占い師オリハシの嘘 なみあと
[amazon asin=”B09X5751JK” kw=”占い師オリハシの嘘 (講談社タイガ)”]
占い師オリハシはよく当たると評判の女占い師だ。店を構えているわけではなくオンライン特化だが、一般人から芸能人に政財界まで広く支持を得ておりリピーターも多い。
ミステリアスで人並外れた霊感を持つと言われている占い師オリハシだが、実は失踪癖があり好奇心旺盛で首を突っ込んではトラブルに巻き込まれ、時折妹の折橋奏が代役をつとめていることは知られていない。
奏には占いの知識も神がかり的な能力もないが、占い師オリハシの代役を務めるときは占いとは違う方法(調査及び推測)で依頼人の未来を見通して、占い師オリハシの言葉として伝えている。
真の占い師オリハシである奏の姉、折橋紗枝はしばらく不在にするとき奏には「代役よろしくね」と言い、10年来の友人森重修二には「奏のことをよろしくね」と言う。奏はことあるたびに修二に愛を叫ぶが意にも解されず、依頼人の調査と事案の解決(および占いにしたてあげるためのそれっぽい動作)に奔走する。
オカルトミステリ、ただし霊感も知識も0の占い師代理とオカルトマニアによるミステリです。
みるならなるみ/シラナイカナコ 泉サリ
[amazon asin=”B09YRH67KM” kw=”みるならなるみ/シラナイカナコ (集英社オレンジ文庫)”]
集英社ノベル大賞受賞作。
中編2作収録でそれぞれ独立しているようで登場人物が一部共通しているなど、ちょっとだけ関係している。
みるならなるみ
高校になったら軽音部に入ってガールズバンドを結成しようと約束していた鳴海とチカ。
入学式直後キーボード担当とドラム担当を見つけ、「Genuine(本物)」が生まれた。経験者のみのバンドは軽音部では浮いていたが、毎日練習しオリジナル曲も作りライブに出演しフェスにもエントリーした。進路を考える頃、バンドに欠員が生まれた。期間限定のメンバー募集に応募してきたのはどう見ても男だ。ガールズバンドに男を加入させることの是非は話し合われたがマリヤの腕は確かなもので、どうせ短期間だからと加入が決まった。
シラナイカナコ
「運命共有教」という数十年前に生まれた新興宗教がある。全知全能の神マイマイを唯一神とし、信者間で生まれた子どもを選び「幸福の子」として崇めた。地球が2つに割れる日を「運命の日」と呼び信者のみが救われるという教義をもっている。日本とトルコとネパールで大地震が起きた日を教徒は「運命の日の予兆」と呼び、その日に生まれた四葉は「幸福の子」となった。異常な環境を日常とし、学校でインターネットに触れる時間を「教院」で暮らす四葉が世界と触れられる時間だった。
15秒のターン 紅玉いづき
収録短編で私が好きなのは「戦場にも朝が来る」と「この列車は楽園ゆき」。
前者は少女文学掲載時からも好きだったソシャゲと重課金の女の子2人の話。
「この列車は楽園ゆき」は高校生の話なんですが、不思議な感触の物語で、この例えが正しいかちょっと分かりませんがこれは私の感想なので好き勝手いうんですけど、「わたし10代時分にコバルト文庫でこういうの読んだ気がする」って思ったんですよね。別に類似作品があるわけじゃなくて、講談社ラノベ文庫の「パラダイスレジデンス1(野梨原花南)」を読んだ時もそうだったので、そういうスイッチがあるんだと思います。
冒頭「15秒のターン」で「高校生、毎日、ひかってる」っていうセリフがあるけど高校生、事件事故がなくても日常を描写するだけでもすごく輝いている。
あなたが女の子だったらよかった。
あたしが男の子だったらよかった。(P223)
良かったところ全部引用しているととても長くなるので、一番強いここを引用しますが、ここがエモエモの極みだし本作はここで終わらずこの後の、もう少女とは言えなくなった先の未来も描かれるのだ。
そういう意味で、コバルト文庫を読んでおおきくなって子どものひとりふたりいてもおかしくはない年齢に差し掛かった元少女(わたしのことです)がこういう作品を読むのはなんか感慨深い [2]要するにエモい、と思いました。
この作品、独立した短編ではありますが、「少女の物語はいつだってきらきらしている」「少女の物語があまりにもエモくて鋭利な刃物」だっていう共通点はありますので、そういうのが好きな人は思う存分めった刺しにされると思います。
うつくしが丘の不幸の家 町田そのこ
[amazon asin=”B09TSNL1Y6″ kw=”うつくしが丘の不幸の家 (創元文芸文庫)”]
25年ほど前に開発された新興住宅地「うつくしが丘」には900世帯ほど住んでいる。子育て面ではよい土地ではあるが、アクセスが悪く車をもたない家庭は苦労する立地だ。理容室を開業したい美保理と譲は住居兼店舗として築25年3階建ての中古住宅を買った。道路に面していて枇杷の木が大きく伸びている。
美保理は口さがない近隣住人に「ここが不幸の家と知って引っ越してきたのか」と言われひどく気落ちしていたところ、隣人の老婦人荒木信子に家に招かれた。
荒木信子は言う。「わたし、ずっとお隣に住んでいるけれど、『不幸の家』なんて呼ばれているの初めて聞いたわ」
物語は過去にさかのぼる。
かつて「不幸の家」の住人だった「何かしら問題を抱えていた家族」がこの家を退去するまでの顛末。ずっとこの家に住む家族を見ていた荒木信子が「そんな不幸そうには見えなかったけど」と言うのは正しかったのかどうか。
「誰にどんな事情があるのか、どんな理由でそうしたのか、そんなことは簡単に分かるものじゃないのよ。自分がまずたくさん経験すること、そして何度となく想像を巡らすことでようやく、真実の近くまで辿り着くことができるの。それを怠っている人に、そういう適当なことを吹聴されたくないわ!」
江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる 七沢ゆきの
[amazon asin=”B08R85G7QZ” kw=”江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる (富士見L文庫)”]
杏奈は両親亡き後必死に勉強して入学したいい大学を首席で卒業した。しかし「抗争で命を落としたヤクザの父」という家族構成が災いして母が望むようないい企業に入社することは叶わなかった。それなら推しの研究をしたいと、杏奈は史学の研究ができる大学院の学費を稼ぐために六本木のキャバ嬢として働いていた。
それがどういうわけか今、容姿や知識はそのままに江戸時代にいる。自分は今花魁で、ここは吉原で、花魁に2人も禿(かむろ)がつけられてるということは今は江戸中期~後期だろうとあたりをつけた。2人の禿(かむろ)、桜と梅に協力を頼みみとりあえず感染症対策から手を付けた。
会話文は時代小説で、地の文は「あたし」が語る口語の現代文だ。時代小説になじみがなくとも注釈が豊富に盛り込まれているので、タップで注釈が登場する電子書籍ならハードルは低い [3]紙書籍は都度紙をめくる必要がある。
江戸史を愛する深い知識、元ヤンとしての格闘能力、六本木ナンバー1キャバ嬢として君臨したコミュニケーション能力を駆使してこの時代で成り上がっていく。時代小説はとっつきにくいと思っている人にもおすすめできる1冊。
※注釈にも記載がありますが、作中には医療行為が登場しますが、創作上の都合も存在します。料理の再現はともかく医療行為は真似しないでください。