更新を始めて今号で1年が経ちました。今後もよろしくお願いします。今回は最近読んだ本の中から面白かった本や、「年の瀬感にぴったり」「まさに今この時期」な本の紹介です。

愛じゃないならこれは何 斜線堂有紀

短編小説集で恋愛小説。ただし「これが愛ではないというのなら何だというのか」という2人(時には3人)を描いた物語で、「出会ってすったもんだがあって結ばれる(もしくは別れる)」話ではなく、きらきらした感情より「執着」や「妄執」のような単語が似合う恋愛小説です。

例えばアイドルとオタク、舞台にあがった2人のように「君が生まれてきてくれてよかった」「私はあなたのベターハーフ」と恥ずかしげもなく言い合うビジネスパートナー、高校時代からの仲良しで社会人になった今仲良く遊んでいる3人、あなただけ見つめてるのノベライズかなと思うような、恋に狂わせて彼好みの女になるためいろんなものを捨てた女の話。

すごく好きな一文があって

愛は落ちたら終わりの崖ではなく、絶えず湧いては足を取る泉だった。

ネットスラングであるところの「沼」を最大限綺麗に描写するとこうなるんだなと思った。きれいな泥沼。新規の水が流れ込む沼。noteで連載されていた短編集だけど、書籍版には書下ろしがあってそれは3人組の話でその中に登場するのがこの一文です。
恋愛も沼ジャンル。

パラソルでパラシュート 一穂ミチ

先日M-1グランプリが放送されていましたが、これはまさにそれが登場する長編小説。
柳生美雨は大阪城ホールの最前で靴擦れの痛みに耐えながら、流れてきた一曲に心の中で拍手喝采した。人気バンドといえど世間的な知名度はそう高くないが、自分ベストヒットセトリではナンバー1の曲を聴けた。いまいちの盛り上がりの中、自分が好きなその曲を歌うカメラスタッフを見た。その人の声が聴きたいと見つめているとその男性はぱっと美雨のほうを見て、「ふんすい」という口パクを送った。終演後変な人間に絡まれまくりながら待ち、美雨は芸人の亨と出会った。

大阪難波の芸人が暮らす事故物件の一軒家を舞台に湧き上がる友情や別離や共同生活。
マシンガンのように撃ち合う関西弁の会話劇はテンポがリアルな会話のそれで、違和感がない。方言小説は自分になじみがある言語であればあるほど気持ち悪く感じられるものがあるけど、特に芸人同士の会話は文字を追いながら音声で聞こえてくるようなレベル。

星を掬う 町田そのこ

元夫は今日も暴力を振るいながら有り金を奪い取っていく。千鶴は夜勤のパン工場のまかないパンで食をつなぎながら日銭を稼ぐ。それでも生活には金がかかる。そこでラジオの企画に自分の夏休みの思い出を投稿した。母との最後の思い出は5万円と引き換えにコンテンツになった。それが転機になって千鶴は今度こそ元夫から逃れるためシェルターを利用しつつ、幼いころに出奔した母・聖子が暮らす「さざめきハイツ」で暮らし始めた。
母は若年性認知症を患っており、聖子を「ママ」と慕う恵真や聖子の身の回りの世話をする彩子が一緒に住んでいた。そんな風にさざめきハイツには「母娘風の組み合わせ」がいくつもありながら、実際は「普通の母娘」の関係が築けなかった人間が住んでいる。

胃が合うふたり 千早茜・新井見枝香

エッセイ。タイトルからすると作家と書店員によるグルメ巡りなエッセイだと思ってたらまあまあそうではなかった(一応食エッセイ書きませんかという話で始まったそう)。とても仲がいいふたりだ。新井さんは大阪や名古屋でライブがあると、ちょっと足を延ばして京都に住む千早さんのもとへ会いに行く生活を月に1回ほどしているそうだ。
Aというところに行った時の話を千早さん視点、新井さん視点から読める。ごはん中の話も多いが、千早さん視点の「新井見枝香という人について」、新井さん視点の「千早茜という人について」を読むのがなんかやたらと面白かった。エッセイなのにお互いを紹介する対談を延々読んでいたような気がする。

メダリスト つるまかいだ

これ漫画なんですけど今が派手に薦める時なので。
男子シングルからのアイスダンス出身、全日本選手権出場経験あり。なんとかフィギュアスケートにしがみついてきた司はある日出会ったフィギュアスケートをどうしてもやりたいという少女いのりに才能を見出し、コーチをやることを決めた。
2人分の人生を使ってオリンピックを目指す物語。既刊4冊今なら1巻電子書籍が無料で読める(21/12/25現在)

少し前にやっていたアニメのユーリオンアイスはいきなり世界のトップ6(グランプリファイナル)の話からはじまったけどこれはバッジテスト(ガチの初心者)からはじまる。

なんで「今が派手に薦める時」なのかといえば今はまさにオリンピックイヤー! 2月に北京オリンピックが控えており、そして今日(12/25)&明日(12/26)でフィギュアスケート男子シングル・女子シングル・アイスダンスのオリンピック出場者が決定します [1]ペアを除き、全日本選手権優勝者は無条件でオリンピックに出場確定です
男子は多分この3人だろうなというのはあれど、女子は7点差に7人 [2]うち2点差に5人がひしめいているというものすごい大混戦です。誰が優勝してもあり得るというのが今年。

あとわたしは4巻にある2A(ダブルアクセル)着氷するシーンを何回読んでも涙が出てしまうんですが、26日にあるはずの4A(クワドロプルアクセル)着氷の瞬間の情緒が心配。

References

References
1 ペアを除き、全日本選手権優勝者は無条件でオリンピックに出場確定です
2 うち2点差に5人