タイムリープ あしたはきのう(上)(下) 高畑京一郎

1996年に発行されたタイムリープものの傑作の新装版。

東高2年の鹿島翔香は遅刻ギリギリに本鈴と同時に滑り込んだらまず違和感を覚えた。
地学担当の藤岡先生が教卓に立っていた。今日は月曜だから1時間目は英語(リーダー)のはずなのに。仲の良いクラスメイトに聞いても今日は火曜だという。まったく記憶がないが、翔香は昨日も普通に登校していたという。
帰宅後、翔香がちゃんと月曜を過ごした証拠に「取った覚えない月曜日の授業のノート」が発見され、さらにたまにしか書かない日記には自分の筆跡で「あなたは今混乱している」「若松くんに相談しなさい」と月曜の日付で書かれていた。

若松和彦は進学校の東高でも抜群に優秀な頭脳を持っているクラスメイトだ。誰に対しても距離を置いており、女性嫌いかと思うほどとっつきにくい人間だがやることは何もかも完璧だ。
月曜日の記憶がない翔香には「クラスメイトの若松和彦と知らない部屋でキスをしていた」不自然な記憶もあり、火曜日中和彦を目で追っていた。翔香は水曜日、図書館にいた和彦に翔香は話しかけた。「私、一昨日あなたの家に行かなかった?」と。

「タイムリープ」の思い出というかなり長めのあとがき(もしくはエッセイ)がついてくる。この後あったメディアミックスの数々についても言及されている。

メディアワークス文庫内でもかなり薄い部類で、2冊合わせて300ページぐらい。SFが苦手でも読みなれなくても読みやすい(なぜなら「なぜ自分がこんな風になったのか分からない」という翔香に和彦は「それは……」と丁寧に解説し手助けするため)。
ばらばらだったピースがひとつひとつはまり、パズルが組みあがると物語の中央にあった謎が美しく解かれる。

砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない 桜庭一樹

3月下旬ごろのある日、お昼から夜のまあまあ早い時間までTwitterのトレンドの上の方に居続けた小説です。
話題になりかたが個人的には釈然としなかったので、取り上げない理由はないだろうという気持ちです。

この小説は人が死ぬ。それもまだ若干13歳で、殺されて、生涯を閉じる。
人が死ぬ小説を称して「鬱小説」という人はいるし、ハッピーエンドの小説しか読みたくない人もいるのも知っているけど、この「狭いく苦しい世界で、もがきながらなんとか生き抜こうとする少女の物語」は、広く読まれてほしい物語だ。しかもできたら年若いうちに。

ちなみにこの「人が死ぬ」ということはネタバレでもなんでもなくて、物語は新聞記事からの抜粋で始まる。
10月4日の早朝、鳥取県境港市にある蜷山の中腹で少女のバラバラ遺体が発見された。身元は市内在住の中学2年生、海野藻屑(13)、発見者は同級生のA子さん(13)、と。

海野藻屑は東京から鳥取の山田なぎさのクラスへ9月に転校してきた。自分のことを人魚だと名乗り、風変わりな喋り方に片足を引きずりながら歩いていた。転校初日のあいさつのあと、藻屑が歩いているところを花中島が足を引っかけて転ばせた。
ほんの一瞬で角度的にもなぎさ以外は見られなかったが、藻屑のスカートの中、下半身には殴打された数々の痣が散りばめられていた。
なぎさは母と引きこもりの兄と暮らしている。生活保護と母のスーパーでの稼ぎが山田家を支えている。なぎさはすぐにでも社会へ出たかった。傲慢で見え透いた嘘で子どもを丸め込もうとする大人になんてなりたくなかったが、自分は弱くみじめで戦う手段を何も持たないから早く大人になりたかった。
2人は言葉を交わして、ここから逃げようという話もしていた。その矢先のことだった。

この本のことについて書くといつも愛知県在住の友達の感想を思い出す。
なぎさと花中島と藻屑がバスに乗って町に行くシーンがある。中国山脈の奥地から出てくるバスに乗って、乗るときに切符を取る。その切符を証明として200円から1500円ぐらいまでの料金を支払う、というシーンだ。
友達はその料金体系がすごく不思議だったそうで、日本が舞台なのにファンタジーみたいだといっていた。
舞台と同じぐらいのレベルで住んでいる [1]シネコンはあるが、電車は走ってない。ICカードも使えない。バスは後ろ乗り前降り整理券を取って後払いわたしには予想外すぎる感想だった。

References

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1 シネコンはあるが、電車は走ってない。ICカードも使えない。バスは後ろ乗り前降り整理券を取って後払い