このビル、空きはありません オフィス仲介戦線、異常あり 森ノ薫

2022年ノベル大賞 大賞受賞作
オフィス専門不動産会社ワークスペースコンサルティング初の女性営業として咲野花が新卒入社して早半年、なんとか手にしたはじめての契約が目の前で壊れた。そして営業部から異動になった。営業からフロアを遠く離れたひとり部署の特務課への異動だ。花の新しい上司となる早乙女を評して営業部での上司、関ケ原は「早乙女さんと働けるなんて咲野はラッキーだよ」と言っていたが、花は左遷人事に対して慰められていると肩を落とした。
花が知っている特務課の仕事は「様々な問い合わせ」の対応、それも仲介会社がどうしようもない苦情や要望にコピペ対応をしているぐらいだ。
もう辞めようと思った。しかし慰留され花は最後にもうひとつだけ仕事をすることにした。花が押印までこぎつけて契約し損ねたソーイングネットワークジャパンの物件探しだ。しかし早乙女に渡された膨大な物件情報リストはソーイングの必要条件は満たしておらず疑念は深まるばかりだ。

表紙は男女であるけど、徹頭徹尾お仕事小説。花の行く先を一緒に進んでいったらここでこんな展開があるなんて、とミステリライクな構成がよい。

威風堂々悪女 白洲梓

瑞燕国の少女玉瑛は「尹族追放令」で下女として暮らしていた貴族の屋敷を追われた。50年程前尹族の柳雪媛が謀反を起こした結果誅殺されたことで、尹族は永遠に奴婢の身分に落とされた。雪媛は後宮で常に皇帝の寵愛を得、権力を増した結果故国の復興を目指したのでは、と伝えられている。
国を追われた夜、玉瑛は火事にまぎれて逃げ出したが王青嘉将軍に斬られ、雪媛への恨みを抱いたまま命を落とした……はずだった。目が覚めた玉瑛を人々は「雪媛」と呼んだ。
あれから7年、玉瑛は「昭儀」と呼ばれる皇后より2つ下のここ数年皇帝の寵愛を得ている妃の地位にいた。そして雪媛となった玉瑛は護衛として当時19歳の王青嘉を指名した。
異世界転生ではなく、過去へ遡る物語

錬金術師の密室 紺野天龍

ファンタジーとミステリの融合。
人類最後の神秘、物理法則さえ無視する神の叡智の結晶、錬金術は2000年前に神の子と呼ばれたヘルメス・トリメギストスによってもたらされ、常人には理解することさえ困難な秘術は世界に7名存在する錬金術師のみに扱える先天的な能力だ。
軍務省の新人少尉エミリア・シュヴァルツデルフィーネはメルクルウス・カンパニィで開かれる錬金術師の式典に参加せよと指令を受けた。その際錬金術関連特務機関の室長にして唯一の職員テレサ・パルケルススに帯同し内偵をせよという任務つきだ。
エミリア(堅物の男)とテレサ(女と酒が好きな女)が向かう式典では人類がいまだ到達していない〈七つの神秘〉が明かされるらしい。しかしその式典が行われる前夜、錬金術師の死体が三重の密室の内側で発見される。
ファンタジーは雰囲気づくりではなくトリックにしっかり関わる代物で、森博嗣初期作品が好きな人は多分好きだろう作品。