今月はどうしてもこの話をしたいので、雑誌掲載の本の話をします。
サエズリ図書館のワルツさん 電子図書館のヒビキさん
かつて星海社FICTIONSから刊行されていた「サエズリ図書館のワルツさん」が帰ってきました。
紙魚の手帖という雑誌に短編が掲載されています。こちらの雑誌は電子書籍版もあります。
いろいろあって本が貴重品になった世界、紙の本は万人のものではなくなった。学校の図書館は本がガラスケースに入れて飾られるような時代だ。パルプが高騰し何度も「電子元年」を迎えた。データがあればそれでいいという人はいる。本好きを贅沢趣味だといい顔をしない人もいる。それでも本は死ななかった。
さえずり町にある私立図書館の特別探索司書 割津唯、サエズリ図書館のワルツさん。
本が文化財のようになった世界でも、誰にでも本を貸し出す図書館の責任者が彼女だ。
「サエズリ図書館のワルツさん」は「趣味は読書です」と目をキラキラさせていう人、電子書籍も便利でいいけどやっぱり本は紙の本じゃないとねという人、ずっと本を読んで育ってきたような人にはページごとに鈍器を振りかざして殴りかかってくるようなおっそろしい本である。
悲しい物語でもほっこりするような話でもない。ただ、本と一緒に育った人間には「痛いほど、その気持ちが、描写が、わかる」ということがあまりに多い本だ。あふれるようなその強い感情を持っていくところがないし咀嚼するのにも時間がかかる。その結果鈍器で丁寧に撲殺されるような本だ。
刊行された当時、約10年前は2巻のほうがより攻撃力が高かったが、今読み返してみると1巻のほうで不意打ちで泣かされることが多かった。
10年ぶりにあったワルツさんはびっくりするほどあの頃のワルツさんだった。
電子化をすすめてくださいという要望メールが山ほど届いても、紙の本が大切で、大切なものはみな重いという、本を愛する変わらない司書だった。
でもこの10年の間でわたしはずいぶん変わってしまったと思う。
より大人になり、20代の頃はばんばん本を買っていたのが仕事上の疲れで本を読めない時期があり [1]ちなみにこの「エンタメを摂取できない」病は退職することで劇的に改善したのでいかにあの労働が悪だったかというのがわかる、2代目のkindle購入により電子書籍利用が圧倒的に進んだ。
kindleのいいところは置き場所を考えなくていいので、ずっと手を出しにくかった単行本をぽんぽんと買えることだ。でもkindleは所詮「データへのアクセス権」が一時的に手に入るだけなので何があっても手元に置いておきたい本を紙で買うようになった。
大事なものをもっと大事にできるようになったということでもある。
そして悲しいことに、読みたいのに物理的に「読みづらい」本と出会ってしまった。
1と0と加藤シゲアキという本で、これは普通の文芸単行本と同じサイズで、「やりたいことを全部やりたいので詰め込んだ」という説明がふさわしく、2段組と言わず3段4段6段と多段組が多用されている。つまりものすごく文字が小さい。
10代20代前半の頃のわたしならたぶん喜んだと思う。なんせ当時あったファンロードという雑誌では掲載されているはがきをすべて、ページの両サイドにびっしりと書き込まれた文字も余すことなく読んでいた。
紙の本で読みにくいなら電子書籍という手段があるけど、ここは付箋を貼っておきたいと思っても、形式上ハイライトができない検索もできないしkindle端末ではまず間違いなく読めないし試し読みも出ていないので手を出せていない。
この先そうやって物理的にnot for meの本が増えてくるのかと思うとそれはそれで悲しい。
そうなったらサイズの大きな電子ペーパー端末を買おうか。タブレット端末推奨の電子書籍はiPad miniで読んでいるがサイズ上の問題で不便はあるのだ。
サエズリ図書館のワルツさん(星海社FICTIONS)は入手困難だけど、東京創元社から文庫化が進んでいる様子。令和のワルツさんの降臨を楽しみに待ちたい。
References
↑1 | ちなみにこの「エンタメを摂取できない」病は退職することで劇的に改善したのでいかにあの労働が悪だったかというのがわかる |
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