「行動制限のない夏」と言う単語を毎日のように耳にしている。年に1回、お盆の4日間だけ全国に名だたる観光地になる我が県は「最高に楽しい4日間」と並行で「地獄のふたが開いたような感染爆発」が発生した。現地絶対楽しいけど、明らかに危険であろうと想定できる場所へ赴くリスクを背負えない私はお盆は引きこもったまま暮らし本を読み漁っていた。
そんないろいろな夏の物語の詰め合わせが今回です。

汝、星のごとく 凪良ゆう

青野櫂と井上暁海、17歳。瀬戸内海の島で暮らしている2人の人生と、恋愛の物語だ。
櫂が生まれてすぐ父は胃がんでこの世を去り母子家庭で育った。母は男なしでは生きられない女で、恋人がいる時は息子でさえ放り出し、捨てられては泣き暮らすを繰り返している。今回も京都から男を追って櫂を連れて引っ越してきた。島唯一の、あからさまな水商売の家の息子だ。漫画を描くことを世界とつながっている。
暁海の父は浮気をしている。3年目の今年はついに父が家を出て、少しずつ家に戻らなくなり今は全く戻ってこない。相手は東京からきた人で今治で刺繍作家をやっている。専業主婦の母は暁海に「お父さんの様子を見てきて」と言いつける。
そんな2人の出会いから恋愛に発展するまで、恋人になってから、高校を卒業した後の生活について、2人の視点を交互に行き来しつつ長い時間が描かれる。
「自分で自分を養える、それは人が生きていくうえで最低限の武器です」と口を変えて語られ、真正面から男女の恋愛を描きつつ、これまでの凪良作品のように多様な家族の形を描いている。
夏に始まって夏に終わる物語だ。

深夜0時の司書見習い 近江泉美

八月最初の週末、美原アンは東京から札幌へやってきた。「籾さんが遊びにおいでと言っているから期限付きでホームステイしておいで。お父さんはお母さんに会いたいから上海へ行くよ」と送り出されたものの、汗だくで辿り着いた籾さんちでは、そんな約束はしていないと一点張りで突っぱねられた。気さくでいい人と聞いた「籾さん」は人相が悪いぶっきらぼうな青年セージひとりのみで、「図書屋敷に参られたし」と書かれたメールを見せた途端にセージはさらに強い口調で帰れとはねつけた。
同居のノトとリッカ夫婦がとりなし籾家で滞在が決まり、セージは「図書館にネットにつながるものの持ち込み禁止」「夜は部屋から出てはいけない」「猫の言うことを聞いてはいけない」と3つのルールをアンに厳命した。
異変があったのはその夜だ。
夢の中だと思った。アンは「仕事の時間だ」としゃべる猫に先導されるがままに鍵を手にして、不思議のアリスよろしくエプロンドレスを身に纏い図書迷宮に降り立っていた。
表側の世界、モミの木文庫所蔵の本が読まれることで裏側の世界「図書迷宮」の世界は変化する。愛読者がいる本は登場人物や著者の姿かたちが明確になって、図書迷宮で闊歩する。逆に読者が少ない本は存在が希薄になって灰色に溶けてしまう。
アンはこの「モミの木文庫」、近隣住民からは図書屋敷と呼ばれる私設図書館でしばらく司書見習いとして働くことになった。本を読む楽しみを知るビブリオファンタジーかと思えば、思わぬ展開に話は展開しきれいに着地する。ジブリ版耳をすませばの作中作が好きな人はたぶん好きだと思います。
ひと夏の冒険譚で、SNSの登場の仕方が現代風。

サマーサイダー 壁井ユカコ

幼い頃は三浦誉と倉田ミズは恵悠の子分だった。
3人の関係は緊張感をもったものになったり子分ではなくなったり形を変えつつも高校になった今も続いている。廃校になった中学校に残った備品の整理に最後の世代がかりだされ、最終的に残ったのは誉と悠とミズの3人。
3人が過ごした教室は卒業式の雰囲気をまだ残していた。2次会の出席や落書きが残された黒板を見ているとクラスメイトの声が聞こえてきそうなものの、室内は蝉時雨で満たされている。
干からびて花瓶に貼り付いた花が教壇に置かれていた。夏の日に教員宿舎で変死体として発見された担任に手向けられた花だ。3人の中学校の時の担任は「僕は蝉の幼虫なんだ」と蝉に傾倒した佐野青春という変わり者だった。
ひと夏の青春ホラー。