「テーマ:SF」って言いきった今回。
6回目の連載にしてまだ方向性を絶賛模索中なんですが、今回は「あいのかたち」がすごくよかったので「今号はSF特集やる?」と本棚を眺めてきました。
普段SFはあまり読まないので最近の作品がなくて、実質過去の名作特集です。

あいのかたち マグナ・キヴィダス 辻村七子

前作マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年の直接の続編なのかと思えば一回転半ひねった感じの短編集。前作はSFベースのキャラ文芸(この場合はキャラクターをたたせた文芸作品のこと)だったけど、あいのかたちは収録された5編とも硬い仕上がりだ。

世界はテンペストと呼ばれる自然災害でで北半球と海の3分の1は壊滅状態に陥った。災害が引き起こすあらゆる死で人口は120憶から3分の1以下にまで減った。ヒト絶滅を危惧した科学者は禁じられていたクローンを全面解禁・医療技術の発展は寿命を120年から200年へ延ばし、テンペストから150年後、アンドロイドが生まれた。
そういう世界での物語だ。

ジナイーダ:オレンサル氏と氏の孫が置き去った中古のアンドロイド「ジナイーダ」について
ピクニック:死にかけた1人の男とその男の存在に気付いた一体のアンドロイド。助かったと思った男の問いにアンドロイドは答える。「自分はレスキューではないので助けられないが、傍を歩くことはできる」「あなたに選べる道は2つです。ここで死ぬか歩いて死ぬか」
マーダーケース:一人の天才が死んだ。彼女はなぜ死んだのか
エピタフ:一世代限りのクローン個体集団について
ジナイーダreprise:ジナイーダのその後

「愛とは」「生きるとは」「人間と良き隣人アンドロイド」という話をずっとしている。アンドロイドは自分を害されても人間を害することができない。自殺に及ぶ人間を放置することができない。ピクニックが特にいい。240キロにわたる死出のピクニック。人間とアンドロイドの違いとは。

電子書籍:○

カスタムチャイルド 壁井ユカコ

16年前の作品。多分紙書籍で新刊を手に入れるのはすごく難しいと思うけど電子書籍はあるので。
遺伝子操作が一般的になって「金髪碧眼の日本人」に人気が集中し逆に黒髪黒瞳の人気が盛り上がってきたような時代。
ある朝大学生の三嶋は中学生ぐらいの下着姿の少女にカッターナイフを突きつけられた。昨日成り行きで泊めた推定家出少女だ。どう考えても関わるのは危険だったが、治安の悪い駅で放置するわけにもいかなかったが朝になってみればこのざまだ。
この2人の出会いは6月29日。まさに今ぐらい。今ぐらいに始まって夏とともに終わる物語。よいボーイミーツガールです。
       
電子書籍:○

君と時計と嘘の塔 綾崎隼

全4冊のタイムリープミステリ。

幼馴染にして好きな女の子、かつて小学生だった自分が陥れた芹愛が死んだという最悪な夢を見た日、綜士は夏休み明けの教室に異変を感じた。親友がいない。欠席なのか不登校なのか、担任に問いただしてみればおかしな回答が返ってきた。
「海堂一騎なんていう生徒はこのクラスには存在しない」
自分が作り出した幻だったのか、病気なのか、あらゆる状況証拠がそれはありえないと思っていても狂ってしまったのは世界ではなく自分なのではないか。
そして綜士は草薙千歳・鈴鹿雛美というこの事態に立ち向かう味方と出会う。
千歳は5年前この白鷹高校付近で発生した、気象庁にも存在を認識されていない大地震の謎を解きたい。
雛美は自分は数度タイムリープを繰り返しておりそのたびに綜士と同じ「大切な人の存在が突然消える経験」をしているという。

電子書籍:○

チグリスとユーフラテス(上)(下) 新井素子

SF、という観点で本棚を眺めているとこれを紹介しない理由がなかった。
電子書籍は存在しないけど絶版ではない様子なので未読の方はぜひご一読いただきたい。

地球から惑星ナインへ移住した人類は人工子宮を活用し世界に繁栄をもたらした。宇宙歴220年を超えたあたりから徐々に人口が減りはじめ、生殖能力に問題がある者が増加し人口は一転下降に転じ、惑星ナイン最後の子供「ルナ」が誕生した。老女ルナはコールドスリープで眠りについている惑星ナインの女を次々に起こしていく。ルナによって起こされた彼女らは、生まれてからコールドスリープで眠りにつくまでにナインで何が起こっていたかを語っていく。これは惑星ナインの逆年代記。

電子書籍:×

それはお前が童貞だからです 凪良ゆう

これはBLです。
タイトルがインパクトありすぎですが、SFです。30を越えて女性経験のない男が魔法使いになりました。ノリはギャグかコメディかという感じで、要素はヤクザと麻薬と超能力と火サスのノリです。作中で「〇滅の刃」みたいな伏字での記述が出てくるのは地雷だったっていう人には薦められないんですが、振り切れたギャグも書く人なんだなということも知られてほしいと思います。

電子書籍:○