今年は祭りも花火もないから8月ショートカットでいいわと思っていたら2週間も雨が降り続くって誰が思うだろうか。気が付けば最後に都会(本州)へ出てからもう2年がたって、特に今月先月は猛暑からの大雨で外出が極めて控えめになっていたら日本全国大変なことになっている。もうちょっと引きこもって生きていく所存。

ということで今月はテーマ相棒なんですが、とても面白くて時期的にも今でしょという1冊と出会ったのでこれから。

あめつちのうた 朝倉宏景

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トンボに3年、散水3年。神整備の裏側

2年ぶりの夏の高校野球が開催された今年は悪天候に振り回されている。雨天中止にノーゲーム、一時中断が多い今年は例年になく阪神園芸の名前を目にする機会が多い。本書はその阪神園芸の甲子園グラウンドキーパーの1年を書いた小説だ。
「神整備」と称されるにいたるまでどれほど地道な修行が必要か「甲子園の整備と芝生の管理」というのがどれほど職人芸の世界なのか、甲子園球場を見る目がちょっと変わる1冊。甲子園は阪神タイガースの本拠地でもあるので、現在パリーグで活躍中の選手を彷彿とさせる選手やタイガース生え抜き選手の引退セレモニーも登場する。タイガースファンとしては違う視点で読めるところも大変素晴らしい。
主人公は運動はからっきしだがマネージャーとして夏の甲子園ベンチ入り経験のある雨宮。またここに戻ってきたいという熱意で高校卒業後入社した巨人ファンだ。怒られしごかれながらグラウンドキーパーとして育っていく。
kindleでスピンオフ短編が無料配信中。こちらは雨宮と衝突を繰り返す元高校球児長谷が主人公。

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電子書籍:○

EAT 悪魔捜査顧問ティモシー・デイモン 田中三五

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特殊部隊出の捜査官×人肉を食らう異形の殺人鬼

富士見ノベル大賞佳作受賞作。
人外の化物が引き起こす事件を極秘裏に捜査をする部署がFBIに発足した。ひとりはニューヨーク市警特殊部隊出身で、9人が殉職した事件の生き残りのミキオ。もうひとりは57人を殺して食べた殺人鬼、本物の人外(ノンヒューマン)ティモシー。司法取引で自由を得る代わりに捜査に加わるティモシーの見張り兼相棒兼同居人としてミキオの新生活が始まる。

バディアクションが好きな人にはお勧めの1冊。
ウェンディゴという人肉を食らう種族のティモシーは、ミキオに対して自分への恐怖心があることを認めたうえで同居人としての相互理解を深め価値観や生活様式の違いについて譲歩を求めている。突っぱねるミキオに私は私だと認めてほしいと願う。
物語のメインは捜査とノンヒューマンの制圧と事件の解決だ。登場するノンヒューマンはウェンディゴのようなフィクションでは聞き覚えのない異形ばかりで新鮮で、ティモシーは飄々とした食えない男でとても魅力的。続刊を期待したい。

電子書籍:○

ある小説家をめぐる一冊 栗原ちひろ

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幻想小説×生きる偏差値が低い小説家×介護する編集者

編集者生活に見切りをつけようと思っていた田中庸は、同期に勧められた小説家些々浦空野のデビュー作に心をつかまれた。次作を求めて2回目の訪問でようやく対面することができた空野は「自分が書いたことが現実になる、子供の時からそうだ」とデビュー作をずっと直しているという。原稿をとりたい庸は甲斐甲斐しく料理を作りベッドから起床を促しラジオ体操をしましょうという。
コメディ要素がある一方でいない猫の気配を感じ、屋敷の匂いをかぎ、廃墟を彷徨い、別の人物の視点を通して世界を見る。作中至る所に白昼夢のような描写が差し込まれていて、現実と幻想が交差する瞬間がとてもいい。

電子書籍:○

マルタ・サギーは探偵ですか? 野梨原花南

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日本育ち異世界在住の探偵(※推理はしない)

高校を辞めた夏のある日、鷺井丸太は偶然迷い込んだ謎のコンビニで「カード戦争」のプレイヤーとなり、よりややこしい方向へ丸太を導いたアウレカとは離れ単身霧の街オスタスに投げ出された。所持品は事件を強制終了させる「名探偵」のカードのみ。
今後は社会の手暑い庇護のもと生きていくと考えていた鷺井丸太は、この世界でマルタ・サギーとして生計を立てていくことになった。

富士見ミステリー文庫で刊行され2012年完結後、2014年富士見L文庫で全面改稿のもと復刊された。しかしシリーズ途中で刊行が止まり、自費出版(同人誌)で出版された。そのため今から触れるのならば富士見ミステリー文庫版がおすすめだが、富士見L文庫1巻に登場する「レド・ビァ事件」はかつてあとがきでは登場しただけの語られない事件だったので、ぜひこっちも読んでほしい。ちなみに富士見ミステリー文庫は全巻Kindle unlimited対象作品だ。

政と源 三浦しをん

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水辺の町の人情物語

東京都墨田区Y町在住のつまみかんざし職人源二郎と幼馴染で元銀行員の国政(ふたりとも70代)の日常の話だ。性格が違えば生き方も違う。ふたりは戦前戦後の長い時間、時折喧嘩をしながら同じ時間を暮らしてきた。心から愛した女と添い遂げ今は若い弟子を育てている源二郎を内心羨みつつ、仕事に身を捧げてがむしゃらに働き休日は家族を顧みない不器用な生活をした結果、孤独な老後となった人生を国政は時折顧みている。
源二郎の弟子、徹平とその恋人マミの応援や指導をする話もあり。登場人物の心情に寄り添った日常の話が読みたい人に。

電子書籍:○

今号は以下のnoteをお手本に書きました。
『このラノ』式、ライトノベル400字レビューの書き方|岡田勘一[編集者・ライター]|note