はと文庫オンライン本格始動から2周年です。何とか続けています。そろそろなんかひと動き欲しいので来年は進化の年になるといいと思っています。

君の地球が平らになりますように 斜線堂有紀

斜線堂有紀の恋愛短編集。
前作の愛じゃないならこれは何 と一部地続きで東京グレーテル(地下アイドルユニット)やクッカーズノッカー(レシピサイト×マッチングアプリ)も登場。
地獄のような恋愛短編集。
地獄といっても、「気が付いたら地獄だった」ではなく欲しいものが掴めるなら行く先が地獄でも構わないみたいなあれで、幸せをつかむのか何も残らないのか、分かりやすい二元論で終わるわけではないのがいい。

過激な自然派と陰謀論、地下アイドルと握手会、マッチングアプリ、ホス狂いと、現代の日本では割と身近な、見聞きしたことがあるものと恋愛要素とミステリ要素が組み合わさっている。特に「君の地球が平らになりますように」はのめりこむほどどんどん怖くなった。現代の「あなただけ見つめてる」(大黒摩季)みたいな物語なのだ。
サークルの人気者の壱船と彼に恋をしていた地味で冴えない小町。何も始まることなく終わった恋だったが、5年経っても忘れられず同窓会運営募集に飛び込んで再会できるように画策した。
かつて人気者だった壱船は自然派に傾倒し、輸入食品は毒、合成着色料は体に毒、カフェには白湯を持参しもめ事を起こす人物になっていた。まったく手が届かない存在だった彼を肯定するだけで小町は近寄ることができた。徐々にエスカレートしていく壱船をすべて受け入れ生きていくつもりだった。しかし、という話だ。

ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~  中村 颯希

Kindle Unlimitedでコミカライズ1巻が丸ごと読めたので、試しに読んでみたところとても面白かったので原作に遡った。

その昔血で血を洗う権力闘争があったが、ある王の代から後宮が整理され、妃は五家からのみ受け入れられることになった。その後生まれたのが雛宮である。五家と縁のある婚姻前の子女は、雛宮に入内し雛女(ひめ)と呼ばれる次代の妃候補として淑女教育を受ける。
妃は雛女の後見となりいかに雛女を育てるか、資質を競っていた。

が、今代の皇后はほぼ黄家の玲琳で間違いはないだろうと言われていた。病弱ではあるものの、整った容姿に学があり刺繍の腕や舞の才能にも溢れており、誰からも慕われ愛されていた。
しかし流星群の夜、玲琳の環境は一変する。高楼から落ちたかと思えば次に目が覚めたのは無骨な鉄と石に囲われた牢の中で身に覚えのない衣装をまとっていた。
そして目の前に現れたのは自分付きの女官で、彼女は睨みながら「朱 慧月」と呼んだ。
「離宮のどぶネズミ」と呼ばれ、女官からも蔑まれていた朱慧月と黄玲琳は入れ替わっていた。

誰からも愛される美貌と才能に溢れた病弱で令嬢なら投獄された時点で自害していたかもしれない。ただ玲琳は病弱がすぎる体であるため死があまりにも身近すぎたから、脆弱な身体にはあまりにも強すぎるメンタルが宿っていた。体力や強い胃腸を欲していた。
その結果ほぼ死刑になるだろう虎と同じ檻に入れられる審判で生存し、朽ち果てた元食糧庫に追放されても誰にも心配されない夢のような環境だと生活環境を整えた。

現皇太子に寵愛を受ける玲琳だが、恋愛要素はそこまでそこまで。
どちらかといえば強靭な(もしくは人並みな)身体を得た玲琳が生き生きをしている様はコミカルで面白い。シリーズものではあるが、1巻2巻である程度完結している。

あのこは貴族 山内マリコ

東京都渋谷区の高級住宅地に生まれ育った華子は、正月家族が集まる帝国ホテルでの新年会で恋人を一族に紹介するはずだったが別れてしまった。将来の結婚相手を探すべくいろんな人と出会い迷走し、時々は「専業主婦志望丸出し」の家事手伝いという肩書きに引かれ、最終的には姉の紹介でのちに結婚する青木幸一郎と出会う。
もう一人の主人公と言える時岡美紀は富山のごく普通の4人家族として生まれ育ち、大学進学を機に上京した。東京育ちの幼稚舎(小学校)からのエスカレート進学の内部生との金銭感覚に驚いたり見えない階級を意識したりする。なんやかんやあって夜の仕事に就くがそれでも学費が続かず中退し、今も東京にしがみついている。
本来なら出会うことはなかっただろう華子と美紀は青木幸一郎という共通点の元出会った。

本作は映画化もされているが、映画と比べて原作の華子は自我がある。映画の華子は上流階級の育ちでどこか浮世離れしたところがあるのだ。映画は結婚後の話も長いが、原作は結婚までが長い。というか「東京育ち」の女性と「地方生まれ東京に出てきた」女性の、葛藤や意識の変化や成長が見られる。

わたしは地方生まれ地方育ち、そしておそらく(よほどのことがない限り)都会で暮らすことはない人間だ。「地方」といっても度合いがあるが、わたしが住んでいるところは全国で唯一電車が走っておらず自動改札も未実装で、4階建て以上の建物は数えられるぐらいしかない程度の田舎に住んでいるので、そういう視点もあるよなあと新鮮な感覚が得られた。