気が盛り上がってきたような時代。
ある朝大学生の三嶋は中学生ぐらいの下着姿の少女にカッターナイフを突きつけられた。昨日成り行きで泊めた推定家出少女だ。どう考えても関わるのは危険だったが、治安の悪い駅で放置するわけにもいかなかったが朝になってみればこのざまだ。
この2人の出会いは6月29日。まさに今ぐらい。今ぐらいに始まって夏とともに終わる物語。よいボーイミーツガールです。
       
電子書籍:○

君と時計と嘘の塔 綾崎隼

全4冊のタイムリープミステリ。

幼馴染にして好きな女の子、かつて小学生だった自分が陥れた芹愛が死んだという最悪な夢を見た日、綜士は夏休み明けの教室に異変を感じた。親友がいない。欠席なのか不登校なのか、担任に問いただしてみればおかしな回答が返ってきた。
「海堂一騎なんていう生徒はこのクラスには存在しない」
自分が作り出した幻だったのか、病気なのか、あらゆる状況証拠がそれはありえないと思っていても狂ってしまったのは世界ではなく自分なのではないか。
そして綜士は草薙千歳・鈴鹿雛美というこの事態に立ち向かう味方と出会う。
千歳は5年前この白鷹高校付近で発生した、気象庁にも存在を認識されていない大地震の謎を解きたい。
雛美は自分は数度タイムリープを繰り返しておりそのたびに綜士と同じ「大切な人の存在が突然消える経験」をしているという。

電子書籍:○

チグリスとユーフラテス(上)(下) 新井素子

SF、という観点で本棚を眺めているとこれを紹介しない理由がなかった。
電子書籍は存在しないけど絶版ではない様子なので未読の方はぜひご一読いただきたい。

地球から惑星ナインへ移住した人類は人工子宮を活用し世界に繁栄をもたらした。宇宙歴220年を超えたあたりから徐々に人口が減りはじめ、生殖能力に問題がある者が増加し人口は一転下降に転じ、惑星ナイン最後の子供「ルナ」が誕生した。老女ルナはコールドスリープで眠りについている惑星ナインの女を次々に起こしていく。ルナによって起こされた彼女らは、生まれてからコールドスリープで眠りにつくまでにナインで何が起こっていたかを語っていく。これは惑星ナインの逆年代記。

電子書籍:×

それはお前が童貞だからです 凪良ゆう

これはBLです。
タイトルがインパクトありすぎですが、SFです。30を越えて女性経験のない男が魔法使いになりました。ノリはギャグかコメディかという感じで、要素はヤクザと麻薬と超能力と火サスのノリです。作中で「〇滅の刃」みたいな伏字での記述が出てくるのは地雷だったっていう人には薦められないんですが、振り切れたギャグも書く人なんだなということも知られてほしいと思います。

電子書籍:○

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